★『中年以後』/曽野綾子/光文社知恵の森文庫人は、中年になってようやく人間としての眼力がつき、人生の価値判断が完成していく。肉体の衰えと引き換えに、魂が輝きを増す。−これは、「徳」のある大人の心を描いたエッセイです。著者は、若い頃から老成しており、41歳にして「戒老録」を綴りました。その後自分を律して生きてきた体験に基づき、本書では、人生の複雑さや味わい深さを、作家ならではの観点で分析しています。中年の入口にようやく足を踏み入れた私にとっては、道標とも言えます。「中年以後は人生がどうなってもよくない面があり、どうなってもそれなりにいい面がある、という不透明な面白さがわかるようになる」。挫折の連続であろう後半生に、心の片隅に留めておけば、立ち直りも早くなることでしょう。(橘まあこ) ★『いまを生きる言葉 「森のイスキア」より』/佐藤初女/講談社『ショコラ』という映画があります。これは、女主人公が、甘くてとろけるチョコレートで頑なな村人の心を開かせていくお話です。人間はおいしいものを食べると、少しずつ心が開かれていくもののようです。著者の佐藤初女さんも、おいしい食べ物で人の心を癒されてきた方です。彼女のおにぎりを食べて自殺を思いとどまった方もあったそうです。本書はそんな風に食べ物で人の心を開かせてきた佐藤さんの語録になっています。クリスチャンでもある彼女の言葉は、いのちについて語ります。「食べることは、いのちをいただくこと」。佐藤さんの言葉は、おいしい食べ物のように心を開かせてくれます。生きているのが辛くなった時、どうぞこの本を開いてみてください。物語ではありません。言葉がひとつひとつのお皿に乗っているだけではありますが、きっとお口に合う言葉が見つかると思います。「生活の中にこそ、祈りがあります」。私の心を開かせてくれた「おいしい」言葉でした。(ひなぎく)★『いのちに限りが見えたとき--夫と「癌」を生きて--』/星野周子(かねこ)/サイマル出版会 著名人や医者の闘病記録は多く世に出ていますし、一般人には考えられないような、その時々の最善の治療を受診出来る幸せに、彼等彼女等は恵まれています。そして、その書き手が本人自身の場合が大半のように思います。それが医師の場合は、専門用語が多く、問題意識も医師としての立場からの視点で貫かれています。本著は、脳腫瘍の世界的権威の医師が、胃癌から全身癌に侵されて亡くなるまでの六年間の闘病生活の現実を、看病を続けた妻の目から、飾りの無い文章で過不足無く書かれている夫婦の絆の物語です。 ★『再婚トランプ--恋と夫と子供たち--』/青木裕子/朝日新聞社自分史の好断片の作品だと思います。再婚相手と出会って再婚し家庭を築くまでの数年間を、火中にいながら、冷静に正直に自分を見つめ書き切った点に、私は好感を持ちました。著者の家庭の一員(立場が異なるので)が、同じ期間のことを書けば、違った印象を与える内容になると思います。が、著者ほど、冷静に自分や相手のことを描けるかと問えば、本著の存在価値が見えてくるように思います。著者はNHKのアナウンサーです。(下町カラス)★『フォトエッセイ 「出会い」〜出会いは可能性という無限の扉を開いてくれます〜』 /詩・文:高麗恵子/写真:斎藤忠光/現代書林言葉ひとつひとつにふれる度、つい忘れてしまいそうな純粋な気持ちを取り戻すことができました。読む度に深い感動があり、悲しみから喜びに変わる生命を感じます。斎藤忠光氏の写真も美しく、自然の光そのものをとらえ、表現しています。正に光と光との出会いが写真と言葉によって表れているフォト・エッセイです。(三村律子) ★『木のいのち木のこころ 天』/西岡常一/草思社著者は法隆寺最後の棟梁。法隆寺の解体修理、法輪寺の三重塔の再建、薬師寺西塔の再建などを手がけた名工。 著者の語る飛鳥時代の宮大工の智恵の深さには圧倒される。これを読むと、現代日本の社会が何から何まで先人の叡智に背いて突っ走っているように感じられてしまう。日本人必読の書、と言っても過言ではない。 (荻野誠人) ★『日本の面影』/ラフカディオ・ハーン/角川文庫昔買った文庫本を引っ張り出して読んでみました。彼、小泉八雲の描写力によるところ大ですが、明治初期の日本はかくも美しく、こんなにも純粋で透明であったのだ。と感じ入っています。自然の情景のみならず、日本人の微笑を描写しているところは既に忘れ去ってしまった、心の源風景を再生しているかのようです。ともすれば曖昧である、非論理的である、といって西欧的価値観をもってして、切り捨てる事をしいられてきたその微笑を西洋人である彼が深い洞察と慈しみをもって描いているのです。ちょっと、また、この微笑を大切にしたいなどとおもっています。(小林昭司) ★『知的生産の技術』/梅棹忠夫/岩波新書情報処理の方法について述べた著名な書。二〇年前に書かれたので、パソコンが存在しないことが前提になっているなど、時代背景を感じてしまう部分もあるが、おおいに啓蒙されるところがある。ぜひ一読をお勧めする。(上杉守道) ★『道をひらく』/松下幸之助/PHP 世の中には、一度読めば十分で二度と読みたくならない本がたくさんある。その形は漫画、雑誌、単行本など様々だが、私はこれを「お菓子の本」と呼んでいる。面白いものが多くて時間やお金をたくさんつぎ込んでしまうが、後には何も残らない。一方、味付けはそっけないが、何回も読み返したくなる本もある。こちらもその形態は様々である。私はこれを「ご飯の本」と呼んでいる。もちろん、「ご飯の本」ばかりが良いもので、「お菓子の本」がけしからんというつもりは毛頭ない。しかし、大切な心を育てて行くためには、「お菓子の本」ばかりでは不十分だと思う。 ★『こころの手帖』/武田鏡村/ガイア心について改めて考えたい時に一読してください。数々のエッセンスはきっとあなたの心に訴えかけます。人生の友となる一冊です。できれば、誰もが持ってほしい本です。「孤独は、こころのふるさと」--この言葉が、落ち込んだ時、私の心の支えになっています。(井上睦美) ★『ベスト・エッセイ集』/日本エッセイスト・クラブ編/文春文庫 全国の新聞、同人誌、機関誌に載った作品を選びに選んだものだそうで、確かに珠玉のエッセイ集である。八七年版の帯には「文章の腕くらべ--全国のプロとアマが競い合う読書グルメのための珠玉の五九編」とある。 ★『みんなが忘れてしまった大事な話』/森 毅/KKベストセラーズ 著者は、数学者として長年暮らした京都大学を退官し、いわば「いいおじいさん」になるための修行中の身なのだそうだ。で、この本は、最近気になったことへの著者なりの感想を集めてあるという。肩の力を抜いて読んでほしいと著者は読者に注文している。 ★『途中下車の味』/宮脇俊三/新潮文庫「万事未定、下車駅未定」で、出版担当者と山陰、東北から九州のローカル線まで、気が向いたところで途中下車していくさまをつづったもの。「既成の観光旅行を越えた旅の味」が伝わってきて、思わずひきこまれてしまった。著者は日本ノンフィクション賞を受賞、多くの旅行記を出されている鉄道旅行マニアとはこの本で初めて知った。(向井俊博) |