心理

『「ケータイ・ネット人間」の精神分析』/小此木啓吾/飛鳥新社

 携帯電話やインターネットの急速な発展・普及が私達の心をどのように変えてきたかを分析する、現代日本社会を知るための必読書。大人も子供も仮想現実と自己愛の中に引きこもり、人間関係は表面的になり、現実と衝突するとあっけなく挫折する。今注目されている少年犯罪もその延長線上にあるという。「モラトリアム人間」「シゾイド人間」「操作人間」「自己愛人間」など次々に現れる新たなタイプの人間を間髪を入れず的確にとらえてきた著者の手腕はますます冴えている。(荻野誠人)

『ものぐさ精神分析』/岸田秀/中公文庫

 著者独自の心理学理論を展開した論文集。 著者によれば、人間は本能の壊れた動物で、現実からずれた幻想の世界に生きている存在である。家族や国家といった人間の作る集団は、その幻想世界を何とか保持しながら、人間を現実に適応させて滅亡を防ぐための装置なのである。 このような観点から個人から国家や歴史までを論じている。
 著者の主張がどの程度正しいかは 素人の私には簡単には言えないが、少なくとも「人間は本能の壊れた動物である」という見解には同意する人が多いのではないだろうか。著者は歴史学者ではないが、自己の理論をもとにした日本の近代史の分析などは実に説得力に富み、面白い。また、著者の自分を見つめる目はことのほか厳しく、鋭く、自分を甘やかしている人や自己欺瞞に陥っている人のプライドなどは木っ端みじんにされてしまうだろう。本書を読んで人生観が変わってしまう人も出るだろうし、そこまで行かなくとも、新しい観点を身につけることは 出来るだろう。
 ただ、やはりフロイドの理論や精神分析についての基本的な知識がなければ、この著書を十分に味読することは難しい。私も中途半端な知識しかなく、分からない点がかなりあったのは残念である。(荻野誠人)

『セルフコントロール』/池見、杉田/創元社
『続セルフコントロール』/池見、杉田、新里/創元社

 交流分析という人間性心理学療法が日本に紹介され、近年では組織開発、人間関係改善のための手法として、団体、個人を問わず、きわめて盛んな研究が行われているが、その先鞭をつけた三名による著作がこの書である。今までのフロイト流精神分析が人間の問題性向を病理としてとらえ、幼児期の原体験にすべての原因を求めていたのに対し、庶民のための精神分析といわれる交流分析は、きわめて容易な理論で、人と人との交流における人間のプラス、マイナス両面の分析が行え、自発的な治療も可能なため、今後もより一層の伸長が期待される。杉田氏の平易な文体はさらに読者の理解を助けている。良書と思う。(神谷哲生)

『性格は変えられるか〔新版〕』/星野命、詫摩武俊/有斐閣選書

 性格全般についての分かりやすい概論。一読すれば、人間に対する理解がおおいに深まるのではないか。カウンセリングという心理療法についてもかなりページをさいて解説している。(荻野誠人)

『心を強くする森田式生活術』/長谷川和夫、岩井寛/ごま書房

 まじめ、責任感強し、心配症、内省的--『心の風景』の愛読者にはこのようなタイプが多いのではないか。こういった人たちのかかりやすいのが神経症だが、本書はその治療に顕著な成果をあげている森田療法の入門書である。森田療法は単なる技術ではなく、優れた人生哲学に支えられている。もし心の病気で悩んでいるのなら、一度この療法を研究してみることをお勧めする。現在民間の全国組織も活動中で、誰にでも手を差しのべてくれる。なお、私は最近森田療法の本を読み始めたばかりで、この著書が最良の入門書かどうか分からない。かなり無責任な推薦になるが、『心の風景』(活字版)がそう頻繁に出版されないことを考えて、あえて紹介することにした。(荻野誠人)

『「生きがい」とは何か』/小林司/NHKブックス

 生きがいを感じ、充実した自己を実現している方が何人おられるだろうか。評論を読んだからといって、すぐに生きがいを感ずるわけでもあるまいが、古今東西の多くの人々が求めた生きがいや幸福といったもののさわりを知るには絶好の入門書。引用の豊富さは、巻末に紹介されている参考文献四八六点という数から想像していただけるだろう。ハウツーの奥まで読むならば、より充実した生を求める糸口やヒントがあちこちに潜んでいる。(向井俊博)
 自己実現、つまり自分の個性や能力を完全に発揮し、本来の自分自身になることこそ生きがいであると本書は説く。膨大な参考文献を駆使した上での、生きがいの明快な定義はみごとである。本書は数多くの類書を越えているといえよう。(荻野誠人)

