新たな労働運動をめざすコミュニティ・ユニオン運動

                                                                                          笹本剛士


最近ふたたびコミュニティ・ユニオン運動が注目をあびてきている。
 十年以上の歴史をもつこの運動は、時代情勢の節目のたびにその役割の重要性を指摘されてきた。
 そこで、この紙面であらためてこのコミュニティ・ユニオン運動について紹介しておきたい。
 今日、雇用と労働をめぐる情勢は、急激な変化をみせている。その大きな変化の一つは、パート、派遣、契約、臨時などの雇用名称で呼ばれる非正規労働者と有期雇用の増大、雇用の流動化となってあらわれている。二つは、労働分野の規制緩和であり、労働法制全般の改悪再編がすすんでいる。単にこれまで獲得されてきた労働者の権利が剥奪されることばかりでなく、労働時間と賃金、労働安全と健康保護など、働き方と制度全般が「見直され」つつある。こうした変化をねらう資本家側の動機は、経済のグローバル化をみすえた労働コストの削減にあることははっきりしている。 しかしながら大半の労働者をつつみこむ時代精神は、大競争主義の蔓延であり、弱肉強食の利己主義であり、その対極にはあきらめ、敗北と孤独がまちかまえている。こうした時代精神を打ち破るどころか、逆に支えている原因の一端は、既成労働組合の側にもある。
 男性正社員組合員中心の既得権防衛・改悪反対にのみ終始するあまり、女性パート労働者をはじめとする非正規労働者をふくめた労働者階級総体の団結のあり方、闘いの戦略的展望、方針をうちだせないからである。
 こうした情勢下で個人加盟制の地域ユニオンと全国ネットワークの活動がふたたび注目されてきたのである。
 ユニオンと称される地域型合同労組が誕生するのは、一九八〇年代に入ってからであり、当時の労働戦線再編の影が地域労働運動をおおいはじめる八五年ごろから全国各地に結成されていった。まさに総評末期の八七年、青森県弘前市で約五〇のユニオンが結集して、「第一回全国ユニオン交流集会」が開催され、全国的な協議体として発足した。十一年目をむかえ、現在七七団体、一四〇〇〇名の仲間が全国ネットに結集している。
 一方、現在日本の組織労働者数は、前年より二六万八〇〇〇人(二・二%)減少し、ついに一一八二万五〇〇〇人となり、組織率は二二・二%となった(一九九九年十二月二十二日、労働省発表)。二十四年間連続減少である。
 全労協、連合、全労連など、主要ナショナルセンターでも減少している。
そのなかで、パート労働者の組合員数だけが連続して増加するという特徴もみせている。(組合員数二四万四〇〇〇人、一九九九年現在)
 企業規模別組織化率は、一〇〇人以下の企業では実に一・四%にすぎない。全国の地域ユニオンは、まさしくこの最も労働組合が必要とされながらも見放された不安定雇用労働者に目をむけ、相談活動、共済、地域相互扶助などの地道な活動を続けてきたのである。
ユニオンには、およそ三つの組織的な流れがあるといわれている。一つは、旧地区労を母体として、その援助でつくられていった相談活動型ユニオンである。二つは、全国一般などの個人加盟型合同労組の流れをもち、後にゼネラルユニオン型のスタイルに発展させていった流れである。三つは、女性労働問題あるいは市民運動から派生して地域ユニオン運動へ合流、発展していった流れである。
 こうした流れの違いをもちながら、しかも各ユニオンの規模(数十名から最大で札幌地域労組約一五〇〇名まで)や特色は、実に多様である。にもかかわらず、かつての総評時代の地域共闘、地域労働運動を新しいスタイルで継承しているのも地域密着型ユニオンの共通性である。
 ユニオン全国ネットは、発足当初からパート労働問題にとりくみ、近年では「ILO175条約(パート条約)」批准運動、パート労働法の見直し、全国パート労働者交流集会の開催(これまで四回)、男女賃金差別撤廃・男女性別役割分業廃止への理論的提起(男女同一価値労働同一賃金原則、ペイエクィティ運動、「労働運動フェミニズム」など)・討論、そして争議支援など女性が主体となって活発な活動をおこなっている。
 また、派遣労働、外国人労働問題、障害者労働と差別、セクシャルハラスメント防止運動・裁判活動など新しい分野にも積極的にとりくんできている。
 九五年におきた阪神淡路大震災にさいしても神戸・武庫川ユニオンの仲間は、自らも被災しながら困難を乗り越え、「被災労働者ユニオン」という史上例をみない労働組合を創設し、全国のユニオンがおしみない支援をしたこともつい最近のことである。
 ここ数年では、派遣ユニオン結成、介護・福祉関連労働者の組織化活動などが目立っている。
 このように既成の労働組合が避けてきた問題に、ユニオンは果敢にとりくんできた。これがユニオン活動を特色づける重要な点であるのではないだろうか。
 昨年九月、秋田県大館市で開催された第十一回全国交流集会で、集会全体をつらぬいて強調されたテーマは、ユニオンの自立と組織化であった。十年の節目をこえて、各ユニオン組織の脆弱性の克服が重要な課題となった。
 これまで培ってきた運動の質から量を強調することによって、コミュニティ・ユニオンこそが今後の労働運動主流を担っていくという並々ならぬ決意があらわれた集会であった。
十一年間の全国ユニオンの活動は、従来の労働運動のあり方を少なくとも塗り替えてきた。今後も新しい労働運動を模索する発信基地であり続けることはまちがいないだろう。