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高校へは行かなくてもいい

荻野誠人

 2004年1月23日、高校三年生を対象とした学力テストの結果が公表された。国語と英語はまずまずだったが、数学と理科は期待をかなり下回る結果で、全国紙はそれを深刻な事態と受け止めて、批判や改善策を掲載していた。
 読売新聞(1/24)は「生徒の理解度に応じた授業」が必要だと述べ、識者が学習指導要領を批判している。朝日新聞(1/24)は教育行政を批判し、「高校でも小・中学校の内容にさかのぼって教える工夫があっていい」「学校や大人たちが動機づけの場を幅広くつくっていくほかあるまい」等と提案し、日経新聞(1/24)は教育行政とゆとり教育を批判している。産経新聞(1/25)もゆとり教育、および大学入試科目の削減を問題視し、その前日には識者が教師の意識改革の必要性や高校生の忍耐力の欠如を指摘している。毎日新聞(1/24)は他紙よりも淡々と事実を中心に述べているが、識者が目的をはっきりさせて高校に進学するべきだと主張しているのが目を引く。
 いずれももっともな主張であり、提言に沿って関係者が努力すれば学力が向上することは間違いないだろう。期待したい。
 しかし、私には上記の提案を補完する全然違う性質の改善案がある。暴論だの人権無視だのと袋叩きにされかねないので、全国紙も識者も触れていないが、同じ思いの人は意外といるのではないか。
 それは、高校の数を大幅に減らすことである。
 今や国民の97%が高校に進学するとのことだ(読売1/24)が、直観的にこれは多過ぎると感じる。勉強が好きな生徒や勉強に向いている生徒がそんなに大勢いるとはとても思えないのである。
 学力テストと同時に行なわれた意識調査では、勉強が好きかという質問に対して、高3は「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」を合わせて、20%、「そう思わない」「どちらかと言えばそう思わない」を合わせて、73.5%。中3だと、前者は17.8%、後者は74.5%である。勉強好きは約2割で、だいたいそんなものだろうと感じる。これに、勉強が嫌いでも将来の就職・結婚などのために必要だから行くという克己型の生徒を加えたとしても、高校でまじめに勉強しようとする生徒は全体の7割いるかどうか。実際、学校外で勉強を「全く、またはほとんどしない」と41.0パーセントの高3が回答しているのである。ただ、この調査は2002年11月に行なわれたので「時期的に、推薦で進学先に合格した生徒が多いことも考えられる」(読売1/24)けれども。
 ではなぜ勉強するつもりのない生徒も高校へ行くのか。おそらく「皆が行くから」「高校ぐらい出ておかないとみっともないから」「遊んでいたいから」といった理由であろう。しかしそういった理由で進学しても充実した毎日を送れるとは思えない。だから高校中退者が毎年10万人前後も出、その理由の上位に「もともと高校生活に熱意がない」が来るのであろう(日経02/10/19)。
 このような生徒は無理してまで高校に進学しなくてもいい。青春時代の浪費は本人にとっても不幸であるし、教師もやる気のない生徒を相手にするのは重労働だろう。
 そのため高校の数または定員を大幅に減らすのである。その結果、進学する生徒の意欲も学力も高まることになり、教育の効果も上がるし、教師の負担も軽くなる。学力低下の問題も今ほどではなくなるだろう。具体的にいつ、どのぐらい減らすのかということを述べるのは私の能力に余ることなので、お許し頂きたい。ただ受験生の反応を見ながら、段階的に進める必要があるということだけは言える。一気に削減して、苛烈な受験競争を生むことは避けたい。もちろん高学歴の人は減る。しかし、学力の伴わない、肩書ばかりある人がいくらいても無意味である。
 高校を減らすだけで十分というつもりは毛頭ない。生徒が明るく、希望をもって中学で学生生活を終えることが出来るように環境を整えなければならない。
 まず、高卒の方が中卒より人間として上だなどといった考え方を世間が捨てていくことだ。こういう偏見があるからこそ、見栄で高校へ行く生徒が出てしまうのである。勉強の出来不出来が人間としての価値に何の関係もないことは明らかである。勉強に向いていない人は、それ以外の自分に向いたことをやればいいのであり、それは勉強に劣るものではない。
 現状では就職時に中卒は高卒より不利である。しかし、中卒が高校で何の勉強もしなかった高卒に劣るとは思えない。完全に平等にするべきだとは言わないが、中卒であるという理由だけで門前払いするようなことは減らしていってほしいと雇用側にお願いしたい。中卒が出来るだけ不利にならないように専門学校を拡充させて、受け皿にする必要もあるだろう。
 世間の考え方が変わり、就職時にも今ほど不利でなくなるのなら、見栄やつきあいで高校へ行こうとする生徒はかなり減るだろう。前述した克己型の生徒の中にも積極的に進路を変更する人が出てくるはずだ。
 高校を減らすことが、学力低下問題を解決する一助になるのみならず、若者により充実した日々をもたらすことにもつながるのではないだろうか。  

                          2004・2・2


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