8・7釜ヶ崎講座シンポジウム
「コロナ禍の中での生活困窮者支援活動をめぐって」

  関西での支援成果を交流・発信

 去る8月7日、大阪市中央区のエルおおさかにて、「コロナ禍の中での生活困窮者への支援活動をめぐって」と題するシンポジューム集会がもたれた。主催は釜ヶ崎講座。参加者は50名。なおライブ配信希望視聴者が95名をかぞえ、コロナ状況とはいえ関心の高さをうかがわせた。
 このシンポは、ここ1年半の新型コロナウイルス禍の中で、仕事や住まいなど、ひっ迫した状況に追い込まれた生活困窮者への支援活動が取り組まれてきた中、大阪での取り組みを報告しあい、成果と問題点を整理し、関西での共同した取り組みを発展・強化させるために企画されたもの。今回のシンポの特徴としては若い人を中心とした、生き生きとした発言と真剣な議論がなされ、多くの参加者からの質疑応答もされる中で、今後に向けての意義ある取り組みになった。
 当日のシンポジストは以下5人の方々。各所属、報告タイトルも以下。
 ①小林大悟さん(新型コロナ住まいとくらし緊急サポートプロジェクトOSAKA呼びかけ人)。「コロナ禍で生まれたALL大阪の連携」。
 ②川上翔さん(認定NPO法人ビッグイシュー基金プログラム・コーディネーター)。「おうちプロジェクト-コロナ困窮者の住宅確保応援プロジェクト」。
 ③永井悠大さん(認定NPO法人Homedoor相談支援員)。「個室シェルター『アドセンター』を通じた居宅移行支援の課題と展望」。
 ④松本裕文さん(NPO法人釜ヶ崎支援機構事務局長)。「コロナ禍で試してみた居住支援の特徴と特別定額給付金・ワクチン接種の支援」。
 ⑤小久保哲郎さん(生活保護問題対策全国会議事務局長、弁護士)。「コロナ災害を乗り越える何でも電話相談会と生活保護をめぐる状況」。
 そしてコーディネーターを務めてもらったのは、白波瀬達也さん(関西学院大学人間福祉学部准教授)であった。白波瀬さんは、2017年の釜ヶ崎講座23回講演のつどいで、「地域と貧困」と題したお話しをしてもらった人である。
 冒頭、釜講座の渡邉代表が開催趣旨を述べ、「2001年の野宿者支援法成立の高揚時にも、釜講座はシンポジュームを立ち上げる役割を担った。コロナ禍での関西での支援の仕組みを知ってもらい、世論を拡大することが急務だ」と発言、早速各シンポジストの報告に移っていった。まず5人の活動報告をそれぞれ語ってもらい、それを元に会場討論へと移行した。各氏の提起は概要以下の通り。

 緊急サポート大阪(小林 大悟)

 ①小林大悟さん。昨年当初からのコロナ拡大を目の当たりにして生活の糧を失う人の増大が想定され、支援組織の確立を痛感した(22団体での確立)。支援金は、クラウドファンディングで集めることができた。昨今の社会全体の信頼度の喪失、たとえば「貧困ビジネス」の存在などを考慮し、私たちは「大きな看板」を掲げて、安心と専門性の高い支援を意識した。対応する側のそれぞれの専門性の高さが、何よりも相手のストレスを緩和させる。人・モノ・情報等、資源の連携と共有化で、結果的にスピーディーな支援をはかることができた。今後も女性、外国人等、相談の対象の拡大と質の発展を期したい。

 ビッグイシュー基金(川上 翔)

 ②川上翔さん。ビッグイシュー基金は、2007年成立の社会的企業だ。昨年の4月ごろには、コロナによる困窮者への打撃拡大を想像すると不安がつのった。困窮者支援の基軸は安心であり、個室の居所の確保という必要性を考えて実行した。昨年7月、18団体で立ち上げた「おうちプロジェクト」がそれであった。基金は、コカコーラ財団の協力で5千万円が集まった。「おうちプロジェクト」は、不動産をはじめ家電等、生活必需品費用の貸付(限度20~30万円)を行なえる拠出型支援だ。結果1年間で207所帯へ対応、申込者数は40歳代がトップだった。一つ特徴なのは、居宅確保の過程で、大阪より東京のほうが家主・不動産業による審査のハードルが高いことが分かったこと。

 NPOホームドア(永井 悠大)

 ③永井悠大さん。コロナ禍での相談者のSOSが届く中で、困窮者は路上や施設利用者だけではなく、住み込みでの仕事など脆弱な条件で働く部分で拡大していることが見えてきた。生活を失う中でやはり静かな個室の中で今後を考えていける条件が必要との見地で、「アドセンター」を2018年6月から運営してきた。アドセンターは全室18。利用率は、コロナ禍で1・3倍となった。生活保護取得では、申請から入居まで完備された個室で過ごしながら、また必需品も受け取りながらの生活をサポートする。取得後のアフターフォローも行なっている。しかし、こうした仕事は本来、国の果たすべき役割ではないのか(行政不作為の助長)とのジレンマを、支援をすればするほど感じているところだ。

 釜ヶ崎支援機構(松本 裕文)

