【沖縄からの通信】

再選・勝利した玉城デニー知事に求める
  沖縄の自己決定権確立へ前進を


 すでに周知のように、9月11日投開票の沖縄県知事選挙は、玉城デニー候補(オール沖縄及びれいわ)が、佐喜真・自公候補などを大差で退け、勝利・再選した。
玉城デニー339767
佐喜真淳 274844
下地幹朗  53667
 投票率は57・9%で、デニーが圧勝した前回63・2%を大きく下回った。
 今回の知事選の特徴の一つは、日本政府の沖縄選挙戦略が変化したことである。辺野古YESを公然と出してきた。
 この戦略の大変化はどこから来たのか。辺野古NO!が沖縄の民意ではない、と全世界に証明したかったのか。沖縄の反戦勢力にぎゃふんと言わせ、一挙に「台湾有事は日本有事」、国防最前線のナショナリズムを炎上させたかったのか。はたまた、日米共同作戦の正式作成のために、また南西諸島のミサイル配備、防衛予算の大軍拡などを進めるうえで、辺野古YESは通過せねばならない過程とみているのか。
 多くの沖縄人にとって重い関心事は、コロナ禍からの経済立て直し、教育、子ども・若者の貧困などであり、選挙政策で双方の取り上げ方に大きな相違は感じられない。特徴的な違いは、①辺野古新基地建設にNOかYESか、のほかに②沖縄人vs日本政府という立て方をするかしないか、③政府の沖縄予算をデニーになるとカット、サキマになると増額という脅しを岸田政権があからさまに表明したことを問題とするかしないか、であった。
 これらの違いが日本政府の誤算として選挙結果に出た、と言えるかどうかは分からない。予期せざる事態、安倍の銃撃死と統一教会騒動が起こったからである。佐喜真候補の統一教会との度重なる交際が明らかとなった。これは沖縄でも大きな影響を与えている。自公側はこのかん、那覇市以外の4つの市長選ですべて勝ち、7月参院選でも伊波に肉迫していた。しかしこの予期せざる事態が、予算を使った恐喝、あらゆる買収を無効にしたのではないか。
 下地ミキオは、「大浦湾埋め立て反対、馬毛島利用」、「自民党は一千億円の沖縄予算をカットした」、「政府に頼らない経済の構築」(サキマの反対)を唱え、オール沖縄票を喰おうとした。いくらかは喰った。しかし多くはサキマ票を喰った。
 前知事・翁長さんと違い、デニーは取り立てて未だに個性を出せていない。勝ったというより、サキマが自滅したと言ったほうがよい。
 今県知事選は、米中対立が激化し、「台湾有事」の暗雲がたれこみ出した時節での重大な選挙であった。玉城県政与党による「オール沖縄」は、辺野古NO・普天間閉鎖・オスプレイNOが共通項であり、日米共同作戦計画反対・自衛隊ミサイル基地化反対を掲げているわけではない。しかし、玉城支持の各勢力が、今日の情勢下で辺野古NO!を言うときに、米日によって沖縄が再び戦場として差し出される現状に対してもNO!であることは明らかである。
 こうした沖縄の民意がまた今回も、日本政府を選挙戦で負かした。民主主義に従うのであれば、当然政府は辺野古新基地を断念しなければならない。辺野古断念は、今日の情勢下では、米中対立の矢面に立たされているような沖縄の植民地的現状を変えようという大きなうねりにつながるだろう。

