最低賃金法の改正へ
 全国一律最賃制度の実現で、問われる課題は?

 向こう1年間の都道府県別の最低賃金が出そろい、10月1日から順次実施に入った。今年の最賃決定の特徴は、厚労省の中央最賃審議会がA~D4ランク別の目安を出すことをやめ、一律「28円」改善の答申を出したことである。公益委員はその理由の一つとして、地域間最賃格差の是正を掲げており、常識的に考えるとランク別目安の復活はもうない。
 つまり今年の最賃決定で、全国一律最賃制度へ移行する下地ができた。来年以降の最低賃金大幅アップを求める運動は、引き続き時間給「1500円」の実現を求めるとともに、全国一律制などを実現するための最低賃金法改正という法制度要求、これが前面に出でくる勢いとなるだろう。
 この最低賃金法改正の闘いでは、法改正に盛り込むべき諸内容は何なのかなどの政策論と、どのような全国的な闘争態勢が問われるのかなどの運動論とが検討される必要がある。
 最賃法改正の政策論では、地域間格差を是正すること、諸外国と比べて低すぎる現状となっている賃金水準を改善すること、最賃ラインで働く労働者の声が反映される制度とすること、これらが柱となるだろう。
 地域間格差の是正では、経過措置を含みつつ全国一律制とすることである。中央最賃審が全国一律最低賃金を決定し、地方最賃審が地方ごとの上積み等を決めることとする。
 賃金水準の改善では、ILO第131号条約(最低賃金決定条約)でいう「労働者とその家族の生計に必要な金額」を満たすものと明記し、現行法にある企業の「賃金支払能力」を削除する。最賃引き上げのための中小零細企業支援策では、社会保険料の減免(国庫負担の引き上げ)、零細雇主への直接支援などが考えられる。そして大企業の下請がメインである中小企業への支援としては、賃金改善分を価格に上乗せできるよう関係法を改正することが問われる。
 最賃ライン労働者の声の反映では、中央・地方の最賃審での労働側委員に、最賃ぎりぎりで現に働いている労働者の代表が参加する制度とすることなどが考えられる。
 最賃法改正の運動論はどうなるか。
 今年も、「最低賃金大幅引き上げキャンペーン」に結集する各労組や、全労連や全労協によって、中央・各地方最賃審などへの行動が取り組まれた。しかしコロナ禍の困難もあり、盛り上がったとは言えない。各地方では7県が「28円」を上回る決定を出した(島根32円、秋田・大分30円、青森・山形・鳥取・佐賀29円)。しかしこれらも、最低県にはなりたくないという県の意向の反映であり、運動で闘いとったとは言い難い。最賃決定額が日本の賃金労働者の半分(3千万人)に直接影響する時代といわれるが、月給制で正規雇用の労働者が多くを占める既存労働界では、時給最賃決定が所詮他人事のままである。
 やはり、コンビニやファーストフードなど最賃ライン労働者自身の当事者運動を、最賃法改正の最前線として作り上げる必要がある。そうした大衆運動で世論を引っぱらなければ、最賃法改正の法制度要求は国会まかせに堕してしまうだろう。野宿者自立支援法を実現した経験も踏まえながら、当事者推進の法制度闘争を検討しよう。(A)


