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握りしめたお菓子

荻野誠人

 年のせいですかね・・・。ふと昔を思い出すことがあります・・・。今月は敬老の日があるからか、こんな思い出です・・・。

 小学生時代を過ごした家の近くにおばあさんが住んでいました。その家は近所づきあいをしない家だったようです。私も子供のいないその家には興味がなく、もう苗字も思い出せません。そのおばあさん、当時の私には大変な高齢者に見えました。今思っても、80歳は越えていたでしょう。

 玄関のチャイムが鳴って、ドアを開けると、そのおばあさんが立っています。やせて青い血管の浮いた手には飴やゼリーのようなお菓子が幾つか握られていました。ひどく震えて聞き取れない甲高い声で何かを言いながら、やはり震える手を差し出すのです。こちらがお菓子を受け取ってぼそぼそと形ばかりのお礼を言うと、すぐにおぼつかない足取りで帰っていくのでした。おばあさんは、忘れたころにまたやって来ました。

 それは子供の私には理解できない行為でした。おばあさんとうちの家族との接点はそのときだけだったと思います。そして、お菓子は豪華なものでもなく、もらっても別に嬉しくありませんでした。食べたこともなかったはずです。

 母がドアを開けた場合、さすがに愛想よく接していました。私の方は、無愛想を絵に描いたような子供でしたし、心の中では応対をめんどくさいと思って、さっさと済ませようとしました。

 今振り返ると、おばあさんは、私と弟という子供がいることを知っていて、喜ばせようとしたのでしょう。それは精一杯の好意の表し方だったのかもしれません。想像をたくましくすると、寂しい毎日を送っていた人なのかもしれません。

 それにしても・・・可愛げのない子供でした・・・。

2012・9・3


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