福島第一汚染水海洋放出決定に、国内外で高まる抗議
 海洋放出は止められる

 4月13日、菅政権は関係閣僚会議を開催し、福島第一原発から発生した放射能汚染水の海洋放出を決定した。
 政府や東京電力は、「関係者の理解なしに海洋放出などの処分はしない」との約束を、2015年に福島県漁連と交している。決定は、その約束を反故にする重大な裏切り行為である。
 海洋放出は、放射性物質によって海を汚染し、十年かけて建て直してきた水産業の衰退を招く。さらに、地球環境を破壊して人類や生物の命と健康に重大な悪影響を及ぼすことも確実である。政府は当初から汚染水の海洋放出を目論み、放出しか方法がないと強弁できる段階までサボってきた。そして、全漁連の岸宏会長が絶対反対を明言したのも無視し、閣議決定を強行した。
 菅政権の悪らつなやり方に市民の怒りが爆発、12日、13日にわたる緊急行動が闘われた。
 東電は、政府決定を受けて放出設備の準備に入る。原子力規制委員会の許可等を含めて2年程度かかる見通しで、放出は早くて23年に始まる。
 しかし決定実施の阻止、あるいは政権交代による決定の撤回、これはまだ可能だ。何としても放出をさせてはならない。

   政府と東電の嘘

 政府と東電は、処理水を処分してタンクを解体し、そのスペースに、溶け落ちたデブリの取り出しのための模擬実験施設や訓練施設、デブリや使用済み核燃料の保管施設を設けるとしている。しかし、空きスペースの確保には疑問符が付く。処理水に含まれるトリチウムの総量はおよそ860兆ベクレル、年間の放出水準を22兆ベクレル以下とすると放出完了までに39年を要する。タンクは、年間30基程度が空くにすぎない。
 そのうえ、増設の必要さえある。福島第一には汚染水タンクが1千基あり、137万トン分の容量がある。現時点の貯蔵量は9割を超える125万トンで、20年秋頃に満水になる。23年の放出までにタンクが不足するのは明らかだ。政府と東電は、放出強行のために見え透いた嘘で民衆を欺こうとしている。
 政府決定の基本方針では、処理水に含まれる放射性物質トリチウムの濃度を国の基準の40分の1未満まで薄めて放出する。薄めても、総量は全然減らない。希釈して徐々に海に流せば、人体に影響がでないという嘘だ。
 しかし、トリチウムが発するベータ線のエネルギーは、人や生物の体を造る分子の結合エネルギーに対して何百倍もあり、人体などへの破壊力は計り知れない。また、生物の体内に入ったトリチウムは、DNA等にある水素と置き換わり、有機結合トリチウムとなって長く体内に留まるという。海洋生物の食物連鎖によって有機結合トリチウムが濃縮された魚や、水蒸気となって海から陸に拡散されたトリチウムを、人が体内に取り込めば健康被害を招く可能性は高い。まして処理水には、よりリスクの高いストロンチウム90や炭素14も含まれているという。
 汚染水の処理をめぐっては、市民運動などからも、地震に強いモルタル固化や巨大地下タンクの建設などが提案されてきた。トリチウムの半減期は短い。減衰を待つ長期保管がもっとも確実とみられている。
 しかし、菅政権はそれらの対案を無視し、既定方針どおりの海洋放出を決定した。海洋放出による汚染は、風評ではなく実害。政府の嘘は明白だ。
 
   4・12緊急抗議

 菅政権が決定を強行せんとする前日の4月12日午後、「汚染水を海に流すな!緊急アクション」が首相官邸前で闘われた。行動には、急な呼びかけにもかかわらず、200名が結集した。主催は、原子力規制を監視する市民の会、原子力資料情報室、国際環境NGOのFoEジャパン、ノーニュークスアジアフォーラムジャパンなど。
 まず福島瑞穂社民党参院議員が発言、「明日、政府は汚染水の海洋放出を決める。絶対に許さない。全漁連も、福島、茨城の漁民も反対している。海はつながっている。世界の人びとに危害を及ぼす」と訴えた。
 原子力資料情報室の伴英幸さんは、「県民漁民との合意なしに海洋放出はしない約束だが、政府も東電も約束を反故にした。廃炉にして40年で更地、誰が見ても無理だ。放出しなくてもすむ案が出ている。その声を聞け!」と怒りのアピール。
 ノーニュークスフォーラムの佐藤さんは、複数の市民団体で海洋放出反対の国際署名を経産省に本日提出したことを報告し、「世界から集めた6万4千名の署名を提出した。世界中が注目している」と指摘した。
 南相馬から神奈川に避難した村田さんは、「どこまで人を欺くのか。避難者はほっておかれ、亡くなった人は2300人を超えている。先が見えないと命を絶つ人が今もいる。何で自然まで汚すのか」と訴えた。
 行動は最後に、「汚染水流すな!」「漁業者の声を聞け!」のコールを官邸に届け、翌日の結集を誓い合った。

   4・13官邸前320人

 翌日午後の首相官邸前には320人が結集、朝の閣議決定に抗議の声を上げた。主催は、さようなら原発1千万アクション実行委。官邸前には、韓国をはじめ海外メディアも取材に集まり、関心の高さをうかがわせた。
 抗議集会では、鎌田慧呼びかけ人(ルポライター)がアピール、「モルタル固化やタンクでの陸上保管等の検討もなく」「大量の核汚染水を太平洋に流す。これ以上の環境破壊はない」。「閣議決定は永遠ではない。政府が変われば原発政策も変わる。あきらめてはいけない」と訴えた。原水禁の藤本泰成副議長は、「事故で子どもたちから豊かな自然の恵みを奪った。今回の決定はさらに、福島の人びとをないがしろにするものだ」と訴えた。
 行動は、「保管する新たなタンクの敷地確保、および代替案の検討」を求めるアピールを発して終了した。
 続いて夜7時、金曜行動を休止中の反原連(首都圏反原発連合)も、「緊急・トリチウム海洋放出反対!官邸前抗議行動」を80名余りの参加で行なった。
 闘いは今や、世界的な広がりをもとうとしている。アジア・世界の労働者民衆と連帯し、汚染水海洋放出を断固阻止しよう。(O)