建設アスベスト訴訟の5・17最高裁判決
 国と製造企業の責任認める

 2021年5月17日、最高裁判所第一小法廷は、建設現場でアスベスト(石綿)にばく露して、中皮腫・肺がん等アスベスト関連疾患になった責任が、国とアスベスト建材メーカーにあることを認めた。この判決は、08年に提訴した神奈川、東京、京都、大阪の第1陣訴訟に対する判決だが、全国の建設アスベスト訴訟のみならず、全国で苦しんでいる建設産業の被災者にも救済の道をひらくことになるだろう。
 判決は、国の責任の範囲を、アスベストが特定化学物質になった1975年10月1日から、白石綿の製造・使用等が原則禁止になる前日の2004年9月30日までとした。そして、国が「事業主に対し、屋内作業者が石綿粉じん作業に従事するに際し防じんマスクを着用させる義務を罰則をもって課すとともに、これを実効あらしめるため、建材への適切な警告表示(現場掲示を含む。)を義務付けるべきであったにもかかわらず、これを怠ったことは著しく不合理」であるとした。
 また、その適用範囲を一人親方にも広げた。建設産業では、多くの「一人親方」が実態としては労働者として働いているにもかかわらず、労災補償や国家賠償責任の外に置かれ続けてきた。本判決はアスベストばく露において、一人親方も労働者と同様であることを認めたものであり、大きな前進である。
 一方で、国の責任と適用範囲が「屋内作業者」に限定していて、「屋外作業者」ははずされた。建設アスベスト裁判闘争では、屋外作業であっても、屋内作業と同様のアスベストばく露がありうることを主張してきたが、それは認められなかった。塗装工、瓦職人、また電動工具を用いて外でアスベスト含有建材を切断加工した大工などの多くが、アスベスト疾患を発症している。屋外作業の有害性を否定したことは、大きな誤りである。
 判決は、アスベスト建材メーカーに対する共同不法行為責任(民法719条1項後段)を認めた。2016年の京都地裁以降、おおむね企業責任を認める判決が出ている。最高裁判決は、それを最終的に判断したものであり、大きな前進といえる。
 建設アスベスト訴訟の原告団は、全国建設産業労働組合総連合等と共に、企業に対する抗議行動を行なってきた。しかし、ニチアスらアスベスト建材メーカーは、門戸を固く閉ざし続けてきた。建材メーカーは、アスベストに被災した建設労働者にただちに謝罪し、その責任を明らかにすべきだ。
 一方、屋外労働者に対して、京都と大阪の1陣訴訟が、アスベスト建材メーカー責任を認めたにも関わらず、最高裁判決はそれを覆した。これは、屋外労働で国の責任を認めなかったことと一緒であり、絶対にゆるされない。
 2020年8月末時点で被災者原告数は、全国で933名であり、多くの原告が亡くなった。菅総理は、5月18日原告団らと面会し、「内閣総理大臣として責任を痛感し、そして真摯に反省して、政府を代表して皆さんに心よりおわびを申し上げます。」と言ったが、あまりにも遅きに失した、と言わざるを得ない。
 「国と建材メーカーは、『建設アスベスト被害者補償基金』を作り、すべての建設アスベスト被害者救済をすべきである」との5月17日原告団、弁護団声明を断固支持して闘おう。アスベスト被害労働者は労災認定を受けた者だけでも約1万8千人おり、裁判の原告はそのごく一部にすぎない。基金の創設によって、裁判に頼らなくても補償を得られるようにしなければならない。
 被害者補償と共に、今後の被害をなくすためには、建築物の改修解体時に、1.アスベストの有無を正しく調査する、2.作業者と周辺環境を守ってアスベスト除去を行なうための実効性ある対策を行なう、が必要である。
 国土交通省の推計によると、2028年度にアスベスト含有建材の建築物解体は10万棟に達するという。調査が正しく行なわれず、労働者が安全に作業できなければ、建築労働者のアスベスト被害は、終息せず拡大するだろう。
 政府は20年に石綿障害予防規則を改正した。23年10月からアスベスト調査は「厚生労働大臣が定める者」に行なわせなければならないことになったが、年間100万件以上ともいわれる建築物改修解体時の調査が正しく行なわれ、アスベスト除去も安全に行なわれる体制は、今のところ目途がたっていない。建築解体業に従事する外国人技能実習生も多い。彼らにアスベスト解体をやらせる経営者がいることは、想像に難くない。
 アスベスト使用禁止をしていない世界の国々も多く、アスベスト製造をしている国々もあり、アスベストマフィアのような輩もいる。最高裁判決が出たとはいえ、アスベスト問題解決の端緒を突破したに過ぎず、課題は山積みである。
 アスベスト問題は、製造・使用等を進めた国とアスベスト建材メーカーに責任があり、多くの労働者人民が犠牲になり、今も被害が続き、今後も拡大が懸念される。最高裁判決をばねに、われわれは一層闘いを強めていこう。(H)


東京9・17
「満州事変90周年・緊急集会」に200人余
 今こそ「日中不再戦」を!

