最賃目安�一千円では、格差拡大・生活破壊続く
  一律1500円へ戦略を

 中央最低賃金審議会は7月28日、地域別最低賃金額改定の目安について厚生労働相に答申した。Aランク(6都府県)41円、Bランク(28道府県)40円、Cランク(13県)39円である。
 実際の地域最賃額は8月中に各地方最賃審で決まるが、仮に目安どおりに各都道府県で引き上げが行なわれた場合、その全国加重平均は時給1002円となる。額で41円(昨年度は31円)、率で4・3%(昨年度は3・3%)の引き上げである。これについて過去最高の引き上げ、1000円台達成などと騒がれているが、その問題点と課題について触れてみたい。
 中央最賃審の公益委員は今回、最賃法第9条2で言う「最低賃金決定の三要素(労働者の生計費、賃金、通常の事業の賃金支払能力)のうち、特に労働者の生計費を重視した」と説明しているが、一方で「中小企業の賃金支払能力は厳しいものがある」と述べている。公益委員の理屈としては、昨年10月から今年6月までの「持家の帰属家賃を除く総合」の対前年同期比は、4・3%だった。昨年は対前年同月比5%以上の月もあったが、最近は4%前後である。連合の今春闘の賃上げ率は3・8%だし、使用者側は従業員30人未満の賃上げ率2・1%にしろと言うが、4%+アルファの4・3%でいいのではないか、ということが見え見えの見解である。
 そもそも労働者の生計費を重視するというならば、昨年度中に最低賃金の再改定を行ない、5%程度の引き上げを行なうべきであった。それを放置した中央最低賃金審議会委員の責任は重い。特に再改定の主導権を発揮すべき労働側委員の責任は重いと言える。
 5年ぶりに開かれた中央最低賃金審議会「目安制度の在り方に関する全員協議会」が、この3月に出した報告は、ランク区分を4ランク制から3ランク制に変更した。これが大きく報道され、加藤厚生労働相も「地域間格差の解消に繋がることを期待する」と述べていた。この目安全員協の「3要素のデータにもとづき労使で丁寧に議論を積み重ねる」ということは、「支払能力」にこだわる使用者の主張を受け入れたものである。このような目安全員協の報告にもとづいて審議しているのだから、41円程度しか引き上げができないし、地域間格差は拡大するのである。
 全国加重平均1000円を上回るようにすることは、3月15日の政労使会談で確認されたことだ。あとは、どう数字いじりをして1000円をクリアーするかが、中央最低賃金審議会の使命となった。東京と神奈川で対象労働者の4分の1を占めている。したがってAランクを引き上げれば、1000円はすぐにクリアーできる。問題はCランクの引き上げである。労働側委員は、最賃最低額853円を47円引き上げて、800円台をなくすべきだと主張したそうだが、Cランクの引き上げは39円に留まった。
 Cランクの引き上げが、Aランクを上回ることなく決着したのである。連合は、地域間格差比率が79・6%から80・1%になり比率の面では縮小したと評価しているようだが、額でみるならば格差は219円から221円に拡大している。このままでは、地域間格差は拡大し、全国一律制は遠のくばかりである。
 全国加重平均1000円は、民主党政権時の2010年の雇用戦略対話政労使合意で、2020年までに達成する目標だった。その後復活の自公政権もこれを引き継いだ。しかしその後、デフレから物価上昇に転じたにも関わらず、自公政権はこの目標を今日までサボタージュしてきた。その結果、日本の最低賃金は、欧米諸国やまた韓国の最賃に比べても無残な状態に低落した。
 今回1000円超えなどと言っても、目安どおりでは、実際に1000円を超えるのは8都府県(東京、神奈川、大阪、埼玉、愛知、千葉、京都、兵庫)に過ぎず、39道県は1000円未満(内17県は900円未満)に留まる。8月の各地方最賃審を包囲し、多くの地方では実際の1000円超えを求めて、地域最賃改善をかちとる必要がある。
 今後の最賃引き上げの政府側の目標水準については、岸田政権の「新しい資本主義実現会議」で議論されることになっているが、今のところ具体性はない。連合は、次の目標として「誰もが時給1000円」を掲げているが、十年遅れているのではないか。
 最賃大幅引き上げを闘っている我々側は、全国一律1500円を早期に達成するための戦略をつくり、闘う側の合意形成を図ること、そして生活の困難を増している低賃金労働者・非正規労働者の声を受け止め、現場での闘いを組織し、具体的な成果を上げていくことが真剣に求められる。(K)


