活発化する沖縄地域外交
  アジア太平洋地域の平和構築
         —玉城デニー知事の挑戦

 玉城デニー知事が、7月初旬に訪中したことをはじめ、今年度に入って沖縄県の「地域外交」が活発化している。
 中国から帰ってきた玉城知事は7月21日、米軍基地・安全保障問題についての専門家会議、これを県庁で開いた。知事は冒頭、「アジア太平洋地域における緊張緩和と信頼醸成は、待ったなしで取り組むべき課題だ。最新の動向について皆さんの忌憚のない御意見を」と挨拶し、以降は非公開で会議が行なわれた。この専門家会議は一昨年に始まり、今回で3回めとなる。
 また知事は会議で、4月から新設した県の「地域外交室」の活動について、「海外事務所は実は経済を中心に回しておりまして、これからは総合的な戦略を立てる必要がある。来年度は課に格上げして、沖縄が持っているネットワークを最大限活用していきたい」と語った。今の地域外交室は玉元宏一郎室長含め3人しかいないが、地域外交課に格上げし、上海、北京、ソウルなどでの事務を強化していく意向とみられる。

▼地域外交室の設置目的

 沖縄は、いにしえの琉球王国時代以来、日本、中国、東南アジア諸国等とつながることで独自の国際ネットワークを構築し発展してきた歴史を有しています。沖縄はアジア・太平洋地域との地理的近接性や豊かな自然環境など、他の都道府県にはない優位性として活かせる様々な要素を有しており、人、モノ、資金、情報等が地球規模で行き交う現代、その優位性は、様々な分野での交流の中でこそ発揮されます。
 沖縄県は、「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」に基づき、観光、経済、環境、保健・医療、教育、文化、平和など多様な分野で築いてきた知識や経験、ネットワーク等を最大限に活用し、アジア太平洋地域の平和構築と相互発展に向け、独自のソフトパワーを生かして積極的な役割を果たしていきたいと考えています。(2023年4月7日・地域外交室ホームページ)

 今年度内に沖縄県地域外交基本方針(仮称)を策定し、また地域外交に関する有識者会合「万国津梁会議」を行なうとしている。
 玉城知事の地域外交推進と密接に関連するものが、知事や沖縄県議会による日本政府へのこのかんの要請である。一つは、敵基地攻撃能力を沖縄県に配備しないこと等を求める内容の、6月9日知事要請書「安保関連3文書の改訂に伴う自衛隊の配備及び運用について」である。また一つは、3月30日に沖縄県議会で可決された、「沖縄を再び戦場にしないよう日本政府に対し対話と外交による平和構築の積極的な取組を求める意見書」である。

▼6・9知事要請書

 自衛隊の配備については、我が国の安全保障や地域の振興、住民生活への影響を巡って様々な意見があるものと承知しております。
 こうした中、昨年12月16日に閣議決定された安保関連3文書(「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」)においては、「南西地域における防衛体制を強化する」等、本県に関わる記述も多く見られます。
 沖縄県としては、アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しさを増していると承知しているものの、抑止力の強化がかえって地域の緊張を高め、不測の事態が生ずることを懸念しており、ましてや米軍基地が集中していることに加え、自衛隊の急激な配備拡張により、沖縄県が攻撃目標になることは、決してあってはならないと考えております。
 つきましては、自衛隊の配備及び運用について、下記のとおり要望しますので、特段の御配慮を賜りますようお願いいたします。
 1、安保関連3文書策定の経緯、安保関連3文書の内容について本県に関連する可能性がある事項、本県における今後の自衛隊配備の予定及び検討状況等について、地元の十分な理解が得られるよう、事前に丁寧に説明を行なうこと。
 2、地元に与える影響が大きい自衛隊の運用については、速やかに県、関係市町村及び住民に情報を提供するとともに、地元が意見表明ができるよう、必要な協議を行なうこと。
 3、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする反撃能力を有する装備の本県への配備は行なわないこと。
 4、今後、本県における自衛隊の配備は、在沖米軍基地の整理縮小とあわせて検討すること。

