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カミングアウトを受け入れてくれた旧友へ

円山てのる

 先週末、高校時代からの友人で、歌手をやっている川瀬太基くんが横浜でサロンコンサートを開きまして、そこへ、これまた高校時代からの旧友で、川瀬くんをふくめ、大学時代、一緒に合唱のサークル活動をやった飛岡くんが、奥さんとお嬢さんを連れて、聴きに来ておられました。
 久しぶりの再会。21世紀になってから、最初の遭遇となったかも。

 飛岡くんの奥さんも、同じ大学の合唱サークルにおられた先輩なのですが、やはり大層なご無沙汰をしておりました。申しわけありませんでした。中学生のお嬢さんとは、文字通り初めてお目にかかりました。ときの流れを感じましたとともに、みんな、とにかく元気そうで良うございました。

 サロンコンサートが終わり、“では、これにて解散”というとき、飛岡くんと僕は、せっかくの再会なので、ぜひ、あらためてサシで酒を飲もうではないかという話になりまして、さっそく昨晩、旨い日本酒を飲ませてくれる居酒屋へ連れて行っていただきました。

 京急神奈川駅のそば、『ふじさわ』というお店です。
 ご主人が“利き酒師”の免許をお持ちで、プロの舌をもって選び抜かれた地酒の銘酒に、新鮮なお刺身。腕の良い板前さんがおられ、とりわけ、しめ鯖の絶品だったこと。こじんまりとした、居心地よく上品なお店です。

 飛岡くんと僕は、高校大学時代のむかし話を導入部に、さまざまなテーマで会話の花を咲かせたわけですが、当たり障りのない話題だけではなく、飛岡くんは極めてフランクに、
 「中井(註1)だから言うんだけどさ……」 
 プライヴェートなところまで、みずからの思いの丈を語ってくれたのです。酒のちからに頼った気配もなく、ちっともわざとらしくもなく、ごくごく自然な流れで、
 (え? 僕に、そんなことまで話してくれちゃうの?)
 すっかり心を開け拡げてくれたのです。

 そこで、僕は言いました。
 「大切な話をしてくれたお返しに、僕のほうからも一つ、聞いて欲しい話があるんだ」
 この晩、僕は飛岡くんに、カミングアウト(註2)するつもりでいたからです。

 すると、つぎの瞬間、飛岡くんに、
 「ああ。実はね、中井のブログ(註3)のことは知っているんだよ……」
 あっさりと、一本とられてしまいました。

 「…… 川瀬のコンサートを聴きに行くからってことで、あいつの名前でググって、どんな演奏活動してるのかチェックしとこうと思ったんだ。そしたら、川瀬のことが書いてあるブログ日記をヒットしてさ。ふと見たら、ページの隅っこに付いてる顔写真が中井みたいだったから、アレっと思って細かく見てったら、ちゃんと本名まで書いてあったんで、へえ、そうなんだあって、ちょっとは驚いたけど、べつにオレ、そういうこと何とも思わないから。いろんな人がいるのが、当たり前なんだから。かみさんにも、ほら見て、中井ってさ、って教えたけど、かみさんのほうも『ふうん、そうだったのね』って感じで、べつに全然ふつうだよ

 カミングアウトしようと思っていた相手のほうから、まだ何も告げていないうちに“お前がゲイでも、オレたちのあいだがらは何も変わらないから、安心しろ”と、僕がいちばん聞きたかった答えを返してくれたのです。


 飛岡くん、ありがとう。僕の気持ちを察してくれていた上に、そこまで優しく受け入れてくれて。 それにしても、ほんとうに君はオープンマインドで、分け隔てがないんだね。

 高校大学時代の僕は、やっぱりゲイだという負い目があったから、友だちの輪の中に、いまいち入り切れていなかった。付き合いも悪かったし、あまり心を開いていなかった。友だちも、こいつ(=僕)は、いつも何となく距離を置くし、歯切れが悪いところがあると感じていたんじゃないのかな。

 こんな歳になってからで、とても申しわけないんだけど、僕がゲイだと判明したことで、あのころの僕について“だからだったのか”と合点がいくことでしょう。僕という人間を、再認識してもらえると思ってます。

 昨日は、滅多に味わえない特別なお酒を飲ませていただいて、とにかく、心の底からうれしかったです。
 これからも、どうぞよろしくお願いします。

 

 註1 「中井」は筆者の本名。
 註2 ゲイであることなどを告白すること。
 註3 筆者はゲイであることを自身のブログで公表している。
 ※ 作品の出典は、http://tapten.at.webry.info/201011/article_11.htmlです。


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