「国民分裂」五輪で菅政権自滅か
 コロナ・五輪「国民統合」破綻から、新しい民衆運動の前進へ

 菅政権は、国民多数派の開催中止の声を完全に無視し、東京五輪開催(オリンピック7月23日~8月8日予定、パラリンピック8月24日~9月5日予定)を強行しつつある。
 その狙いは、まずは五輪報道によって国民の耳目を政権批判からそらし、開催してそう悪くはなかったという方向へ世論モードの転換を図ること。まさに「五輪が始まれば盛り上がる」という愚民統治観である。そして、五輪に伴う新型コロナ感染拡大を一定の範囲内になんとか抑えて、オリ・パラ後の感染低減期まで政権をもたせること、最後に、ワクチン接種拡大の成果が出てきたと言いながら、解散・総選挙に入ることである。この目論見では、総選挙は10月衆院任期のぎりぎりとなる。
 この菅政権の策略は、東京五輪による人為的な感染拡大とそれによる死者数増加を当然とし、人命よりも政権維持を露骨に優先させる恐るべき犯罪である。
 しかし、この犯罪的策略はかならず破綻する。デルタ型変異ウイルスの拡大など新型コロナ感染状況はすでに危機的であり、「暴走五輪」を止めることはまだ可能だ。仮に東京五輪が開幕されてしまっても、すでに現況では、東京五輪は「国民統合の五輪」にはならず、「国民分裂の五輪」にしかならない。「コロナに打ち克った証し」どころか、自公政権のコロナ失政の証としての五輪にしかならない。自公政権が東京五輪にかけてきた政治目的は、すでに半分以上失敗しているのである。
 そうであれば五輪強行は、自公政権の延命を助けるよりも、自公政権を終わらせる過程となる。問題は、菅政権の延命をここまで許した国会野党勢力の議会主義と日和見主義、根底的には我々労働者民衆勢力の非力である。課題は、五輪強行が引き起こす危機的激動を見すえ、闘争態勢を立て直すことにある。

 「有観客」の暴挙

 このかんの経過はひどいものであった。
 菅は、6月13日のイギリスでのG7で、全首脳が東京五輪開催を支持したとデマ宣伝を行ない、日本の開催反対世論の外堀を埋めんとした。たしかに24年パリ五輪が心配なフランスのマクロン大統領は東京五輪を熱心に支持したが、米バイデン大統領さえ「あなたを支持する」と言っただけで、東京五輪支持とは言っていない。G7首脳宣言は、「安全・安心な形での開催支持」としただけである。
 この「安全・安心の形での」という前提条件は、菅政権の6月20日緊急事態宣言解除によって損なわれ、また翌21日の東京五輪5者協(菅政権・東京都・大会組織委・IOC・IPC)の異常な合意によって、完全にくつがえされた。
 5者協は、「有観客」を平然と前提とし、緊急事態宣言やまん延防止重点措置の下でのイベント5千人上限すら無視し、1万人まで構わないとした。しかも大会関係者や学校枠は上限枠外。学校枠という、五輪への小中学生動員を撤回しないのは犯罪的である。今後、第四次緊急事態宣言となっても、「無観客」を視野に入れるとしているだけで約束はしない。
 五輪をやるとしても「無観客」、この多数世論に公然と敵対した。朝日新聞社の6月19日全国世論調査では、東京五輪について「中止」32%(前月43%)、「延期」30%(前月40%)で、観客については「無観客」53%(同社の26日都内世論調査では64%)と出ている。5月下旬の菅政権による開催強行最終決定の以降、「中止」「延期」からある程度、「五輪をやる場合は無観客」に回る傾向となっている。
 これに関連し、感染症対策分科会の尾身会長が6月2日の国会で、五輪開催は「普通はない」と発言し、18日には「無観客が望ましい」等とする感染拡大リスク提言を提出した。
 また6月24日に西村宮内庁長官が、「天皇陛下は、ご自身が名誉総裁をお務めになる五輪が感染拡大につながらないか、ご懸念されている」と発言する事態となった。天皇徳仁の代弁とみられている。たしかに、「国民統合の象徴」とされる天皇が、感染爆発のなか「国民分裂」の東京五輪で開会宣言をやらせられるのは不愉快であろう。しかし、この代弁は、行政権へ影響を与える天皇の違憲行為である。
 こうした尾身氏の立ち回りや天皇・宮内庁の動向は、政府側の分裂の現れでもあるが、しょせん五輪強行が大惨事となった時の言い訳を用意しているものにすぎない。
 国会野党(立憲民主、共産、国民民主、社民)は6月15日、衆院に内閣不信任決議案を提出した。しかし、国会会期延長の拒否を不信任のおもな理由とする腰の引けた決議案で、自公と維新に否決されて終わった。感染拡大の五輪を止める、そのために菅政権を倒すという姿勢ではなかった。
 この野党共闘の弱さは、翌16日未明の参院で、いっそう明らかとなった。国民民主が、戦争法体系の一環といえる重要土地規制法案を成立させる側に回ったのである。

  五輪と国民国家の終わり

 さて、東京五輪をはじめ近代五輪は、ときどきの国民国家の政府と支配層が、一定の政治的方向性をもった国民統合に利用するために開催国を引き受け、また、国際オリンピック委員会IOCが、その国民国家と利権的に結託することによって今日まで続いてきたものである。すでに失敗している東京五輪は、国民国家と不可分に結びついた近代五輪運動の終わりの始まりとなるだろう。
 そして日本の自公政権が、コロナ・五輪失政で、国家の信用を低落させたことの意味は大きい。昨年来の世界的コロナ禍で、国民国家・資本主義・経済成長主義、これらの歴史的終焉がひろく意識されるようになり、またその反面、コロナ財政出動とワクチン接種で民衆を救済し国民として統合する国家、その再登場という側面も現われている。
 しかし、後者の国民国家再強化策は、しょせん一時的なものにすぎない。来るべき自公政権の倒壊が、国民国家を守る野党連合政権の樹立であるだけならば、何も本質的には変わらない。問われているのは、その「政権交代」を一つの過程として我々労働者民衆が、国民国家に代わる「新しい社会」の登場の道を拓くことである。(了)


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