最賃大幅引き上げを求める
7・15新宿サウンドデモ

  1500円へ総結集

 最賃目安の審議が山場を迎えるなかの7月15日、「最低賃金大幅引き上げを求める新宿サウンドデモ」が行なわれ、起点の新宿アルタ前広場での集会、新宿駅一周のサウンドデモ行進に主催者発表で500名が参加した。主催は、7・15最低賃金上げろデモ実行委員会。
 この実行委は、全労協、全労連、最低賃金大幅引き上げキャンペーン委員会、また近年独自に最賃の街頭行動を行なっていた労働市民団体エキタスなど7団体で作られ、また行動には連合の全国ユニオンなども参加して、東京での最賃引き上げ運動の総結集の観があった。
 デモ行進前の簡単な集会では、全労協の渡邉洋議長、エキタスの学生さん、参院議員の大椿ゆう子さん(非正規労働者から社民比例で繰り上げ当選)などが発言。渡邉さんは、「岸田首相は1000円のアドバルーンを上げていますが、そんな攻防ラインに乗せられちゃいけません。あくまで1500円です!」と訴え、気勢を上げた。
 午後5時過ぎ、デモ開始。サウンド車を先頭に、「物価高すぎ、電気代上げすぎ、賃金ケチすぎ♪1500円!」「MoneyforLife!NotforWar!」などのコールをラップ調に乗せてデモ行進。街頭の大注目のなか、ぐるっと回って新宿区役所まで行進した。
 炎暑を吹き飛ばす、元気の出る共同行動であった。(東京W通信員)


最高裁が「宿題」、定年後再雇用の基本給
  誰もが公平な賃金を

 最高裁判所は7月20日、「再雇用の基本給が定年退職時の6割を下回るのは不合理」とした名古屋高等裁判所の判決を検討が不十分だとして破棄し、審理を高裁に差し戻した。
 この事件は、名古屋自動車学校の教習指導員だった男性二人が、60歳定年後に嘱託職員として再雇用されたが、仕事内容が同じなのに基本給が定年前の月16~18万円から7~8万円に下がったのは不合理だとして、自動車学校を訴えていた事件である。定年後再雇用の賃金水準の問題は、非常に多くの労働者に関わる大問題であり続けている。
 過去の最高裁判決では「不合理な格差」に基本給が含まれるのかどうかはっきりしていなかったが、今回の判決で「基本給も該当しうる」ことを明らかにした。その意味では一歩前進なのである。
 そして最高裁判決は、「嘱託社員の基本給は、正社員とは性格や目的が異なるとみるべきである」としたうえで、格差が不合理かどうかの判断は、基本給がどのような性質を持つべきかを検討すべきだと指摘した。勤続年数に応じた「勤続給」、職務内容に応じた「職務給」、職務遂行能力に応じた「職能給」などを示し、高裁審理では、それぞれの性質の検討が不十分だとした。
 政府の「同一労働同一賃金ガイドライン」では、基本給を決める要素として、「能力や経験」「業績や成果」「勤続年数」などを上げている。最高裁の指摘に従えば、「ガイドライン」に示された要素の性質や実態を明確にする必要がある。しかも使用者にはその説明責任がある。自動車学校側は「基本給は好不況や会社の業績などを総合して決めている」と主張しているが、このような説明では基本給減額の合理性は立証できないであろう。
 そのうえで労働者側としては、次の点を注意しなければならないだろう。日本の「同一労働同一賃金」とは欧米と異なり、均等待遇ではなく均衡待遇である。政府は2023年4月から公務員の定年延長を段階的に行なうことにしている。定年延長後の給与は延長前給与の7割程度になることが想定されている。民間でも、この7割を上回ることでできるかどうかである。
 また、「同一労働同一賃金」とは裏を返せば「異労働異賃金」であるので、働き方の違いがことさら強調される職務評価が打ち出されることが考えられる。そのことは、岸田首相が常々語り、「新しい資本主義実現会議」で議論されている「三位一体の労働市場改革」の一つである「日本型の職務給の確立」、「個々の企業に応じた職務給の導入」に影響を与えるだろう。
 企業ごとの勝手な職務評価ではなく、労働組合の産別の発言力を強め、社会的な公平な仕事評価が必要だ。(K)