沖縄に新たな軍事基地はいらない
               (沖縄からの通信)

 十一月二二日、稲嶺知事は「名護市辺野古」と、普天間基地の移設先選定を発表した。十一月十九日の沖縄政策協議会で、日本政府閣僚の前で、それは確約させられていたものであった。
 沖縄政策協での日本政府による「振興策」を県が「持ち帰り見当」して、「行政上の手続き」をした上で、当初の段取りでは「二四日に記者会見発表」というのが、マスコミ各社に知らされていた。
 すべて日本政府のシナリオで進んでいた。「県政不況」の誇大虚偽宣伝と膨大な資金をつぎこんだ、大田降ろしのための日本政府による直接管理選挙(九八年十一月)以来、沖縄県知事は日本政府の一齣であり、一出向社員にすぎなかった。また政府は、牧野副知事の出向元の琉球銀行にすでに三十億円を与えている。
 知事の「苦渋の選択」の言葉までぎっしり書き込まれた早くからの『シナリオ』は、すでに沖縄タイムス紙(十一月十四日付)がスクープしている。『シナリオ』のポイントは次のように要約できる。沖縄県民の戦前戦後の苦しみを理解しているふりをする。沖縄県が自主的に候補地を選定し、政府に提案するふりをする。政府は「頭越しにはしない」と言い続ける。知事が「苦渋の選択」を発表する、である。
 その前の十一月十三日、名護ヘリ基地反対協議会と県内移設反対県民会議は、辺野古の「命を守る会」事務所前から名護市内へ至る実質10qにおよぶ「怒りの平和行進」を行なって、市民・住民へのはたらきかけを決定的に強めていた。
 そして、ヘリ基地反対協は、二四日に県庁前でハンガーストライキを敢行する予定となっていた。二二日に早められた「知事発表」は、その先手を打ってあくまで焦点をぼかし、主導権を確立しようとする日本政府指導の策略である。
 二二日、県庁には県民会議の人々がなだれ込んだ。知事らは、予定の記者会見室から逃げ出した。
 同日、名護では「命を守る会」を中心とする反対協の人々が、市役所深く入り込んで抗議した。庁舎に市民が、「われわれに死刑宣告するな」とおしかけた。日が暮れんとするまで逃げ隠れできる人間はいないだろう。岸本市長は日没前にとうとう現われ、マスコミの記者会見と同時にマスコミをふくめた三者でなら要望を聞いても良い等々と言って、市民会館の一室を用意した。
 「命を守る会」の住民は、涙を流しながら市長に懇願する。市民投票の時の苦しみ、住民二分またもか。振興はいらない、基地のそばで生活はできない。貧しくても良い、平和な場所を。
 市長は答えた。「わたしは、わたしで判断する。皆さんは、こういう私を判断して下さい」。それは、リコールその他の選択肢を受けて立つ、という宣戦布告なのだろうか。
 「岸本名護市長も稲嶺知事と同じ判断。日本政府の北部振興策を受けて辺野古で受け入れる予定」という、マスコミ報道はタレ流されている。市民が直接それを問えば、「まだ何の要請も名護は受けていない」を、繰り返してきた。言葉を失った老いた労働者が激昂して震えていた。岸本市長はSPの厚い壁に守られて、車中へ消えていった。今や、名護市長は日本政府のお宝になってしまった。
 二二日はすでに夜になった。反対協の緊急集会がひらかれている。マスコミ各社は、その集会を背景にした生中継で、「名護市の十二月議会の決議を経たうえで、岸本市長の受諾表明となるだろう」などとキャスター達にしゃべらせ、リーク放送をしている。
 十一月二六日現在、名護市役所前と県庁前の双方で市民の抗議の座り込みが続いている。
 日本政府は今や、かれらの日米同盟体制にキズがつかないよう、内閣官房直属の指揮による、沖縄県民との間での「沖縄戦」を展開している。
 那覇軍港の浦添移設反対のたたかいでも同様だ。宮城浦添市長が、一部事務組合その他について県との間ですんなり行かなくなっていることに対して、職員のセクハラ問題を利用しつつ、軍港受け入れ派を指導して市長リコールに乗り出している。
 この日本政府に対決し、反対協と県民会議は十二月四日、名護市役所前で市民総結集の決起集会を持つ。
 県民会議は、十二月二十日に現在展開中の県内移設反対署名運動の第一次集約を行ない、翌二一日の名護市議会に対して、一万人規模の「12・21県民大会」を那覇・与議公園で開催するなどを決定している。県民の怒りの総結集が進みつつある。
 政府がマスコミを使ってどのように世論操作をやろうとも、何も事は決していない。たたかいは今が正念場である。
 日本政府の「振興策」による「基地押しつけ」を許さない沖縄県民のたたかいは、その団結と創意がより一層強化されていかねばならない。
 今後の展開について、その入り口で軽々しく書くことはできないが、名護・岸本市長へのリコールを含むたたかい、そして知事戦規模で全県的に取り組まれている県内移設反対署名運動、この二つのたたかいと七月沖縄サミットの日程との関係、これらが重要になる。
 たとえば、反対協の人々は、岸本市長が情勢の主導権を握るために、十二月市議会の後、辞職して再立候補し、信任を得る作戦に出ることも予想に入れている。(岸本は、前比嘉市長が市民投票に敗れた後、ヘリ基地問題を「凍結」、として当選した経緯がある)。現職のまま、平然と「凍結」を解凍できるかどうか。現在の名護市議会は与党優勢であるものの、そのような作戦もありうるほど、岸本以下も市民の批判を前に苦しいのである。
 また、有権者過半数の県民七十万を獲得目標にすすめられている署名運動は、それを直接の目標とはしていないが、稲嶺の県知事の座そのものを脅かすものでもある。
 そして、普天間基地の県内移設・強化がシナリオ通り行かなくなれば、沖縄サミットが危なくなる。政府は、県内移設反対の市民運動と県民世論がサミット反対に結びつくことを恐れている。クリントンが、混迷する沖縄・名護の主会場をきらい、東京でやろうと言い出すかもしれない。日本政府、稲嶺、岸本は大打撃である。そのとき事態の本当の解決が、すでに返還合意されている普天間基地を文字通り全面返還するしかないことが、誰の目にもはっきりするのである。
 沖縄に新たな軍事基地はいらない!
 沖縄の反戦平和を保障する自己決定権を樹立しよう!
 振興策の麻薬を撲滅しよう!
 団結!大同団結をたたかいとり、普天間基地、那覇軍港の県内移設を阻止しよう!
                              (記・十一月二六日)