東アジアで戦争を起こさせないために③
 中台関係基本資料


 来年1月の台湾総統選挙が注目されている。東アジアで戦争を起こさせないという当面の課題からいうと、中国・台湾関係の緊張緩和を進める新政権が誕生することが望ましい。しかし、台湾・大陸・東アジアの労働者人民の闘争とその連帯を発展させるという長期的な課題からいうと、別な尺度も問われるだろう。
 時々の情勢を追うだけではなく、まずは当事者諸勢力の基本的主張を念頭に入れておく必要がある。(資料いずれも抜粋、解説は編集部W)

台湾同胞に告げる書
1979年1月1日

 わが中華民族は偉大な国家であり、世界人口の四分の一近くを占め、長い歴史と優れた文化を誇り、世界の文明と人類の発展への顕著な貢献は世界的に認められています。台湾は古代から中国の不可分の一部でした。中華民族は強い活力と団結力を持っています。歴史上、多くの外国の侵略と内紛がありましたが、どれも長い間我が国を分裂させたことはありませんでした。過去30年間の台湾の祖国からの分離は人為的なものであり、我が国の利益と願望に反するものであり、このまま続けてはなりません。(中略)
 覇権主義に対抗し、アジアと世界の平和と安定を維持するため、各国の国民と政府は私たちに大きな期待を寄せています。すべての中国人は祖国の繁栄を誇りに思っています。一刻も早く分断の現状を打破し、力を合わせれば、人類の未来に貢献できることはさらに無限大です。祖国統一を早期に実現することは、台湾同胞を含むすべての中国人民の共通の願いであるだけでなく、世界のすべての平和を愛する人々と国の共通の希望でもあります。
 今日、中国の統一を実現することは、人々の願いであり、時代の流れです。世界は一般に、中国は一つしかなく、中華人民共和国政府が中国で唯一の合法政府であることを認識しています。最近の日中平和友好条約の調印と、中国と米国の国交正常化の実現は、潮流が進んでいることを示しており、誰もそれを止めることはできません。現在、祖国は安定して団結しており、状況はかってないほど良好です。(中略)
 我が国の指導者たちは、実際の状況を考慮し、祖国統一の大業を完成させるという決意を表明しており、統一問題を解決する際には、台湾の現状と台湾の各界の人々の意見を尊重しなければなりません。台湾の人々が損失を被らないように合理的な政策と措置を講じます。
 私たちは、1700万人の台湾の人々と台湾当局に希望を託します。台湾当局は一貫して一つの中国政策を堅持し、台湾の独立に反対してきました。これが私たちの共通の立場であり、協力の基本です。
 【解説】この告台湾同胞書は、中米国交回復と同時に、全国人民代表大会常務委員会を代表する鄧小平氏によって発せられたもので、これによって中国の台湾政策は、内戦完全勝利としての「台湾解放」から、台湾当局を交渉相手と認めての「両岸統一」に転換した。

九二共識
1992年3月

 中国側「双方とも『一つの中国』を堅持する」(一中原則)
 台湾側「双方とも『一つの中国』は堅持しつつ、その意味の解釈は各自で異なることを認める」(一中各表)
 【解説】この92年コンセンサスとは、92年の中台協議(中国側・海峡両岸関係協会、台湾側・海峡交流基金会)において、両岸が共に統一に努力する過程で双方が「一つの中国」の原則を堅持することで合意したとされるもの。しかし、双方でその解釈は異なる。
 2005年4月、連戦国民党主席は胡錦濤中国共産党総書記との60年ぶりの国共会談で、九二共識を国共両党の合意事項とし、馬英九国民党政権(2008年~2016年)は九二共識を中台関係の基礎としたが、その後の蔡英文民進党政権(16年~)は九二共識の存在を認めていない。

