漫画

『マンガ 禅の思想』/蔡志忠/講談社+α文庫 (→宗教

『ブッタとシッタカブッタ』/小泉吉宏/メディアファクトリー

はじめに申し上げておきますが、これは漫画です。文章の頁もありますが、大半の頁は四コマ漫画です。「なーんだ、漫画か」。そうおっしゃる方、感想は本を開いてからにして下さい。

主人公のブタは、いつも悩んだり苦しんだり、じたばたしています。恋に悩んだり、人生に迷ったり、自分を見失ったり・・・。悩みに答えはないけれど、人生にお手本はないけれど、この本を読むと、いろいろなことがそれでいいんだと思えてきます。あなたもブタくんと一緒に悩んだり考えたりしながら、少し心を軽くしてみませんか?じたばたする自分がなんだか好きになれますよ。(堀井幸子)

『OZ(オズ)』(全四巻)/樹なつみ/白泉社

「何だ、漫画か」と思わずに、読んでやって下さい。漫画の中には、下手な小説よりよっぽど面白いものもあるんですから。時代は近未来。ある天才科学者が作った機械人間(サイバノイド)をめぐって物語が始まります。そのサイバノイドというのは相当に出来た代物で、人工知能をもった、まるで人間そのもののような奴なんです。体は機械でありながら、それは人間のように話し、笑い、「生きたい」と言います。少しでも人間に近づきたい、人間になりたい、という願いも語ります。感情を持った人の形をした機械は、人間ではないのか。一体、機械と人間の差とは何なのか--そういったことを描いた作品です。と言っても、答えは読者が自分で出す、といった感じですが。

人間の形をした感情を持った機械を人間と呼べるなら、人間の形をした人間でない生き物もいるのかもしれない。感情を埋め込まれた人間の形をした機械の機能を停止させることは、壊すことか、殺すことか、などなど、いろいろ考えさせられる作品です。人間そのもののような機械人間を見ることによって、「人間」とは一体何なのかを考え直してみるのもよいのでは?あなたがれっきとした人間の形をした人間なら、いいようのない想いにかられることうけあいです。ぜひ、一度読んでみて下さい。(紫魔夜刹那)

『ゴーマニズム宣言』(1〜9)/小林よしのり/双葉社

全巻ベストセラーの作品だが、漫画なので小誌の真面目な読者はほとんどなじみがないのではないか。私もそうだったが、勧められて読んでびっくり。こんなにスゴイとは・・・。著者は『東大一直線』『おぼっちゃまくん』などで有名なギャグ漫画家。本書では政治、宗教、思想から、差別、いじめ、エイズまで様々な社会の問題、心の問題を、著者得意のブラック・ユーモアで一刀両断。その迫力は、到底小説や論文の及ぶところではない。ここに新しい表現形式の誕生を感じる。もちろんその主張も一読に値する。ただし、決してお上品とはいえない絵やせりふ、歯に衣着せぬ批判や著者の「ゴーマン」な態度は、多くの誤解、反発、嫉妬を招き、ついには著者が某宗教団体によって暗殺されかけたことは有名である。果たして小誌の読者はどこまでついていけるか。(荻野誠人)

『火の鳥 太陽編』(上中下)/手塚治虫/角川文庫

二つのストーリーが並行して進む構成になっている。

一方のストーリーでは、時代は天智天皇の御世。百済の王族であるハリマは唐との戦いに敗れ、狼の顔を被せられて野に放たれる。倭国にたどり着いたハリマは、狗族の娘、マリモの命を助ける。狗族は以前はその土地の者に神と崇められ、一緒に仲良く暮らしていた。しかし、ある日、仏教に土地を侵され、それ以来邪鬼と呼ばれるようになってしまっていた。ハリマは何が正しくて、何と対決すべきか見極めたいと言って、都に向かう。そこで彼は屋敷を持つことになるのだが、やがて国から仏法に帰依せよと命令され、とことん抵抗する。天智天皇がこの世を去ると、ハリマは大海人皇子と共に、仏教を奉じる大友皇子と戦うことになる。狗族をはじめ、色々な神や妖怪たちも駆けつけ、ここに壬申の乱が勃発する・・・。

他方のストーリーでは、時代は未来。光一族によって地上の「光」と地下の「影」に分断された未来都市で、「影」の地域に押し込められたスグルは「光」に戦いを挑む。

普段人間から悪と見なされている妖怪たちは本当に悪なのか?そして、良いイメージを持つ「光」は本当に善なのか?考えさせられる本である。発想もストーリーも手塚氏ならではの凄いものだ。古来から言い伝えられた善悪の観念がすっ飛んでしまった。難しく考えなくても、ロマンチックな楽しい読み物である。(嶺元あい)