『感情モニタリング 入門編』『感情モニタリング実際編』/河野良和/河野心理教育研究所

 本書は性格の弱さ、悪さに悩む人にとっての福音である。著者によれば、不安、焦り、怒り、嫉妬などの不快な感情は、快適な意識でとらえると消滅する。こう書いても、とても信じられないだろうが、私の体験によれば間違いない。感情モニタリングの方法は一風変わっているが、3〜6か月で誰でもマスターできる。
 本書の方法を習得したおかげで、私の性格は1991年12月から驚くほど変わり始めた。たとえば、以前は何時間も続いた怒りが数分で消えるようになり、困難な状況に陥っても、強い不安が起こらなくなった。たとえ気持ちが沈んでも、回復が非常に速くなった。つまり私の感情はずっと安定し、性格が強くなったのである。その結果、快適な気分でいられる時間が長くなり、余裕も生まれ、自信も増し、思いやりさえも自然とわいてきた。
 長年求めてえられず、生まれつきの性格だからしかたがないと、とうに諦めていた心の強さを、ついに身につけ始めたのである。おまけに、全然予想もしていなかったことだが、長年の自律神経失調症と思われる体の不調までもいつのまにか治っていた。もう著者には足を向けて寝られない。本書を一人でも多くの人に勧めたい。(荻野誠人)

『愛されなかった時どう生きるか』/加藤諦三/PHP文庫

 子供の時、親から愛されなかった人の性格には様々な歪みが生じるが、本書はそれをどう克服するかを説いている。読者に熱っぽく語りかける調子の文章で一気に読ませる。私にとって、耳の痛い、しかも貴重な意見に幾つも出会った。たとえば「小心な利己主義者は、小心な倫理性をもち、深く自己批判する」「自己実現した人は、相手の欠点を受け入れ、その人を嫌いにならない」「小さい頃から成熟した大人の利他主義を要求されたら、子供は逆に利他主義へと成熟していかれない」「善意や規範意識の肥大化した人が時に魅力がなくて、自然にふるまっている人の方が強烈な魅力をもっている」などである。(荻野誠人)

『こころの考古学』/上野佳也/海鳴社、モナド・ブックス

 猿が人間に進化したのは誰しもわかっているし、学校でも歴史や社会の時間で古代人の生活ぶりをしのばす土器や石器の写真に触れてきた。著者は考古学者であるが、考古学、心理学、人類学の幅広い観点から、猿人からホモ・サピエンスへと進化したところを心性面からメスをいれての一説を披露されている。どのように心がヒトらしく進化してきたのかの考察は、こころの面から古代のロマンをそそってやまない。(向井俊博)

『出会いについて』/小林司/NHKブックス

 人は生まれると母親との出会いに始まり、社会生活の中で数々の物や人に出会っていく。そして、出会いは自分を変えていく。本書は出会いについて幅広い見地から易しく述べられており、ところどころではっとさせられる。著者は「出会いとは、結局のところ他者を介しての自分自身との出会いなのである」と言われている。こういった意味での出会いについて考え直すに、よき入門書である。(向井俊博)

『嫉妬の心理学』/託摩武俊/光文社文庫

 嫉妬は極めて重要な感情であるのに、意外にも嫉妬についてのまとまった著作はほとんどないらしい。本書は身近な実例を豊富に紹介し、嫉妬の原因、影響、克服の方法などについて分かりやすい文章で述べている。面白いのは、嫉妬されやすい人の性格分析や他人からの嫉妬にどう対処するかといった、普通は見過ごされそうな問題にも光が当てられていることである。本書は自分も含めた人間理解のために役立つと思う。(荻野誠人)

『不思議現象 なぜ信じるのか--こころの科学入門』/菊池聡、谷口高士、宮元博章/北大路書房

 編著者の言葉を借りるなら、まさに「誰もが関心をもつ不思議現象から入って、心理学の知見を幅広く紹介する」入門書。UFO、超能力など不思議現象に心理学的アプローチで迫っており、心の側に立って自分自身で考え、判断力をつけていく上で大変参考になる。ただし、割り切りすぎのところもあり、不思議現象にロマンを持ち続けたい人は読まないほうがよい。(向井俊博)