小学校教科書の「沖縄戦」等検定結果をみる
 自主修正は戦争への道

 文部科学省は3月28日、2024年4月から使用される小学校教科書と高校教科書の検定結果を公表した。
 小学校では全11教科で149点(冊)の申請があり、いずれも合格。おもに高学年の高校教科書では、共通科目で47点の申請があり45点が合格した。
 その検定結果の内容では、道徳(18年から教科化)で愛国心教育を強める検定意見が大幅に増えていること、また朝鮮人強制連行や日本軍「慰安婦」、沖縄戦の記述について、教科書会社の自主修正が目立っている等の特徴がみられる。これらは菅政権時の21年4・27政府答弁書、安倍政権時の14年改訂教科書検定基準に沿った動きの拡大である(政府答弁書、14年改訂検定基準については昨年の本紙9月1日号参照)。
 この小稿では、南西諸島ミサイル基地化によって軍隊の配備と住民の安全との関係が改めて問われている現状をふまえ、沖縄戦住民「集団自決」についての検定結果。また自民党のジェンダー平等についての反対姿勢が問題となっている現状をふまえ、性の多様性についての検定結果。この2つを小学校教科書で見ることとする。

●軍関与の記述なし

 小学校6年の社会科教科書では合格した3社3点(冊)で、沖縄戦のさなかに発生した住民「集団自決」について、旧日本軍による「軍命」「軍関与」に言及する記述が一切見られなかった。
 教育出版は、沖縄戦の写真説明で「多くの住民が集団で死に追いこまれるできごとが起こった」と記載し、東京書籍は、「アメリカ軍の攻撃で追いつめられた住民には、集団で自決するなど、悲惨な事態が生じた」と記述した。また日本文教出版は、アメリカ軍の激しい攻撃で追いつめられた住民の多くが「集団自決」に及んだと記載。
 どの教科書も、住民「集団自決」について「軍命」「軍関与」の記述をせず、従来の方針を踏襲、検定意見も付かなかった。
 琉球新報の取材に教育出版は、「発達段階を踏まえて理解できるように記述する場合は、それなりの紙幅が必要になる。総合的に判断して記述を見送った」と回答。東京書籍は、「発達段階を踏まえた上で、学習内容と照らし合わせて適切なものとなるよう編集委員会で検討した」と答え、日本文教出版は、「小学生向けということで、事象をより掘り下げるべきかという判断があった」と回答した。
 いずれも取って付けた回答で、6年生の子どもたちには、ていねいな学習展開さえあれば、充分理解できる力があることは明確である。学ぶべき事柄は学ばねばならない。
 17年告示の義務教育諸学校検定基準社会科では、「政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」の記載がある(この文言は14年改訂検定基準の踏襲である)。
 大江・岩波書店沖縄戦裁判では、2011年の最高裁上告棄却によって、下級審の判決が確定した。08年の大阪地裁判決は、「沖縄県で集団自決が発生した場所すべてに日本軍が駐屯」、「集団自決については日本軍が深く関わったものと認めるのが相当」と判示している。
 したがって検定基準からいっても当然、「軍命」「軍関与」は記述すべき事項である。検定結果は、戦争にかかわる真実を隠蔽し、子どもたちを戦争へと駆り立てようとするものである。

●ジェンダーは掲載増

 他方、性の多様性などについては掲載が増加し、前向きな傾向もみられる。
 小学校の保健体育では、LGBTQなど性の多様性について、申請した全6社が取り上げ、教科書の記述も大幅に増加した。
 しかし学習指導要領では、「異性愛」が学びの前提とされ、小学校3・4年生では「思春期には異性への関心が芽生え」と記述するのみで、性指向や性自認の多様性には触れられていない。現行学習指導要領の作成時に、LGBTQの当事者が「性の多様性を盛り込むよう」署名運動を展開したが、文科省は「保護者や国民の理解など考慮すると難しい」などと説明し、応じなかった。
 今回、記述の増加が可能になった背景には、パートナーシップ制度の全国的広がりや選択的夫婦別姓の制度導入論議が本格化するなど、多様な価値観が認められつつある社会情勢の変化がある。また、日本の人権状況に対する国際的な批判や、日本が今年のG7サミットの議長国であることなど様々な要因が考えられる。
 日本文教出版の5・6年保健では、「人によっては、自分の生まれた性別と心の性別が一致しなかったり、同性の子を好きになったりすることもあります」と記述。東京書籍は、従来の教科書では、思春期には「異性が気になる」としていた記述を「異性など、ほかの人が気になる」と変え、「異性や好きな人と話したいけれどはずかしい」と「異性」に限定しない表現に変えている。
 また、ジェンダー平等や共生社会を意識した記述が、保健体育以外にも道徳や社会科・家庭科など他教科でも行なわれている。
 日本文教出版は保健体育3・4年生で、生け花をする男の子や女性運転手のイラストを示し、「自分らしく生きることは、男性か女性かにかかわらず大切なことです」と記述した。教育出版は4年道徳で、「○○のくせに」の題材を通じて、男らしさや女らしさの押し付けについて記載。教育出版の6年社会科では、「同じ社会で暮らす仲間として接してほしい」との願いを込めて、海外にルーツがある「ミゲル」と車いすの「つむぎ」というキャラクターを加えている。
 しかし与党自民党は、古い家族制度を評価し、夫婦選択別姓制度に根強く反対し、現在も党の多数は、一般宣言法次元のLGBT理解増進法案にすら抵抗している。統一教会との癒着を維持したままの、ジェンダー平等反対、差別排外主義の政党である。
 今回の人権を尊重する教科書記述に対しても、攻撃を仕掛けてくる可能性は充分考えられ、自民党と反動勢力に対するいっそうの闘いが必要だ。(教育労働者O)