6月総選挙の政治攻防の中で

   改憲阻止の広範な共同戦線を

 

「天皇を中心とする神の国」という森発言によって、内閣支持率が急速に低下している。五月二十六日の釈明会見直前にすでに世論調査は、「支持二〇%、不支持五四%」(毎日新聞)、「支持二七・九%、不支持五四・六%」(読売新聞)と大幅に低下していたが(毎日新聞の場合の支持率は前回より半減)、会見後もこの傾向に歯止めがかからず、三十日朝刊によると、「支持一九%、不支持六二%」(朝日新聞)、「支持一二・五%、不支持六四・四%」(産経新聞)と、さらに暴落している。 森政権誕生の経過の不透明さ、失言を繰り返す森の軽率さ、そして、大量失業と生活基盤の不安定さなどで人民がモヤモヤとしている所に森発言である。あまりの時代錯誤と首相としての資質が問われるという事態に、多くの人々が怒りと嘆きの表明をしたのであろう。

 森ら政府・自民党は、釈明と陳謝におおわらである。水面下では、旧小渕派の微妙な森離れも見え隠れしだした。しかし、すでに六月二十五日にむけて、選挙戦は走りだしている。憲法論議のスタート、ガイドライン関連法にもとづく「戦争のできる国家づくり」に、新たに今回の森発言を加え、きたる総選挙では、憲法にあらわされる国のあり方が、一大争点となるのは必至である。

 

今日の階級情勢で重視されるべき点の第一は、憲法問題にたいする態度である。支配層は、グローバルな資本間競争の熾烈化のなかで、日系多国籍企業の軍事的保障のために、米帝と結託した新たな安保体制の強化・「戦争のできる国家づくり」を推進している。そして、昨年の君が代・日の丸法、盗聴法、改正住民基本台帳法、組対法などをたてつづけに強行採決し、新たな国家主義のもとに人民を組織し、そのための日常的監視を強化している。これらの総括りとして、支配層は憲法九条の改悪、天皇の元首化、人権軽視などの憲法改悪を策動しているわけである。選挙戦を争っている諸党派は、沖縄サミットにすべて賛成し、争点となっていないが、沖縄サミット自身は、新たな安保体制の強化の一環である。

第二の点は、経済問題である。支配階級は国際競争力をつけるためと称して、リストラ、首切りを情け容赦もなく進め、政府はそれを援助して、労働者の権利剥奪をつぎつぎと法制化している。しかし、リストラ、合理化の推進は、結果として景気が回復しようがそれは大量失業、賃金引き下げなど労働者階級の犠牲のうえでの景気回復である。今年三月期の大企業の増益は、まさにリストラ、首切りによるものであることを明確に示している。これは資本主義である限り、厳然たる論理的帰結であり、また資本主義の現実である。資本主義とは、本質的に非人間的なものである。

リストラ・首切り、さらに介護保険・健康保険・年金などでの将来不安も重なり、個人消費はなかなか回復せず、小渕内閣は旧来のバラマキ政治と利益誘導型政治に復帰した。この結果は約六四五兆円の膨大な国・地方の借金である。いまや日本の財政赤字は、太平洋戦争当時のレベルにまで陥っているのである。

第三に重視されるべき点は、青少年を中心とする教育・家庭問題である。この問題では支配層は、ほぼ無能無策である。文部省は逃げ腰で役にもたたず、君が代・日の丸の押し付けのような、手慣れた国家主義的な反動教育のみに力を発揮している。森にいたっては天皇奉仕である「教育勅語」をふりまわせばあたかも解決するかのような、時代錯誤に陥っている。戦後の一時期を除き、戦後も明治いらいの教育観、教育方法は基本的につづけられ、教育現場はますます荒廃している。国家主義的な官僚と企業戦士育成の教育を改められないのである。文部省が声高に「個性の尊重」を口先だけで言おうとも、それが決して実現しない原因は何なのかまでは分析しない。分析し具体的解決策までにいたらない。金儲け主義で忙しい日本社会は、その基底部で腐食しはじめているのである。