反国家分裂法
2005年3月14日
全国人民代表大会制定

 第1条 「台独」分裂勢力が国家を分裂させるのに反対し、これを阻止し、祖国平和統一を促進し、台湾海峡地域の平和・安定を守り、国家の主権および領土保全を守り、中華民族の根本的利益を守るため、憲法に基づいて、この法律を制定する。
 第3条 台湾問題は中国の内戦によって残された問題である。台湾問題を解決し、祖国の統一を実現することは、中国の内部問題であり、いかなる外国勢力の干渉も受けない。
 第5条 一つの中国の原則を堅持することは、祖国平和統一実現の基礎である。祖国統一の平和的方式による実現は、台湾海峡両岸同胞の根本的利益に最も合致する。国は最大の誠意をもち、最大の努力を払って、平和統一を実現する。
 国家の平和統一後、台湾は大陸と異なる制度をとり、高度の自治を行なうことができる。
 第7条 国は台湾海峡両岸の平等な話し合いと交渉によって、平和統一を実現することを主張する。話し合いと交渉はしかるべき段取りを追い、いくつかの段階に分けて行なうことができ、方法は柔軟であってよい。台湾海峡両岸は次の各号に掲げる事項について話し合いと交渉を行なうことができる。
 1、両岸の敵対状態を正式に終結させること。2、両岸関係を発展させる計画。3、平和統一の段取りと進め方。4、台湾当局の政治的地位。5、その地位にふさわしい台湾地区の国際的な活動空間。6、平和統一に関連するその他のあらゆる問題。
 第8条 「台独」分裂勢力がいかなる名目、いかなる方式であれ台湾を中国から切り離す事実をつくり、台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生し、または平和統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式その他必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる。
 第9条 この法律の規定によって非平和的方式その他必要な措置を講じかつ実施に移す際、国は最大の可能性を尽くして台湾の民間人および台湾にいる外国人の生命・財産その他の正当な権益を保護し、損失を減らすようにする。
 【解説】中国の歴代政権は、鄧小平「告台湾同胞書」のほか、1981年「葉剣英9条提案」、1995年「江沢民8項」、2008年「胡錦濤6項」と必ず台湾政策を発表する。これらは、平和統一に努力、一国二制度という基本線では変わらないが、内外情勢によって微妙な変化はある。江沢民時代には、統一交渉の無期限拒絶は武力統一の要件となるという論議(2000年「台湾白書」)もあったが、その後の胡錦濤政権は両岸の平和的発展を重視し、条件の成熟を待つ姿勢であった。
 反国家分裂法は、この胡政権の姿勢を反映しているが、平和統一・非平和統一の方策を律する唯一の立法となっている。

中国共産党第20回大会
習近平政治報告

2022年10月16日

 社会主義現代化強国の全面的完成に向けた戦略構想は、全体で二段階に分かれている。すなわち、2020年から2035年までに社会主義現代化を基本的に実現し、2035年から今世紀半ばまでに我が国を富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国に築き上げる、ということである。(中略)
 台湾問題を解決して祖国の完全統一を実現することは、中国共産党の確固不動の歴史的任務であり、すべての中華民族の人々の共通の願いであり、中華民族の偉大な復興を実現する上での必然的要請である。新時代における党の台湾問題解決の基本方策の貫徹を堅持し、両岸関係の主導権と主動権をしっかりと握り、祖国統一の大業を揺るぐことなく推進する。
 「平和統一、一国二制度」の方針は両岸の統一を実現する最善の方式であり、両岸の同胞および中華民族にとって最も有利である。我々は一つの中国の原則と「九二コンセンサス」を堅持し、それを踏まえて、台湾の各党派、各業界、各階層人士と、両岸関係・国家統一について幅広く踏み込んで協議し、共同で両岸関係の平和的発展と祖国の平和的統一のプロセスを推進していく。(中略)
 台湾は中国の台湾である。台湾問題の解決は中国人自身のことであるため、中国人自身で決めるべきである。我々は、最大の誠意をもって、最大の努力を尽くして平和的統一の未来を実現しようとしているが、決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとるという選択肢を残す。その対象は外部勢力からの干渉とごく少数の「台湾独立」分裂勢力およびその分裂活動であり、決して広範な台湾同胞に向けたものではない。
 【解説】習近平政権も2019年に、台湾政策の「習5項目」を発表しているが、ここでは最近の党総書記としての大会報告を紹介する。習近平政治報告は「社会主義現代化強国」の展望を全面的に語るものであるが、台湾政策に触れるのはそのごく一部分にすぎない。
 中国歴代政権は、台湾統一の時期的目標などは語らないが、習報告からすれば、今世紀半ば、人民共和国建国百年の2049年までには達成したいところだろう。中国はすでにグローバル大国であり、台湾統一は長いスパンで対処することが可能になっていると見ることもできる。米インド太平洋軍司令官が21年3月に、米上院で「今後6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性がある」と証言したが、日本に南西諸島ミサイル基地化などの大軍拡をさせるための謀略発言というほかはない。

