『ウィキペディア』の片隅で

荻野誠人

　有名なネット上の百科事典『ウィキペディア』。
　今や学校や塾でも広く使われ、私もよくお世話になっています。目を見張るような出来栄えの記事も多くあります。しかも、それほどの記事でも執筆者は無報酬なのですから、頭が下がります。運営は寄付によっているそうです。
　『ウィキペディア』は、いかにもネット上の百科事典らしく、無料の上に、誰もが新しい項目を立てたり、既存の文章を修正したりして、編集に参加できるのが大きな特徴です。これは衆知を結集できるという長所になり得ます。ですが・・・
　ある日、何気なく『ウィキペディア』で、ある著名人を検索してみました。偉人伝にも登場するほどの人で、私の尊敬する人でもありますが、最近は世間で余り話題になることもなくなっています。その人の記事を読んで、驚きました。分量が少ないのはまだしも、大切なことが抜け落ち、誤りも散見・・・。おまけにその状態で何年も放置されていたのです。
　従来の有料の百科事典は、あらかじめ取り上げる項目を決め、専門家だけが執筆するという閉鎖的な性質をもっていますが、一定の水準は保証されているといっていいのでしょう。
　何年も放りっぱなしということは、たまたま危機感を抱いた私がやるしかないという巡り合わせなのかもしれません。自分が門外漢で力量不足であるのは十分承知の上で、図書館で資料を集めたりして、生涯や業績についての記事を少しずつ補足訂正していきました。
　ずいぶんと手こずりましたけれども、敬意を払ってきた人に、ささやかではあっても、恩返しのまねごとができるんだ、といった思いもあって、作業はけっこうやりがいのあるものでした。ネット時代に生まれ合わせて幸運だったともいえるでしょう。それに、調べてみると、私の知らなかったことが次々に出てきて、認識を改める機会にもなりました。
　何とか出来上がった記事は、一応以前よりは改善されただろうと思っています。もっとも、近い将来優れた記事に取って代わられることになるでしょうが。
　時が経つにつれて、人物の評価も変わってきますから、その著名人が顧みられなくなるのは、納得しています。しかし、みんなが信頼を寄せる百科事典の記事に不正確な点があるのはやはりまずいと思うのです。

２０１０・１２・２５