言語道断!原発60年超運転
 GX基本方針・関連一括法案を撤回せよ!

 岸田政権は2月10日、原子力発電所の新規建設や60年超の運転などを盛り込んだ「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定した。
 当初は岸田政権も、安倍、菅政権と同様に「新増設」は語らず、原発依存「低減」の態度であった。しかしウクライナ戦争勃発後の昨年6月、経済財政諮問会議・骨太方針が、原発「最大限活用」の旗を振った。8月24日の第2回GX実行会議で、岸田首相は「新増設」の検討を表明し、また既存原発の再稼働も「国が前面に立つ」などとして、原発政策を大転換する方針を示した。12月22日のGX会議は、このための「基本方針」案を決定。年末からパブリックコメント(意見公募)が行なわれ、3966件の意見が寄せられて反対意見が大半を占めた。
 岸田首相は、再考を求めるこれら意見を無視し、ただ新規建設について「廃炉が決まった原発」とあったのを「廃炉が決まった原発の敷地内」に修正しただけで、「基本方針」の閣議決定を強行した。原子力最大限活用の「原発回帰」が政府方針となり、関連一括法案を今国会に提出するという。

  原発回帰の理由

 「基本方針」は、再生可能エネルギーの拡大、原子力の最大限活用、地域間の送電網の増強(今後10年で8倍以上)、脱炭素の投資促進策を掲げる。
 原子力の活用では、①審査などで停止した期間を除外して、60年(原則40年・延長20年)を超える運転を可能とする。②次世代革新炉を開発し、廃炉が決まった原発を次世代革新炉への建て替え対象とする。③核燃サイクル推進と高レベル核廃棄物の最終処分に向けた国主導の取り組み強化、等となっている。その眼目は、老朽原発の再稼働を国の方針としたことである。
 岸田政権は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰、電力需給の逼迫、脱炭素への対応には原発が必要なのに、国の原子力政策が明確でないため、原子力業界が設備投資や人材育成ができずにいる、つまり原子力サプライチェーンの危機への対応、これを原発回帰のおもな理由としている。
 しかし、この理屈は欺瞞に満ちている。原発会社は、「3・11」後も、原発再稼働に固執して毎年多額の改修費や維持費を支出してきた。各社の原子力関連設備投資総額は、福島原発事故前の年平均4600億円から、事故後は6400億円に増加している。増加分の多くは、安全対策などへの設備投資。
 つまり、原発再稼働を前提に投資を続けてきた、これをみすみす捨ててしまう手はないと言うことだ。原発回帰の理由の一つは、投資資本を救済するためである。

  無謀極まる60年超え

 「基本方針」は、60年を超える原発の運転を可能にし、将来の上限撤廃も視野に入れている。
 しかし、原発自体が危険極まりない施設である上に、世界が未だ経験したこともない60年超の運転(現在の最老朽原発は、スイスの原発で53年といわれる)などは、第二第三のフクシマを引き起こす。原発は、運転期間40年を前提に設計され、当然にも耐用年数を超えれば故障頻度が増加し、大事故の可能性が拡大する。
 40年に満たない原発でも、経年劣化によるトラブルが発生している。運転年数37年の関西電力高浜3・4号機は、蒸気発生器内に長年の運転でたまった鉄さびの薄片が配管を傷付ける事故が相次いでいる。運転47年、48年の高浜1・2号機の再稼働などは論外である。美浜3号機でも、その40年超え再稼働の以前に、一度も確かめられなかった配管が経年劣化で破れ、噴出した熱水と蒸気で5人が死亡している。
 さらに長期運転の危険性として、検査の限界がある。現在、設備の劣化状況は、定期検査や10年ごとの特別点検で確認されている。しかし、非破壊検査やサンプル試験などでは分からない劣化が存在する。その上、原子炉が実際にどう劣化していくのか、データさえ不足しているという。原発の部品数は1千万点。点検漏れのリスクが付きまとい、設計の古さも重大事故を引き起こす。
 それで、このかん原子力規制委員会では、「高経年化した発電用原子炉に関する安全基準の検討」会議が繰り返されてきた。2月13日の臨時会議でも、石渡明委員が「古い物の障害は避けられない。中断期間も延長期間のカウントになる」と主張し、60年超え容認に反対した。他の二人の委員も論議不足としたが、山中委員長が決定ということにしてしまった(詳しくは月刊「たんぽぽ」2月号に傍聴記あり)。40年超えは無謀、60年超えなどは無謀極まりない。

  革新炉という欺瞞

 「基本方針」は、老朽原発使い回しへの批判をかわすためにも、次世代革新炉の開発・建設を掲げた。しかし、その名称自体が欺瞞であり、大事故の可能性も否定できない。
 革新炉は革新軽水炉、小型軽水炉、高温ガス炉、高速炉、核融合炉の5種あるとされる。有力とされるのは革新軽水炉で、2030年代の前半に建設開始、半ばに運転開始を目指すという。
 革新軽水炉とこれまでの原発との違いは、メルトダウンした核燃料を受け止めるコアキャッチャー、放射性希ガスの分離・放出を止めるプルームホールド・タンクの設置等がある。しかし、これらは日本になかっただけで、海外では実用済みのものに過ぎない。
 三菱重工が関電など4電力と共同開発の加圧水型革新軽水炉は、建屋を岩盤に埋め込み、水密化で地震・津波耐性を強化した設計とされる。しかし、配管破損などで冷却機能が失われれば水素爆発を起こし、岩盤で囲っていても放射能が放出されることに変わりはない。

  「基本方針」の矛盾

 現在の政府エネルギー基本計画の電源構成は、30年に再生可能エネルギー36~38%、原子力20~22%を想定している。また経産省では、50年には再生可能エネルギー50~60%、原子力と炭素低減型火力などで30~40%としている。
 この想定では、原発比率が20%としても、30年時点で最低でも26基、50年には37基の稼働が必要となる。「60年廃炉」という酷い前提で予測しても、50年までには50基ほどの新設原発が必要になる。30年代前半に新炉建設とすれば、それから毎年数基を新設である。
 我々脱原発勢力は、老朽原発再稼働を阻止すれば、新増設が無い限り日本で原発はフェイドアウトしていく、電源構成20~22%は絵に描いた餅にすぎない、と考えてきた。今回の「基本方針」はこれに挑戦するものであるが、老朽原発を含めて原発が列島にひしめく事態となる。これを国民が容認するのか、政治的な矛盾を抱える。
 また、原発の価格競争力は再生可能エネに比べて低下しており、原発最大限活用は市場的にも無理がある。
 さらに、使用済み核燃料が満杯である。高浜、川内、大飯原発は、20年代中に貯蔵能力の限界を迎える。
 またさらに、「安保3文書」の転換と原発政策転換との関連である。日本の原発政策は核武装能力の保持が目的の一つであったが、長射程ミサイルを持てば、その先には核弾頭もという話になる。米国がこれを容認するハードルは高いが、日本の核武装も心配せねばならないようになった。
 今回のGX基本方針は、環境も生活も平和も脅かす。その撤回を求め、原発再稼働を阻止しよう。(O)