 9月17日の午後、「満州事変90周年・緊急集会―戦争の歴史を隠蔽し、性懲りもなく中国敵視に走るのか―」が、衆院第一議員会館大会議室に200人を超える参加者を集めて開かれた。主催は、同緊急集会実行委員会。
 集会の趣旨は以下のとおり。日本国憲法は、侵略戦争への反省から「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し」と宣言し、また「日中共同声明」は「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」と述べた。しかるに、菅政権は日中関係の歴史的重みを忘れ、バイデン政権の対中国対決戦略にのめり込んでいる。菅政権の反中暴走は、国交正常化を実現した1972年の日中共同声明の精神を踏みにじる意味においても、絶対に許されることがあってはならない。米国の反中包囲網の手先となることは許されない。アジアとの友好・連帯を基軸に据えなければならない。
 集会では、主催者を代表して藤田高景さん(村山首相談話を継承し発展させる会)が挨拶したあと、前田哲男さん(軍事評論家)が「南西諸島へのミサイル配備は対中戦備であり、一触即発の緊張が高まっている」と指摘した。また沖松信夫さん(日中元軍人の会)が、「政府は嘘をついて戦争を遂行した」と当時の状況をリアルに語った。
 特別講演を浅井基文さん(元広島平和研究所所長)が行ない、「歴史認識問題を契機とした日中・日韓関係の悪化の非は日本政府にあり、台湾問題で対中対決に暴走するのは論外。日中共同声明の原点に立ち、自民党政治の親米反中路線の危険な本質を明らかにすることが重要」と述べ、また野党勢力の平和外交政策にも注文を付けた。
 最後に、伊藤彰信さん(日中労働者交流協会)が「日中不再戦の誓い」を紹介し、閉会の挨拶をして終了した。時宜にかなった集会であった。(東京Ku通信員)


9・17関西新空港反対現地集会

 9月26日、大阪府泉南市の岡田浦浜で、「関西新空港反対!泉州現地集会」が開かれ約50名が参加した。主催は、泉州沖に空港をつくらせない住民連絡会。
 小山広明代表が、「がんが見つかり闘病中だが、気が大事。それは住民運動から得られる。曲げることはできない、あきらめない、やめることはできない。来年は住民連絡会発足50年だ」とのあいさつ。その後、連帯共闘の発言の移り、釜ヶ崎日雇労組の三浦俊一さんが、関西の3空港の巨大な廃墟への道と、しかし敵基地攻撃能力を掲げる軍事基地への転用への警戒を訴え、またコロナ禍での非正規の仲間の闘いについて発言した。
 関西三里塚闘争に連帯する会の渡邉充春さんは、成田国際線は89%減、にもかかわらず第三滑走路のための空港機能強化に向けた工事が始まっていることを批判し、また、所有者不明土地対策として土地登記を義務化する法が成立したことの危険性について述べ、共有地の再登記の取り組みについて報告した。
 さらに、南西諸島への自衛隊配備に反対する大阪の会から堀文夫さん、東大阪三里塚闘争に連帯する会の山田謙さん、関西共同行動の星川洋史さんと連帯アピールが続いた。
 根本博事務局長が基調報告を行なった、「関西新空港では前年度発着回数で30%減、旅客数で8%しかなく完全に破綻している。国内線でも10%に達していない。オンライン観光、リモートワークなどの中で、国内線では代替交通機関がない場合のみの利用になっていくのではないか。環境破壊と資源収奪の現代文明が大きな岐路に立っている」、「南西諸島の自衛隊強化や、空港の軍事化についても反対を!」と述べた。
 コロナ対応で、短くしたコースでデモ行進が貫徹された。(関西S通信員)