これに対し、野党の中心である民主党はさまざまな色合いを持ちながらも、その過半数の議員が憲法改正に賛成している。鳩山党首は、九条の改正と「常時駐留なき日米安保」を主張している。今回の森発言に対しても批判はするが、象徴天皇制そのものは容認しているのである。

新自由主義をかかげる鳩山民主党は、最低課税額の引き下げを発表し、現蔵相・宮沢喜一に大いに称賛されるという始末である。民主党は、この間バブルを享受した大企業、金持ちへの課税強化ではなく、貧乏人への課税拡大・強化で財政再建をはかろうとしているのである。また、商法改正・労働契約承継法に賛成し、労働者の権利剥奪・抑制に手を貸している。民主党主導の政権が成立したとしても、事態が大きく変わるという幻想をもつことは、誤りである。

わが党は、きたる総選挙では、自民・公明・保守の三与党と自由党の反動性、反人民性を暴露、攻撃する。同時に民主党の新自由主義路線と、貧乏人への課税強化、労働者抑圧などの政策を批判する。そして、全国各地の個々の地方、地域の具体的情勢に応じ、労働組合運動、市民・住民運動の発展の見地から、それに役立つ候補者を支持し、具体的に支援する。

 

総選挙の結果、どのような議会構成になろうとも、ここ十年以上は連立の時代が続くことは、間違いない。無定見で反動的な自民党が主導権を握り続ける場合はもとより、民主党が内閣の一角を占めようとも、官僚勢力の統制はおぼつかなく、政治的不安定は持続するであろう。経済的には、さらに深刻である。景気が回復しようがしまいが、大量失業と膨大な不安定雇用は増大する。新自由主義とは、文字どおりの弱肉強食の世界である。

このような情勢下、われわれは広範な労働者人民とともに、日本社会を根本的に変えるために、新時代の民主的で、革命的な勢力を一歩一歩きずきあげることに、全力をつくす。 そのためにまず第一に、失業者や不安定労働者がますます増大することを見据え、新たな労働組合運動を発展させることである。

 この間の動きをみるだけでも、連合がいかに大企業の正規労働者など一部特権的な労働者の利害のみに終始する組織であり、また、いかに政府、独占資本の労働者攻撃に無能無力かは、言をまたない。

わわれは、一人でも加盟できるユニオン運動や合同労組運動などを拡大させつつ、失業者や女性パート労働者をはじめとする不安定労働者の利益を重視し、新たな労働組合運動を発展させる。そして、各地域の市民・住民運動との相互支援、交流、共同した闘いなどを強める。

第二は、住民自治を強化、発展させることである。

 原発、廃棄物、沖縄基地などにみられるように、政府・独占資本はほとんどのしわ寄せを地方・地域におしつける差別構造を再生産している。今年四月から実施されている地方分権一括法とても、中央政府の地方統制の枠組みは維持し、なによりも財政権の中央支配は従来どおりである。中央・地方とも財政赤字は巨額の額にいたっている今日、増税と地方への財政的しわ寄せは、必至である。

われわれは、失業、福祉、原発、廃棄物、教育などの具体的課題を追及し、変革し、自治体労働者と地域市民・住民との連携をつよめ、地方自治と住民自治を前進させる。そして、自立的農民運動との連携を強化し、自民党など保守の重要基盤である農協の変革を迫る。

第三は、第一、第二の闘いを強固にしながら、当面地域的統一戦線の形成、拡大を追及する。ここ数年、憲法改悪に反対する闘いは、正念場をむかえるであろう。地域的統一戦線を強化しつつ、全人民的統一戦線を形成するという大方向のなかで、当面力をあわせて憲法改悪に反対する全国的な共同戦線をつくり、闘い抜かなければならない。

第四は、以上の闘いや活動を粘り強く、組織し、人民の闘いの発展に貢献する革命党の建設をおしすすめることである。われわれは、これまでの共産主義運動の総括をすすめながら、共産主義的諸党派、グループ、個人との政治的協力関係をつよめ、さらには綱領上、戦術上、組織上の基本的一致が可能ならば、組織統合を実現し、日本革命のために貢献する。