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「ありのまま」と努力

荻野誠人

 「ありのままのあなたでいい」という考え方はなかなか人気があるようです。
 背伸びしたり、演技したり、自分の意に反したことをさせられたりして、すっかり疲れてしまった人が大勢いるようです。そういう人たちが「ありのままの〜」という言葉に触れると、救われた気持ちになるそうです。分かるような気がします。
 無理なことを続けていれば、それは疲れるに決まっています。そういう人たちには、不要なものを捨て、自分の傷が癒えて気力が回復するまでゆっくり休んでもらえれば、と思います。「ありのままの〜」という考え方は、そういう人を助ける力になっているのでしょう。
 しかし、一方で少し気になる傾向も。あるところで「ありのままの〜」と同じ趣旨の文章の中で「今のままのあなたが最高なんだ」という言葉に出会いました。
 これは大げさに表現しただけなのかもしれません。あるいは、疲れた人を激励しようとしているのかもしれません。
 しかし、書き手が文字通りのことを主張しているとすれば、そこには問題が潜んでいるようにも思うのです。揚げ足取りという印象を受けるかもしれませんが、しばらくおつきあいください。
 今のままのあなたが最高なら、今以上にはなれないし、なろうとする必要もないわけです。つまり、努力しなくてもいいと言っているのに等しいわけです。では、本当に「あなた」はもう完成されてしまって、それ以上になれないのでしょうか。
 努力するかしないかは本人の自由ですし、努力が嫌いな人、苦手な人もいます。努力は時には苦しいものですし。
 しかし、私は一つの選択肢として、努力することの大切さは訴えたいと思います。それは、無理な努力でも、他人に強制されてする努力でもありません。長く続けることのできる自然な努力です。
 努力の結果、できなかったことができるようになります。逆上がりができるようになったり、滑車の問題が解けるようになったり、電車で席を譲れるように なったり。努力したからといって何でもできるようになるわけではありませんが、努力するのとしないのとではどちらが進歩するかは言うまでもありません。そ れがどうした、という価値観の人もいるかもしれませんが、何かができるようになったことを喜ぶ人はとても多いはずです。ですから、そういう選択肢は常に掲 げておきたいのです。
 「ありのまま」と言いますと、何か永遠に変わらないものという印象を与えるかもしれません。確かに、人の根っこの部分はなかなか変わらないでしょうが、 葉や花の部分は相当に変わります。「ありのまま」は、長所も短所もすべて含めて率直に認めた自分の現状だと思いますが、現状は日々変わっていくものです。 今の「ありのまま」は、むしろ出発点と言えないでしょうか。
 疲れている人に努力の大切さを訴えるのは、不適切かもしれません。ですが、力を取り戻した人には、訴えてもいいのではないかと思うのです。
 最後に、私がお贈りしたい言葉は・・・
 「あなたはもっとすばらしくなれる」

2011・7・1

 


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