民進党・台湾前途決議
1999年5月8日

 民主進歩党と全民衆の長期にわたる困難な共同の奮闘をへて、国民党に戒厳令と一党独裁の放棄を迫り、民主改革を勝ち取り、1992年の国民大会の全面改選、1996年の総統直接選挙、さらに憲法改正、台湾省政府廃止などの政治改造を達成し、これによってすでに台湾は事実上の民主的な独立国家になった。(中略)
 第一、台湾は一つの主権独立国家であり、独立の現状に対するどのような変更も、全台湾住民の公民投票方式を経て決定しなければならない。
 第二、台湾はまた、中華人民共和国には属さず、中国が一方的に主張する「一つの中国の原則」と「一国両制」は台湾には根本的に適用しない。
 第三、台湾は広く国際社会に参加し、国際的な承認を受け、国際連合およびその他の国際組織に加入することを努力目標として奮闘すべきである。
 第四、台湾は「一つの中国」の主張を放棄し、国際社会の認知の混沌と中国の併呑の口実を回避すべきである。(中略)
 民主進歩党の中国政策の最終目標は、中国との間の、互恵で、互いを付属物と見ない、平和で対立のない、対等な非従属的関係の確立である。民主進歩党は、中国政府が台湾人民の願望と台湾の主権独立の歴史的事実を正視することを希望する。また、中国人民が過度の民族主義思想の枷を取り除き、誠実に台湾人民の独立自主の要求、自由民主体制下の繁栄と発展への強烈な願望を理解することを希望する。さらに、民主進歩党は、まもなく到来する新世紀中に、台湾、中国双方が猜疑と対立を捨て去り、双方の歴史、文化、血縁における悠久の関係から出発し、地縁政治から、区域の安定、経済利益に着眼し、共存共栄の、互いに信頼し、互いに利益を得るすばらしい未来の姿に至ることを希望する。
 【解説】李登輝国民党政権(1988年~2000年)の下で、全中国を統治するとされる中華民国の虚構性が是正され、いわゆる「中華民国の台湾化」を意味する法制度改革が進められた。
 民進党はこれを評価し、これに対応し、この「前途決議」によって、すでに主権独立国家である台湾の現状を維持するという新路線を採用した。これにより、1991年の台湾独立綱領(主権独立自主の台湾共和国を樹立する)は棚上げにされた。

台湾原住民族権利宣言
1988年3月26日

 台湾原住民族は炎帝・黄帝の子孫ではない。原住民は全て南島語族に属し、自らを炎帝・黄帝の子孫とみなし等しく漢族に属する?南人、客家人や外省人とは異なる。
 台湾原住民族は台湾島の主人である。1620年の外来勢力の侵入以前には原住民は台湾島の唯一の主人であった。1624年オランダ、スペインの侵入から1949年中華民国政府の台湾移転にいたるまでの約四百年の間、オランダ、スペインは優勢な物質的力と宣教の熱狂とにより原住民に影響を与え、鄭氏と清帝国は漢族の絶対的人口数と効率のよい農耕・土地経営技術とにより原住民を脅かし、日本はなおいっそう南洋植民の目標にもとづき台湾経済資源開発の行動により原住民を圧迫し、中華民国は台湾を回復した後「台湾は中国に属する」との理念および「原住民の漢族化は理の当然」との信念から原住民を同化し、台湾原住民族を台湾島の「唯一の主人」、「主人の一人」から主人の地位の完全な喪失をもたらしたのである。しかし、原住民はその意識において依然として自分たちが台湾島の主人であることを完全に肯定しているのだ。(中略)
 一、原住民の全ての人権は尊重されねばならない。
 二、原住民は生活基本権(生存権、就労権、土地権、財産権および教育権)、自決権、文化的アイデンティティの権利を有する。換言すれば、自分自身の政治的地位を決定し、自由に経済的社会的文化的発展の方向を追求する権利を有する。これらの権利は強権的システムによって圧迫、侵犯、剥奪されてはならない。
 三、台湾原住民族の伝統的居住地区においては地域自治を実施する。自治機関および原住民事務を主管する行政機構を中央級機関に格上げする。国家は原住民の自治権行使を十分に保障し、原住民の政治、経済、社会、文化的諸事業を援助しなければならない。
 四、国家の各級議会においては、適当な数の原住民代表の枠を設けるべきである。各級議会では、原住民に関係する議案に関しては原住民代表は最終否決権を有する。
 【解説】1987年の戒厳令解除の以降、台湾原住民の復権運動も発展してきた。この宣言は台湾原住民族権利促進会によるものであるが、その後の立法院原住民族選出枠の獲得、2005年の原住民族基本法の制定などにより、宣言の諸要求は一定の前進をみている。(なお、先住民と言わず原住民と言うのは、台湾では先住民という言葉は「すでに滅んでしまった人」という意味合いになるからといわれる)。
 台湾原住民族運動は、「統独」論議においては中国人・台湾人双方の主権国家を前提とした論議を問い直す位置にいると言えるだろう。(了)
 
 付記。なお、我々労働者共産党は、中台関係などについては以下のような態度を取っている。
 「中台関係の将来が中国の内政に属し、また香港が中国の主権下にあることは明白であるが、また同時に、中国の主権行使において、台湾住民や香港住民の民意と自己決定権が尊重されなければならないことも明白である。」(2021年11月・8期第2回中央委員会総会決議)。