参院選結果
 安倍死んでも同情票無し
  立民・共産敗北、れいわ健闘、社民ふんばる

 7月10日に投開票された参議院選挙は、安全保障問題や改憲の是非、物価高対策などが争点であった。しかし終始盛り上がりに欠けただけでなく、選挙戦終盤の8日に起きた安倍元首相銃撃・死亡事件に圧倒的に耳目が集まって、選挙の争点などはどうでもよくなったかのようなひどい国政選挙であった。
 もともとウクライナ戦争を利用しての、国防は大事という与野党翼賛の傾向があった。そこに応援演説中の安倍銃撃事件によって、「選挙=民主主義を守れ」という与野党翼賛の大きな声が重なり、政治的対決点はますます不鮮明となった。
 選挙結果は、改憲勢力では自民党の勝利、公明党の停滞、日本維新の会の伸長、右派小政党(エコロジー右派の参政党)の登場となり、反改憲勢力では立憲民主党の敗北、日本共産党の敗北、れいわ新選組の前進、社民党の政党要件維持などとなった。結局、与党自民・公明による参院安定過半数の継続、改憲勢力による参院3分の2以上(166以上)の復活となった(自公と維新の合計だけでも167議席となる)。
 投票率は52・3%で、前回(19年)の48・8%を上回ったが、野党・市民共闘が始まった前々回(16年)の54・7%に及ばず、いぜんとして低迷が続いている。ふだん選挙に行かない人を、政権批判へ動かすことが依然できていないのである。
 他方では、突然の安倍殺害という事態が、自民党への同情票となることも懸念された。しかし結果をみると、この事件が、投票率の変動や自民党支持・不支持に顕著な影響を与えたとは言えないようである。当初のマスコミ報道では、事件背景としての宗教団体が「旧統一教会」であることが伏せられていた。自民党と旧統一教会の癒着関係がメディア主流でも報じられるようになったのは、投票日を過ぎてからである。そういう報道界の自民党への忖度がなければ、自民不利に働く事件でもあった。
 さて、自民党は議席を8増し、改選議席121の過半数を超える63人の当選を得たが、自民の比例区得票率は34・4%に過ぎない。政党支持率と言うべき比例得票率では、自民は前回、前々回と微減を続けている。自民の議席増はもっぱら、「1人区」の多くで野党共闘が失敗したためである。
 全32の「1人区」で、自民、公明、維新に対して、野党が候補一本化をできたのは今回13選挙区にすぎなかった。うち野党勝利は、青森・長野・沖縄の3選挙区。国民、共産が競合したが国民現職勝利の山形を入れて、野党4勝にとどまった(前回10勝、前々回11勝)。一本化できたところでも、立民や共産などの支持率低下、野党・市民共闘の内実の限界などによって、新潟、岩手などで負けてしまったのは痛い。
 沖縄では、「オール沖縄」の伊波洋一さんが、わずか2888票差で激戦を制した。この辛勝がよく総括され、9月11日投開票の沖縄知事選の勝利に活かされることを望みたい。
 比例得票率では、立民は12・8%に落とし(前回15・8%)、共産の比例得票率6・8%(前回9・0%)も大敗北と言ってよい。
 維新は14・8%と伸び、比例得票率では野党第一党となった。維新は選挙区では、京都、東京で負け、全国政党化にブレーキがかかったが、改憲旗振り政党として公明党に代わる位置に付けている。
 れいわは、比例232万票を得、比例得票率をほぼ維持(今回4・4%、前回4・6%)しており、議席3増を得た。山本太郎代表が衆院比例から参院東京選挙区に転戦し、自身が6位当選するとともに、大票田・東京の比例票を掘り起こした。今回は作戦勝ちと言うべきだが、それで終わらせないためには議会政党「地盤」作り、つまり来春の統一地方選をどうするかであろう。
 社民党は、元々強い大分、沖縄などで(立民への分離により)比例票を減らしたが、元々弱い東京、神奈川、埼玉などで予想以上に比例票を伸ばした。それで比例2・4%、126万票、福島みずほさん議席死守で生き残った。今回は新社会党が社民比例リストに参加し(岡崎彩子さん)、緑の党も支援した。しかし両者とも(国政選挙からの撤退以降は)元々多くは社民党票であり、今回の上積み効果は全国で5万票程度と思える。
 とくに東京で社民党比例票が、今回18万とほぼ倍増した(昨年総選挙では9・3万、前回10万)のは何故か。筆者にはよく分からないが、社民党の可能性を示した。東京選挙区に服部良一幹事長が参戦したからといって、そんなには増えないはず。「社会民主主義」がようやく若い世代に受けてきたのか、それもありえない。米国などで台頭しているのは、民主的「社会主義」であり、社民主義は資本主義と一緒に歴史的にはすでに終わっている。
 社民党には、当面生き残ったからといって保守的になることなく、より大きな新しい政治勢力の一つの土台となることを期待したい。(W)