 ④松本裕文さん。コロナ特別定額給付金とコロナ・ワクチン接種について、釜ヶ崎での取り組み事例を述べたい。基本、住民票を持たない路上生活者やシェルター利用者に、どう措置を届けるかで対応してきた。昨年6月の議員さん(公明党所属)との学習を機に進展がはかられ、シェルター等、一時緊急宿泊所等にも住民票をおけるとする行政通達が来て、一定の道が開けた。本人確認は、特掃登録証などが代用されるとすることもできた。シェルター利用者では昨年8月で120名が住民票を取得し、給付につながった。居宅確保では住民票取得が基本の社会だが、ホームレス生活や困窮者には柔軟な対応が今後とも必要とされるし、取り組みが必要だ。
 住民台帳での接種券配布という方法で開始されたワクチン接種についても、社会医療センターや地域組織の職域接種枠の活用が今日までの関係の中で実現され、シェルター利用者の約65%が接種できたところだ。

 生活保護対策会議(小久保 哲郎)

 ⑤小久保哲郎さん。生活保護をめぐる状況と展望について述べてみたい。2020年4月、コロナ災害を乗り越えるいのちとくらしを守る何でも相談会をもった。結果、実に42万アクセス、当初5009件の相談が寄せられて相談会は継続されるにおよんだ。4月は自営、フリーランスの方々が主流の相談、6~8月には労働者(非正規が多い)からの相談が増加、労働相談にシフトする。しかし10月以降は減少、翌年2月に向かい無職者からの相談に推移した。ここで明白になったのは、雇い止めはパート・アルバイトから切り崩されていったこと、収入面では低賃金・低年金の補填として、ダブル・トリプルワークと70~80歳代の労働実態とが浮かび上がったことだ。
 これと並行する形で、国や当時の安倍政権からの「生保の利用」の推奨が始まった。しかしコロナ禍にもかかわらず、利用者数は増えていない。リーマンショックが鎮静以降、自民党は生保の保護基準の見直しを選挙公約にかかげ、順次保護基準の引き下げをはかってきた。生保パッシングの世論とともに、この間生保の利用者数は落ち込んでいる。また問題として、国が「緊急小口資金」「総合支援資金」等の返済義務を伴う「貸付支援策」を奨励し、さらなる借金債務社会の存続を放置していることも、生保からの逃避を生み出している。利用要件のハードルの一つである「扶養照会」は、今年4月に一定見直しの通達が得られた。私たちは、「生活保障法」としての新たな法制定を求め、申請者の権利保障の抜本的向上をはかりたい。また全国で係争中の「いのちのとりで裁判」で保護費引き下げの違法性を問うているので、ご支援を願いたい。

 「支援の資源共有化」
      を更に進め、前へ!


 以上の各報告の後、質疑応答では8人からの意見・質問があった。それは居住を中心とする困窮者支援運動の広がりと発展の今後、障がい者施設のありかたの問題点、生保制度の問題点の3点におよそ集約できるものであったと思う。それぞれに各シンポジストから丁寧な回答があったが、紙面の都合上、以下端折って回答を紹介する。
 1、住居支援では、仮設住宅のようなスピーディーな借り上げ、空き家をもつ家主さんの募集等、生活圏に密着する行政・公の動きが必要だ。また、公のアフターフォローは当然の仕事だと言える。2、その問題では支援組織内でも、例えば生保取得後のその人のフォローをどうしていくのかの議論は足りていない。特段奇抜なことができるわけではない。相談者に密着した支援を。3、生保が最後の行き場所なのか。生保を受けながら次の生活を再起できる柔軟な運用ができる制度が必要だ。4、昨年当初、コロナにより困窮問題で大変になる、早い支援準備が必要との思いは共通してあった。そしてコロナは長いスパンとして続くから今後、「資源の共有化」は外せないという気持ちが今は強い。また、支援の過程で権限を発揚できたのは大きな自信と力になった。5、生保制度改定により、一歩手前の困窮層への医療・教育・住宅・自立支援の単給支援ができる制度確立が必要、等々であった。
 これを受けて、コーディネーターの白波瀬さんが、「民間団体の支援力の高まりを改めて実感した」と集約しつつ、各シンポジストへ今後の抱負を求めた。各氏は総じて、「支援の資源共有化」により次の目的に向かって進みたいと応答し、これが今回のシンポの結論的なものとなった。
 またその中で、釜ヶ崎支援機構の松本さんが、「路上・シェルター暮らしの人はある意味、静かな人が多い。国がやることやからと押し黙ってしまっていた。わしらが言うてもなと……。しかし今回の取り組みの中で、これからはそうはいかんな、という意識が当事者に芽生えてきたと思っている。今度は、こちらから住民票とれたら選挙いかなならんやろと言わねばならない。センター問題でもそうだが、一緒に先のこと考えよ、という空気をつくる必要性を感じている」と述べ、会場からは拍手が起こった。
 最後は、釜ヶ崎日雇労働組合の山中さんが発言。今夏の第50回釜ヶ崎夏祭りの開催について、「コロナの中での開催となり、実行委員会としては祭りの趣旨にそってやり切れる範囲を話し合い、やっていく」と報告し、またセンター建替えについては、「野宿者を排除し、縮小したセンターになるというデマが流されているが、労働施設では旧センターの8割の面積を確保している。その中で今の釜に必要なセンターを求めて議論し、府市に要求を出しながら行動してきた。そこに生活する労働者・住民、釜に来たら何とかなる、という仲間の願いに報えるセンターを求めて、継続した闘いになる」とアピールした。
 時間的にも制約された中、白波瀬さんのそつのない進行に助けられたシンポジュームであった。
 今日、困窮者への支援は、当日の参加者すべてが、一過性の性格ではないことは認知するところだ。社会のゆがみと変化の中で外国人やシングルマザー、そして障がいをもつ人びとへの容赦ない格差・差別が広がる中で、支援を通じた共生・協働のネットワークの形成が今後とも求められる。(講座会員I)