金と銀
荻野誠人
2004年5月11日の読売新聞の夕刊に、銀についての記事が掲載されていた。それによると、銀は金属の中ではけたはずれの抗菌力をもち、今や洗濯機・乾燥機・消臭スプレー・弁当箱などに盛んに用いられているのである。
この記事を最初見た時、何とも妙な感じになった。銀が抗菌力をもっているからではない。下着にまで使われているからでもない。それは銀が単独で取り上げられていたからだ。金が全く出ていなかったからだ。
私の頭の中では銀はいつも金といっしょであった。金貨・銀貨、金紙・銀紙、金歯・銀歯、金の斧・銀の斧、金メダル・銀メダル、金将・銀将、金の鞍・銀の鞍、金閣・銀閣・・・。銀は金と特別のつながりをもつものであった。そして銀はいつも金の次、つまり金よりもいくらか劣ったものであった。世間の考え方も同じように思えた。
しかし、この記事を読んで遅まきながら悟った。銀は金の亜流や子分などではなく、独自の金属なのだ。鉛や錫などと同じように個性をもっているのだ。しかも抗菌力でずば抜けているという点では、人類にとって金よりも優れているわけだ。単純に優劣など決められない。いや、そもそも優劣などあるのだろうか。
恥ずかしいことに銀について何十年も偏見をもっていたのは、化学の知識不足や世間のとらえ方をそのまま受け入れていたことが原因であろう。ひょっとすると、私一人の偏見だったのかもしれないが。
記事を読み終えて何となくすっきりした。だが、いまだ数多くの同様の偏見が頭の中に潜んでいることだろう。折にふれて正していきたいものだとつくづく思った。
2004・5・21