記録

『アウト・オブ・マインド』/J・ベルンレフ/DHC

 アルツハイマー病の話です。
 感想。一言で言うと、恐かった。最初から最後まで、ボケていく本人の視点で書かれているのだが、壊れていく様が何とも恐かった。
 例えば、ついさっき紹介された女性が、もう次の瞬間には誰か分からない。本人にしてみれば、誰だか分からない人が、何も言わずに自分の家に上がり込んでふつうに食事をしている。かと思えば、ちょっと前まで朝だったのに、時計を見たらもう昼過ぎ。自分はいったいそれまでの間、何をしていたんだろう(時間がたつのが早いのではなく、本当にその間の記憶が全くない)、等々。ふつうでは考えられない現象が次々に起こる。自分の知らないところで、いろいろなことが勝手に進んでいくという感覚。
 何とも言えない奇妙な感覚。
 私は、ホラーものなど好きでよく読むが、これは、それとはまた違った意味でとても恐い本だった。何よりも恐ろしいのは、これが、もしかしたら将来自分の身にも起こるかも知れないということだ。
 ボケる前に死にたい、と思った。(刹那)

『収容所から来た遺書』/辺見じゅん/文芸春秋

 第二次大戦でシベリアに抑留された一日本兵が、率先して同胞を励まし、絶望の中に希望の灯をともしますが、帰国の願いも空しく死んでいきます。死に臨んで、家族にあてて遺書を書きますが、数人の仲間がそれを暗記して、帰国後遺族に伝えます。特に子供への遺書は感動的です。苛酷な状況におかれたこの日本兵の生きざまにふれて、真に人間らしく生きるとはどういうことかを教えられました。(井坂洋子)

『戦艦大和ノ最期』/吉田満/講談社学芸文庫、角川文庫

 史上最大の戦艦大和、最後の戦闘の記録。戦争末期、沖縄を救うべく絶望的な出撃をした大和は途上無数の敵機の攻撃を受けて轟沈。著者は奇跡的に生還する。人は極限状態で何を感じ、考え、どう行動するのか、その貴重な体験記である。読んでいて異様な感動で全身が震えた。漢字カタカナまじり、文語体、海軍の専門用語と、若い人にはかなり骨の折れるしろもの。角川文庫収録のものはひらがなに改められている。(荻野誠人)