  「昔からそこに住んでいる人々」

 6万票差で勝利の報道の翌9月13日、「琉球新報」一面トップは、「新基地阻止、国連提起へ」となっている。
 この記事で玉城デニー知事は、「今の司法の限界、憲法を守らなくてもいいという政府、国会の限界が露呈している。」「世界がカウンターパート(対応機関)だ。」「次年度予算の編成過程で、沖縄の基地集中や日米地位協定の不条理などを国際機関に訴えていく」と述べた。
 振り返れば2015年、翁長雄志前知事は国連人権理事会で、「日本政府は、沖縄の自己決定権をなおざりにしている」と演説した。その出発前に沖縄自民の幹事長が、知事に「先住民族と言うのか」と質している。今回も同様のことを、沖縄の右派は言っている。
 9月26日、右派の市町村議による「沖縄の人々を先住民族とする国連勧告の撤回を実現させる沖縄地方議員連盟」がデニー知事に対し、国連行動について県議会での事前審議等を求めた。このかん、本部町、石垣市、豊見城市など4つの市町議会で、「沖縄人は先住民族ではない」とする意見書が議決されている。「先住民族撤回議連」なるものは、これらの地方議員有志によるもので、明らかに沖縄の自己決定権確立に反対するものである。また右派議員につながる極右は、沖縄の「自治」も「自己決定権」も「独立」も、またデニーも反基地も、すべて「中国のスパイ」と誹謗中傷している。
 これを見ても日本政府が、国際法に根拠をもつ沖縄の自己決定権の確立を、いかに恐れているかが分かる。
 国際人権規約、植民地独立付与宣言、先住民族の権利に関する国連宣言(2007年12月13日総会決議)などは、人民の自決権、住民の自己決定権、先住民族の権利を規定する。これらの条約や国連総会決議は、各国の国内法では救えていない弱者の人権を確保するために、長期の交渉や闘いをへて成立してきたものである。沖縄人がまだその権利を確立していないが、国際法的にはすでに自己決定権などを有しているとすれば、日本政府は何回も国際法を犯していることになる。
 翁長知事の場合、自己決定権(旧植民地人民や国内マイノリティなど、その適用に一定の多義性をもつ)は主張したが、「昔からそこに住んでいる人々」(indigenous people)、つまり先住民族の権利については言及しなかった。筆者としては、先住民族の権利に関する国連宣言でいう「昔からそこに住んでいる人々」に沖縄人は該当すること、それが自己決定権の核心部分となることを、デニー知事が主張することを期待したい。
 この方向を取れれば、沖縄の自己決定権確立運動はその概念を明確にして運動の意義を拡げることができ、日本政府の構造的な沖縄差別と抑圧に打撃を与えうるだろう。

  沖縄戦場化阻止と両輪で

 さて県知事選の後の9月25日に、「ノーモア沖縄戦・命どぅ宝の会」は、「台湾有事・日米共同作戦の正体~メディアはどう闘うか」というシンポジウムを宜野湾市民会館で開いた。
 シンポでは、台湾有事日米共同作戦計画をスクープした石井暁(共同通信)、南西諸島への米中距離ミサイル配備計画をスクープした新垣毅(琉球新報)、辺野古新基地の自衛隊共同運用をスクープした阿部岳(沖縄タイムス)の報道各氏などが報告し、「命どぅ宝の会」共同代表の山城博治氏を交えて討論した。
 「命どぅ宝の会」はこのかん、玉城知事に対して、台湾有事日米共同作戦の情報開示を日米両政府に求めることや、有事の住民避難は沖縄では不可能であることを表明すること等を要請している。シンポでは山城さんが、12月には街頭デモを計画したいと述べた。
 またその前の9月14日には、東アジア共同体研究所琉球・沖縄センターの主催で、「自己決定権の今」と題した学習会があった。
 島袋純氏らが沖縄自己決定権確立の政策論を提起したのが2005年だから、もう長らく少なからずの人々が自己決定権を論じてきた。しかし、ほとんどは概念が不明確で主観的なものに終始していると思える。それで、東アジア研のこの学習会に興味をもったが、方法論も立法論も無く期待はずれであった。(国際法は使える良いものがあっても、各政府に強制力が無いため、立法論・政策論・運動論が必要になる)。
 この催しでも新垣毅氏の講演があったが、こちらは素晴らしかった。新垣氏は筆者よりずっと若い人だが論理明解、飾り気のない率直な言葉には心が動かされた。彼は、沖縄は米・日の植民地となっており、民主主義を手にするためには自己決定権を確立せねばならないと語った。
 「米・日の植民地」、新垣氏のこの言葉を否定することができなかった。長らく筆者は一定の考えから、沖縄植民地規定には反対してきた。しかし、長い闘いをへて大衆的に使われるようになる言葉は現実を反映する。植民地ではないと言えば、奴隷になりたがる人ですかということに今はなる。
 「命どぅ宝の会」をはじめとする沖縄戦場化阻止の運動と、自己決定権確立の運動は、車の両輪のように一体的に進んでいくのが理想的だと思う。辺野古NO!と同様、南西諸島ミサイル要塞化に対し拒否権を発動するのが、沖縄の自己決定権である。自己決定権は、日本国憲法、合衆国憲法、日米安保条約・地位協定などを超越する国際法であり、闘えば沖縄人が手にすることができるものである。(沖縄T)