袴田事件再審が確定、特別抗告断念で
 「次は狭山、私の番だ」

 袴田事件特別抗告の最終期限となった3月20日、午後4時半に「検察の特別抗告断念を弁護団が確認」との一報が東京高検前に座り込んだ人々に伝えられ、東京高裁差し戻し審での3・13再審開始決定の確定が明確になった。同日その後、東京高検山元裕史次席検事が集まった記者団に対応、検察の完敗が鮮明になった。
 袴田さんの再審無罪を求める実行委員会は、特別抗告の断念を求めて3月15日から20日までの日弁連前集会・宣伝行動に決起。20日には東京高検要請行動と午後5時までの座り込みを貫徹、この日の快挙をたぐり寄せた。
 また、憲法違反や判例違反を要件とする特別抗告が、最高裁で認められることは稀。検察は、最高裁で特別抗告が棄却された場合、87歳と高齢の袴田巌さんの審理をいたずらに引き延ばしたとの批判が拡大し、信頼を損なうダメージの大きさを判断して特別抗告を断念したとみられる。
 今後袴田裁判は、68年に死刑を言い渡した一審・静岡地裁で再審公判としてやり直される。一連の経過をふまえて、無罪判決の公算は大になったと言えるだろう。

  ▼3・13再審開始決定

 1966年に静岡県旧清水市で一家4人が殺害された強盗殺人事件で袴田巌さんの死刑が確定した袴田事件は、第二次再審請求審で2014年静岡地裁が再審開始決定と釈放、しかし18年東京高裁が取り消し、20年に最高裁が高裁に審理差し戻しとなっていた。この経緯は再審法上の問題を示すが、この差し戻し審で3月13日東京高裁は、検察の即時抗告を棄却、再審開始を決定した。
 大善文男裁判長は差し戻し審で、一審判決の前の重要な時期に従業員と警察官によって発見された犯行時の着衣、「5点の衣類」について捜査機関による捏造の可能性を指摘。袴田さんを犯人と認定することは到底できないと言い切った。
 死刑確定の根拠となった5点の衣類は、事件から1年2ヵ月後に、袴田さんの勤務する味噌製造会社の味噌タンクから発見された。差し戻し審では、血痕のDNA鑑定ではなく、衣類に付着した血痕の色が再審開始の決め手となった。
 当時の捜査資料では、血痕は濃赤色とされ、検察もその後の実験で赤みが残ると弁護側に反論していた。これに対し弁護側は、独自の実験を行ない、「長時間味噌漬けにされた血痕に、赤みは残らない」と主張。衣類は発見直前に捏造された疑惑を指摘した。
 高裁は、提出された専門家の鑑定書などを総合的に判断。弁護側の実験結果は化学的に裏付けられたとして、「1年以上味噌漬けにされた衣類の血痕に赤みが残らないことは認定できる」と判断した。さらに、5点の衣類について「被告が入れることは事実上不可能」、「事件から相当期間経過後に、第三者が味噌タンク内に隠匿した可能性を否定できない。第三者は捜査機関の可能性が極めて高い」とまで踏み込んだ。
 この再審開始決定に、東京高検と最高検は「証拠捏造は論理の飛躍」と反発。捏造の隠蔽と自己保身をねらって特別抗告を画策したが、それも撤退に追い込まれた。

  ▼次は狭山再審開始

 狭山闘争(第三次再審請求審)は、11人の鑑定人証人尋問と、万年筆インクの裁判所による鑑定を求める事実取調べ請求書を提出し、決定的重大局面を迎えている。万年筆、脅迫状の筆跡・識字能力、足跡、スコップなど寺尾不当判決を覆すに充分な証拠が上げられている。
 今年5月で事件発生から60年。3月13日、石川一雄さんは、東京高裁の袴田事件再審決定を受けて、「袴田巌さんの再審開始は確信していた。次はいよいよ狭山だ。私の番です」と力強く表明した。
 袴田さんの無罪判決をかちとり、狭山事件では鑑定人尋問・再審開始を実現、石川さんに掛けられた見えない手錠をはずさねばならない。決戦の時は今。(O)


3・21関西
 狭山事件の再審を実現しよう市民のつどい

 「万年筆」も「衣類」も捏造

 3月21日の午後1時、大阪市の西成区民センターホールにて、約300名近くの参加者によって「第7回狭山事件の再審を実現しよう市民のつどいin関西」が開催された。主催は、同つどい実行委。
 前日の、袴田事件での検察側の「特別抗告」断念を受けての、まったくタイムリーな集会となった。
 記念講演では、落語家・露の新治さんが、「お笑い人権高座」と言う小噺を軸にユニークな切り口で「差別」の不当性を語った。自身の大学在学中に狭山事件と出会い、無期懲役判決に衝撃を受けたこと、部落差別や在日差別との目覚め、それ以来の関わりが笑いの中で表現された。
 続いて弁護団報告。指宿昭一さん(狭山再審弁護団)が、「私はもともと労働運動をしていて、その裁判闘争のなかで担当弁護士が倒れたことで、自分が勉強して弁護士になったという活動家弁護士です」と述べつつ、自身も担当する袴田事件では、多くの支援者、メディア、市民の力が抗告断念に追い込んだとして、以下のように報告した。
 袴田事件も狭山事件も、警察権力の捜査段階における「捏造」の積み重ねであり、袴田事件では唯一の証拠である衣類と血痕が、警察権力の「捏造・デッチ上げ」であると立証されたことで事件そのものが崩れた。
 狭山事件では第3次再審の状況について、①再審のハードル自身は非常に高い、②強い証拠でなければならない(証人尋問と万年筆のインク鑑定の必要性)、③素材がなければ鑑定できない(全証拠の開示)、④新証拠192点が出てきていること、⑤事実調べ(現地調査等)を行なうことが必要。この数年、再審―無罪判決が連続しているなかで、これまでの寺尾有罪判決の中身が揺らいできている状況にある。(科学鑑定の進歩のなか、以前は分からなかったことも解析できるようになった。例えば、石川さん宅で見つかったとされる万年筆のインクからは、被害者が使っていたインクに含まれているクロム元素が検出されず、被害者の物ではないことが判明した等々)。
 狭山再審緊急署名は50万筆近くになってきているが、袴田事件の再審開始を武器にもっと多くの市民へ訴え、メディアへの働きかけを強めること、また現在の裁判では被告に圧倒的に不利な再審制度を改め、被告のための「再審制度」の創出を目指さなければならない、と指宿さんは締めくくった。
 再審開始アピールがビデオ上映で、石川一雄・早智子さん、続いて袴田ひで子さんから行なわれた。石川一雄さんは、「次はいよいよ狭山だ。私の番だ。」と呼びかけた。
 また、獄友トークセッションとして、青木恵子さん(東住吉事件冤罪被害者)と西山美香さん(湖東記念病院事件冤罪被害者)が、獄中生活の話と現在の国賠裁判の報告を行なった。
 集会後のパレードは、岸の里駅から釜ヶ崎銀座の目抜き通りを行進して市民にアピール、旧西成労働センター前まで行われた。(関西S通信員)