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感性の鈍る時代

荻野誠人

 いじめで自殺者が出る痛ましい事件がしばしば起こっています。事件が報道されますと、親や教師など周囲の大人たちはなぜその前兆に気づかなかったのか、と批判されることもあります。確かに批判の余地はあるのかもしれません。

 ですが、私は、文明の進歩というものが、すべての人の、人に対する感性を鈍くしていて、そのために前兆に気づかなかったという原因もあるのではないかと思うのです。つまり、現代はそういう前兆に気づきにくい時代、言い換えれば、人の心に鈍感になっていく時代ではないかということです。あくまで推測ですが・・・。

 では、人に対する感性を高める方法は何でしょうか。

 一番基本的な方法は、直接人に触れることではないでしょうか。触れる時間が長ければ長いほど、触れる機会が多ければ多いほど、感性は鋭くなるのではないでしょうか。自然でも芸術作品でも、感性を磨くためには、まず直接触れることが大切でしょう。それと同じことだと思います。個人の資質や触れ方の姿勢などで差は出るでしょうが、それは枝葉の部分でしょう。

 原始時代は、人は人に直接触れるしか交流の方法がありませんでした。また、交流して助け合わなければ生きていけませんでした。

 ところが現代は、とても便利になった代わりに、人に直接触れることはずいぶんと少なくなりました。ネットに象徴される通信機器の驚異的な発達がその一因です。交流の量や範囲は大いに拡大しましたが、生身の人間に接する機会は減ったはずです。また、家電の発達などで、他人の助けを借りる必要性も低下しました。他にも色々原因はあるようですが、現代の日本の社会を「無縁社会」と呼ぶ向きさえあります。

 子供の時代からそういう環境で育てば、人に対する感性が磨かれないのは無理もありません。仮に子供にろくに接したことのない大人がいるとしますと、その大人は、子供の心の動きに気づけるでしょうか。まず無理でしょう。

 私は現代文明を頭から否定するつもりはありません。身の回りから便利なものをすべて退けるのは、非現実的でしょう。ですから、現代文明に漬かって生活していく中で、人に対する感性を磨こうとするのなら、相当意識的に人に直接触れるようにする必要があると思うのです。例えば、機械に囲まれている時間を少し減らして、積極的に人の輪に入る、といったことです。そのような努力をすれば必ず成果は上がるのではないでしょうか。

2012・11・15


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