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あったかいアイスクリーム

tensi

 まーくんは小学校の三年生です。授業が終わると、すぐに教室から飛びだします。慌てた様子で木枯らしが吹く寒い中を一直線に家に帰ります。掃除当番も幼なじみのあーこに替わってもらったのです。家には鍵がかかっていました。鍵を開けて家に飛び込みます。
 「お母さん、大丈夫なの」
 お母さんは紅い顔をして布団に寝ています。額に手を当てると、すごく熱いのです。朝出掛ける時はまだ元気でした。少し喉が痛いと言っていたので気になっていたのです。
 「あら、帰っていたの」
 「母さん、すごい熱だよ」
 「熱が出てきたから、少し横になっていたの。そうしたら寝てしまったみたい」
 お母さんは何とか起きようとします。だけど、起きあがるとふらつきます。
 「母さん、頭冷やす方が良いよね」
 「大丈夫よ、少し寝れば下がると思うから。ごめんね、ちょっとだけ寝させてね」
 お母さんは安心したのか目を閉じます。だけど、まーくんはお母さんの熱が気になります。洗面器に氷水を入れて持ってきました。タオルはどれを使えば良いのか分かりません。だから、大事に仕舞い込んでいたミッキーのタオルを出します。あーこがお土産にくれたのです。
 まーくんは何度も何度もタオルを交換します。そのお陰で、少し熱が下がったようです。
 「あら、このタオル」
 「大丈夫、少し熱が下がったみたいだね」
 「まーくん、ずっとついてくれていたの」
 「うん、気になるからね」
 「ゴメンネ、こんなにひどくなるって思わなかったから」
 「母さん、何か食べたの」
 「ううん、まーくんが出て行ってから、すぐに気分が悪くなって寝てしまったの」
 「何か食べる」
 「ダメなの、食べられそうもないわ」
 「ちょっと待っててね」
 まーくんは冷蔵庫を見ました。自分の部屋に飛び込むと貯金箱からお金を出します。そして、大急ぎで家を飛びだしました。あーこがそこにいました。
 「まーくん、これ忘れ物よ」
 「あっ、いけない、慌てていたからなあ」
 授業で貰った宿題のプリントでした。
 「ごめん、急いでいるから、家の中にほりこんでおいて」
 「おばさん、大丈夫なの」
 まーくんはそれには答えず、走りだしました。あーこは「何よ」と思いながらもまーくんの家に入ります。いつも来ているので、勝手がわかっています。
 「おばさん、大丈夫ですか」
 「あーちゃんなのね、まーくんは」
 「なんだか、慌てて走っていきました」
 「どうしたんでしょうね」
 まーくんはすぐに帰ってきました。あーこはお母さんの側でタオルを絞っています。
  「ほら、母さん、これなら食べられるでしょう」
 まーくんの手にはスーパーの袋が握られています。その袋からカップ型のアイスクリームが三個出てきました。
 「あーこも食べると思って」
 まーくんはスプーンを取ってきました。そして、お母さんの口にアイスクリームを運びます。熱でほてった口には冷たくて、とても美味しく感じます。
 「母さん、おいしい」
 「・・・・・・・・・」
 「ほら、冷たくておいしいだろ」
 「・・・・・・・・・」
 「まーくん、おいしいに決まっているでしょ、そんなに聞くとお母さん食べられないよ」
 お母さんはまーくんの優しさで声が出ません。涙だけが自然に流れてきます。
 「あーこ、母さんどうしたんだろ」
 「もう、まーくんは分かっていないのね」
 「だって、何も言わないで泣いているから」
 あーこはまーくんからアイスクリームを取り上げました。そして、お母さんに食べさせます。まーくんがお母さんの顔ばかり見ているからです。
 「まーくん、あったかいアイスクリームありがとう」
 食べ終わったお母さんがぽつんと言いました。まーくんとあーこは顔を見合わせます。あーこにはお母さんの気持ちが分かりますが、まーくんはしきりに首を傾げています。
 「冷たいのに何であったかいんだろう」
 「良いの良いの」
 あーことお母さんはにっこり微笑みます。そんな二人をまーくんは不思議そうに見つめています。お母さんはあったかいアイスクリームで少し力が出てきたようです。まーくんはアイスクリームを食べながらも「あったかい意味を」考えていました。


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