「最賃全国一律1500円」は
「8時間働けば暮らせる社会」
実現の核心的要求だ

 
 「引き上げ目安28円・過去最大」とマスコミが伝える今年の最低賃金決定、その実情と課題について考えてみよう。
 厚生労働省の中央最低賃金審議会は、その小委員会が政労使審議を7月初旬に開始したが、今年も労使代表の見解が対立し、地域別最低賃金額の目安について「意見の一致をみるに至らなかった」。
 そこで7月16日の審議会では、地方最低賃金審議会での「審議に資する」ために、公益委員見解を地方最賃審議会に提示することを採決を取って決定した。
 その答申となった公益委員見解の内容は,従来AランクからDランクまで都道府県を分類し、それぞれに「目安」額を示してきたやり方を変更し、全国一律「28円」の増加を「目安」として提示することになっている。
 公益委員見解では、その理由として、①「春季賃上げ妥結状況」における賃金上昇率が、引き続きプラスの水準を示していること、②政府が「最低賃金について、より早期に全国加重平均1000円を目指す」と言っていること、③地域間格差がこれ以上拡大することを抑えるため、「地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き続き上昇させていく必要がある」と考えたことを挙げている。
 昨年の「現行水準を維持する」方針から、最賃引き上げに転換したことは良しとしよう。しかし、最低賃金の本来の目的である「国民経済の健全な発展に寄与する」(最賃法第1条)ということから、問題が立てられていないことに大きな間違いがある。
 最低賃金は、誰もが8時間働けば生活できる最低の賃金を保障するものである。もし仮に、全国各地の最低賃金が「28円」上がったとしても、全国加重平均は930円だ。月収にして15万円程度。手取りにしたら、12万5千円程だ。年収200万円以下はワーキングプアと言われている。年2000時間働いたとしても、186万円。ワーキングプアの賃金にしかならない。日本の労働者の4割、2000万人以上が非正規労働者として働いており、その多くが時給労働者で最低賃金に規定されて働いている。政府は現実の問題として、全国に大量の貧困層を作り出している。
 公益委員見解が、政府が「早期に全国加重平均1000円を目指す」としていることを見解の根拠の一つにしているように、最低賃金は政治的政策として決定されるものだ。政治情勢によって最低賃金の全国水準が決められることが、改めて明らかになった。
 また公益委員見解は、地域間格差を解消していくために、全国一律で「28円」の引上げとなったと主張している。公益委員は、最賃の地域間格差があるのはよくないと判断した。それならば地域間格差によって成り立っている「現行水準」を土台にして、「28円」引き上げるという考え方は一貫性のないものだということを認めなければならない。全国一律の考え方は、いまや全国どこでも生活費の差はほとんどなく、賃金格差があってはならないということが土台となっている。見解のよって立つ立場が大きく崩れている。
 今後の地方最賃審議会で「目安」通りになったとしても、最高額と最低額の差は221円と大きな違いが残っている。地域間格差の解消には程遠い見解、と言わなければならない。
 最低賃金制度は制度疲労というものではない。日本ではもともと、年功賃金が主流で、パートやアルバイトなど少数の労働者を対象として、生活補助的低賃金を前提としてつくられてきたものだ。今や最低賃金は、全労働者の4割に達する2000万人以上の非正規労働者、年収300万円以下の正規労働者下層が約1000万人、これを合わせた計3000万人、つまり全労働者の過半数を占める労働者の生活を規定するものに変化してきている。制度そのものの土台が変化しているのだ。結果として、最低賃金の現状は、日本の全労働者の賃金を低く抑えこむものとして働いている。
 最賃の決定は、各都道府県の地方最賃審議会にゆだねられている。地方最賃審議会で、低い最賃、地域間格差のある最賃に対し、いかに対処するのか。各地方の最賃審議会を監視し、働きかけて最低賃金の大幅引き上げをかちとっていかなければならない。
 「全国一律1500円」は、「8時間働けば暮らせる社会」実現の核心的要求だ。ねばりづよく闘っていこう。(M)