▼3・30県議会意見書

 安保関連3文書には、反撃能力の保有、防衛体制強化のための南西地域の空港・港湾建設等の整備・強化及び第15旅団を師団に改編すること等、沖縄の軍事的負担を強化する内容が記述されている。また、沖縄本島のうるま市をはじめ宮古及び八重山地域へのミサイル配備、航空自衛隊那覇基地の地下化及び沖縄市の弾薬庫建設等、本県の軍事要塞化も進んでいる。(中略)。反撃(敵基地攻撃)能力による攻撃は、相手国からのミサイル等による報復を招くことは必至で、「沖縄が再び「標的」とされる」との不安が県民の中に広がっている。
 当該3文書は、中国の対外的な姿勢や軍事動向等を国際社会の平和と安定への最大の戦略的な挑戦と位置づけており、南西諸島への軍事的機能の増強が進んでいる現状は、明らかに中国を意識したものである。
 一方、日本と中国はこれまで「日中共同声明」をはじめ、「日中平和友好条約」、「日中共同宣言」、「戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明」及び「日中関係の改善に向けた話し合い」等に基づき、両国関係のさらなる深化と諸問題の解決を進め、平和共存の道を歩んできた。
 中国は今や日本にとって最大の経済パートナーで、お互いにとって必要不可欠な関係が既に構築されていることから、日中両国は、国民の命を脅かし、アジア太平洋地域において甚大な経済損失を生み出すことがないよう緊張緩和と信頼醸成を図り、平和構築への最大限の努力を払うべきである。
 よって、沖縄県議会は、日本政府に対し、対話と外交による平和構築への一層の取組により、決して沖縄を再び戦場にしないよう強く求め、下記事項について強く要請する。
 1、アジア太平洋地域の緊張を強め、沖縄が再び戦場になることにつながる南西地域へのミサイル配備など軍事力による抑止ではなく、外交と対話による平和の構築に積極的な役割を果たすこと。
 2、日中両国において確認された諸原則を遵守し、両国間の友好関係を発展させ、平和的に問題を解決すること。

 以上の県議会決議は、日中間の「4つの基本文書」と「2014年の合意文書」を遵守することを日本政府に求めていることに特長がある。
 玉城知事は、県会諸与党及び無所属によるこの県会決議に助けられながら、また、ミサイル配備に反対する島々の連携と、沖縄の戦場化に反対する新たな市民運動の台頭に促されることによって、6・9対政府要請に進んだとみられる。
 続いて知事は、6・23「慰霊の日」全戦没者追悼式の「平和宣言」において、辺野古新基地建設断念等のこれまでの要求を述べるだけではなく、以下の見解を新たに表明した。
 
▼6・23平和宣言

 昨年12月に閣議決定された安保関連3文書においては、沖縄における防衛力強化に関連する記述が多数見られることなど、苛烈な地上戦の記憶と相まって、県民の間に大きな不安を生じさせており、対話による平和外交が求められています。
 ロシアによるウクライナ侵攻から1年4か月が経過しようとしており、現在も憂慮すべき事態が続いております。沖縄県民は、国際社会の連帯と協力による一日も早い停戦が実現し、平穏な生活を取り戻せることを切に願っております。(中略)
 アジア太平洋地域における関係国等による平和的な外交と対話による緊張緩和と信頼醸成、そしてそれを支える県民・国民の理解と行動が、これまで以上に必要になってきています。
 私たちは、アジア太平洋地域における観光、経済、環境、保健・医療、教育、文化、平和など多分野にわたる国際交流を通じて、沖縄県が築いてきたネットワークを最大限に活用した独自の地域外交を展開し、この地域における平和構築に貢献できるよう努めてまいります。

