人生の宝
向井俊博
もうだめかとさえ思った。病に倒れ、高い熱を出して、うめきながら寝ていた時のことである。寄せては返す波のように、苦痛が押し寄せる。耐えきれなくなると、安全弁が働くように意識が遠のくが、気がつくとまた苦痛がよみがえっている。長時間にわたるこの繰り返しに、心身はかつて経験したことのないほど、きつい状態に落ちこんでいた。 その時である。身体が一瞬にしてまぶしい光にくるまれ、抱き取られるように宙に浮いた。音は聞こえず、光だけがあるといった別世界にワープしたような感じであった。不安感は全くない。故郷に帰ったかのような懐かしい気さえした。 一体何が起こったのだろうか。精神的ショックで失神した経験があるが、この感じとは全く違う。意識は、直前まではもうろうとしていたが、光にくるまれた瞬間から、異常なほどに冴え渡ったので、幻覚とも思えない。 ともあれ、この経験は、わが人生に大変重きをなすものとなり、人生観や世界観に、影響を与え続けていった。 心身の苦労は相変わらず絶えない。だが、光にくるまれて繋がった経験と、それが肥やしになって培われた人生観は、自分にとっては、まさにかけがえのない宝である。 (2007.4.15) |
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