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お菓子ナはなし

はりがね


懐かしさを買う


大人のおもちゃ?

 駄菓子屋をよく見かけるようになった。筆者の世代には懐かしい駄菓子が所狭しと並んでいて、店内にはあの独特の甘い匂いが漂っている。昔と違うところといえば下町の学校近くの道端ではなく若者の多く集まりそうなショッピングセンターやアミューズメントセンター、或いはスーパーやコンビニの一部に駄菓子コーナーとしてあることだろうか。そうそう、駄菓子屋の主が若い女性であったりスーパーの店員であったりするところも当時とは大きく違う。筆者が通っていた頃は大抵おばあちゃんかせいぜいオバサンであった。いや、違っているのは主だけでもない。筆者もそうだが、店内であれこれ買い求めているのはどちらかというと子供よりもオッサンや20代、30代の大人たちだ。それぞれの好きな駄菓子を子供のような顔でせっせと選ぶ姿はどことなく微笑ましい。筆者が子供のころにはせいぜい100円程度のお小使いをもっていって3つか4つ買って帰っていたのだが、今は何せ大人なので買う量も半端ではない。店内においてあるカゴにあれやこれや放り込んでレジにもっていくと千円近かったりして我にかえる。・・これは案外儲かる商売なのかもしれない。
 店内には駄菓子だけではなくオモチャの類も沢山並べられている。さすがに筆者の世代はけん玉や独楽で遊んだ記憶は少ないが、プラモデルならおなじみだ。筆者たちの世代をガンダム世代という人もいる。TVアニメ・ガンダムは1979年に第一回が放送され、その翌年からバンダイが発売したのがガンダム・プラモデルだ。筆者はつくった記憶がないがこれに熱中した読者諸氏も多いのではないだろうか。ガンダムプラモは今年8月までに累計3億個以上を出荷しているというから驚きだ。最近ではこの10月からガンダムの新番組がスタートし親子二世代でガンダム世代にと玩具メーカーでは目論んでいるようだ。子供も大人もともに欲しがるようなモノならこんなに売り易いものはなかろう。
 懐かしいが故にというか、昔は欲しかったのにお金がなくて買えなかったけれども、大人になったいまならちょっと無理すれば買えるという事情から人気があるのがインターネット・オークションだ。昔の憧れを大人になってから買う。いまインターネットの中心ユーザーはおそらく30代だと思うが、彼らが物心ついたとき、つまり80年代のモノが比較的人気があるようだ。皮肉なもので人気がありすぎてオークションにプレミアがつき逆に当時より高くなってしまっているものまである。先日など筆者が小学生のときに欲しかったデジタル時計が出品されているのを見つけたが、当時3万円程度だったものが落札価格は8万円を越えていた。これなど当時は欲しくても買えなかったモノがいまだに手の届かないモノになっているというなんとも苦々しい例だが、多くの場合は昔は買えなかったが、いまならあるいは手に入れられるという大人になった充実感がある。
 こうしてみるとお菓子やおもちゃは子供向けだけでなく大人向けにも売られていることに気付く。それは一面で大人が子供に自分の昔を懐かしく語りながら子供に買い与えてやるお菓子、多くない小使いを握り締めあれやこれや迷いながらどうしても欲しいものだけを買うお菓子だ。もう一面では子供心にかえった、多少の小使いをもった大人たちの買い求めるお菓子でもある。
 そこで心配性の筆者が気になるのは、若年層の欲望を過度に刺激する対象としての、大人と子供の境目がはっきりしない類のお菓子や玩具、そしてそれらに無抵抗で呑まれていく大人と子供である。マスメディアを通じての商品広告はとどまるところを知らないし、ことおもちゃに関しては最新ゲーム機などとても子供が買えるような値段ではない。最新のゲーム機はメーカーのほうも大人向けを想定してはいる(ソフト面でやはり大人向けのものが多い)ものの、マスメディアの派手な宣伝は観る者の欲望を巧みにかきたてる。それを誰が観ていようと関係なく情報を送りつけるところがマスメディアの恐い点でもある。こうして大人も子供もともに欲しがるようなモノなのでついついどちらが決めたわけでもなく買ってしまい、結果的に子供も間接的にそれらを手に入れられたことになる。
 ところが考えてみて欲しい、大人と子供が仲良く同じ物を買って同じものを食べる世の中ならば、子供たちの大人への憧れはどんどん希薄になっていくのではないか。大人になるまで手に入れられないという渇望をもたぬまま大きくなってしまわないだろうか。大人になったありがたみはどうなるのだろう。大人の金銭感覚をもち大人の味に慣れた子供には「小僧の神様」(志賀直哉の小説。編者註)の意味は分かるまい。子供心にかえるのはほどほどにして、ここはなんとしても子供の憧れるような大人になろうではないか。

(2002.12.02)


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