 このように玉城沖縄県政は、これまでの革新系県政のように県民大会などで日米両政府に要求を提出し、対峙するという手法を維持すると同時に、沖縄じしんが地域外交で行動し、地域情勢を多少とも変革していこうという主体性を強めている。また、沖縄県民の大衆運動のほうも、自衛隊ミサイル基地化に反対する具体的な抵抗闘争・抗議行動であるとともに、「ミサイルより戦争回避の外交を!」「沖縄を平和発信の場に!」などのスローガンに示されるように、沖縄地域外交を促がすものとなっている。
 知事の「平和宣言」には、6・9要請書には掲げられている敵基地攻撃能力の沖縄配備反対が明示されていない。これらへの批判の声もあった。地域外交を言っても、基地強化と具体的に闘わなければ、きれいごとに終わると批判することも可能だろう。港湾・空港使用など知事権限の行使は、辺野古工事強行への対応でも常に問題となってきた。沖縄県知事が権限を発動しても、国が対抗措置を執ればほぼ負けるという不条理の中、知事は難しい判断を強いられる。結局、中央政府を変えるべき、「本土」の我々の責任が問われることとなる。
 軍事・外交権を中央政府が握るなか、自治体外交に限界があることも明らかである。しかし自治体は、国が対立していても住民交流を組織したり、軍縮政策・外交政策を住民目線で提案したりすることができる。それらがうまく行なわれるならば、その政治的影響力には限界がないとも言えるのではないか。
 さて、7月に入ると玉城知事は、日本国際貿易促進協会の訪中団に顧問として参加し、7月5日北京で、協会会長・河野洋平氏らと共に、李強首相と会談した。この訪中団の性格からして平和構築がメインの会談でないが、報道によると知事は、「日本と中国の友好関係に貢献したい。対話によって地域の平和が保たれるようにしたい」と表明している。知事は今後、台湾訪問も予定している。観光・経済から入っていくと思える。
 また河野会長は翌6日に、中国外交トップの王毅氏とも会談している。河野洋平氏や福田康夫元首相ら、日中関係を重視する自民党重鎮が、日中関係改善で果たすべき役割は大きい。河野洋平氏は、月刊『世界』の昨年4月号で、南西諸島の非武装地域化を提案している。
 玉城知事の訪中に先立ち、照屋義実副知事は6月3日、韓国・済州島を訪問した。その後「慰霊の日」に、米海軍基地に反対している済州島民の訪沖団が来た。7月18日、核搭載とみられる米戦略原潜が釜山に、続いて米攻撃型原潜が済州島に入港し、米・韓と朝鮮とが極度に緊張する状態となった。東アジアで戦争が起きると、沖縄の島々も、済州島も、真っ先に戦場にされてしまう状況を共有している。
 米中関係では台湾島もまさに同様であり、沖縄住民・台湾住民の平和構築での相互理解、関係発展が重要となるのではないか。(W)
 

福島第一原発の汚染水海洋放出、8月下旬強行か?
 アジア太平洋民衆連帯で放出阻止

 福島第一原発事故の放射能汚染水の海洋放出が、ついに8月下旬に開始されかねない。韓国の世論や中国政府など国外の反対の声が高まっているが、わが国内の世論がそれらに比べて弱い。
 日本では、韓国や中国の原発もトリチウムを放出している、韓国は国内政局がらみ、中国は対中包囲への対抗で政治的に反対しているにすぎないとか、廃炉作業のためには放出するしかない、処理水だから環境影響は大したことない、などの世論操作が幅を利かしているからである。(しかし、メルトダウンした炉心に触れて出る汚染水と、通常運転の二次冷却水に含まれる放射性物質とでは科学的にも社会的にも性質が異なる。前者を意図的に投棄するのは史上に例がない)。
 放出を強行すれば間違いなく、福島・日本の海産物などに風評被害が起き(すでに被害は始まっている)、放射能汚染の実害も起こる。そして、アジア太平洋地域での日本の評判を落とす。
 8月18日の首相官邸前「金曜行動」(午後6時半)などを盛り上げ、あきらめることなく、この愚行を中止に追い込もう。
 最近の経過では6月26日、太平洋諸島フォーラム(豪、ニュージー、パプアなど)が、日本の海洋放出反対を声明。
 7月4日、来日したグロッシ事務局長が、「国際的な安全基準に合致している」とIAEA報告書。しかし「放出は日本政府が決定することであり、推奨するものでも承認するものでもない」と責任回避。
 7月14日、西村経産相が全漁連に説明に来たが、坂本会長は改めて反対を表明。
 7月17日「海の日」、いわき市小名浜港で、「汚染水を海に流すな!海といのちを守るパレード」が行なわれ、福島県内外から約300人。
 韓国では、ユン・ソンニョル政権が日本政府に調子を合わせているが、市民はグロッシ訪韓に合わせて7月8日、ソウルで放出反対デモ。7月10日には、来日した韓国国会議員団(共に民主党など)と日本市民側とで、官邸前行動及び屋内集会。さらに7月27日、釜山市民などが来日し、反対署名十一万余を原子力規制委に提出した。
 海外からの批判は、日本政府の決定は一方的だ、陸上保管など代替案が検討されてない、情報の信頼性に欠けるなどであり、日本市民が頷けるものである。我々は海を共有しているのだ!(A)