〔綱領論争!新しい左派共同政治勢力へ〕

 未来社会が見通せない日本共産党綱領                
                              山崎  哲

 未来社会の建設を目指すわれわれの運動にとって、「第二極」の政治勢力との関係をいかに保つか、重要である。その際、国会および選挙闘争をいかに位置付けるかは不可避の課題である。
 日本共産党は、「国会で安定した過半数を占める」ことが未来社会建設の不可欠の条件となると主張する。確かに、結果として、国政選挙で過半数を占め、過渡期の政権を組織することがあるかもしれない。しかし、未来社会建設の推進力は国会の議決によってすすめられるものではない。労働者人民自身の行動的な自己統治組織が、その推進力になるはずである。
 日本共産党の綱領を点検しつつ、われわれの未来社会建設の展望を明確にしたい。

Ⅰ 日本社会に問われているのは資本主義の修正か社会主義革命か

 日本共産党は日本社会の基本的性格を、「対米従属と大企業・財界の横暴な支配を最大の特質とする」と規定している。
 国際的な位置づけとしては、「アメリカの世界戦略の半永久的な前線基地という役割」を押し付けられており、「高度に発達した資本主義国でありながら、国土や軍事など重要な部分をアメリカに握られた事実上の従属国となっている」ととらえている。
 国内的には、「大企業・財界がアメリカの対日支配と結びついて、日本と国民を支配する中心勢力の地位を占めている」として、「大企業は、大きな富をその手に集中して、巨大化と多国籍企業化の道を進むとともに日本政府をその強い影響のもとに置き、国家機構の全体を自分たちの階級的利益の実現のために最大限に活用してきた」とし、そのもとで「労働者は過労死さえもたらす長時間、過密労働や著しく差別的な不安定雇用に苦しみ」、「中小企業は大企業との取引き関係でも、金融面、税制面、行政面でも、不公正な差別と抑圧を押し付けられ、不断の経営悪化に苦しんでいる」、「農業は自立的な発展に必要な保障を与えられないまま、『貿易自由化』の嵐にさらされ、食糧自給率が発達した資本主義国で最低の水準に落ちこみ、農業復興の前途を見いだせない状況」に追い込まれている、とみている。
 その結果、「現在、日本社会が必要としている変革は社会主義革命ではなく、異常な対米従属と大企業・財界の横暴な支配の打破ーー日本の真の独立の確保と政治・経済・社会の民主主義的な改革の実現を内容とする民主主義革命である」、それは「資本主義の枠内で可能な民主主義的改革である」、と規定する。

 資本主義は世界的な体制である。資本主義が現在、新自由主義の段階に入っているのは、資本主義の世界的な歴史的発展の結果である。日本資本主義もその例外ではない。資本主義が資本主義である限りは、その世界体制とはずれたところで存在するのは不可能である。資本主義諸国の歴史の違いから、それぞれの特色はあるとしても、現代資本主義が抱えている戦争、貧困、自然破壊の諸矛盾は、どの資本主義国でも同様に深刻な課題となっている。
 第二次大戦後の一時期、アメリカを除いて、各国の独占資本はアメリカの世界的支配のもとで、各国独占資本の成長に力を注いできた。各国独占資本はまだ国内市場を基盤にして、国家の支援を受けながら、国家独占資本として成長する企業規模の段階にあった。この時期、朝鮮戦争、ベトナム戦争などアメリカによる反革命戦争の遂行、開発途上国に存在する資源を安価で取得し、開発途上国の経済発展を犠牲にしつつも、主に国内市場を成長の土台にして活動した。大きな戦争が回避され、各国独占資本は国際的な協調がはかられてきた。
 その後、急速に企業規模を拡大した各国独占資本は一国の財政の枠では収まりきらず、国家財政によるテコ入れにもかかわらず、不況が長期化するようになった。それを乗り越えるために、資本は一国の枠からはみ出して世界的規模での独占資本相互の競争の時代に入った。新自由主義の時代である。現在はそれがさらに進んで、各国の巨大独占資本が資源や商品、金融市場の争奪をめぐって競合するようになり、帝国主義国のうちにも「自国ファースト」を公然と標榜する国が出てくるまでになってきた。帝国主義諸国の調整がうまくいかず、利害の対立が拡大し、それぞれが自国の軍事力を強化し、結果として戦争の危険をいっそう大きくしている。
 独占資本の世界的規模での競争が激化し、独占資本自身が生き残るために利潤の獲得を最大限実現することに必死になっている。資本はコストの最小限化をめぐって、労働者への搾取や資源産出国からの資源の収奪をますます強化してきている。「1%の富裕層と99%の貧困層」と言われるように、労働者人民の貧困問題が大きな問題として表れている。2008年のリーマンショックや今回のコロナ災害による世界不況は、帝国主義諸国の下層に組み込まれた多くの労働者の生活、生存条件を破壊した。「8時間働けば暮らせる社会の実現」がこれらの人びとから叫ばれ、貧困問題への本格的な取り組みが求められているが、新自由主義下の資本家政府ではこれを解決する能力を持っていない。
 巨大独占資本が世界的規模で生き残りの競争を進めてきたために、一方で地球環境の大幅な破壊が進んだ。化石燃料の膨大な消費による二酸化炭素の排出の増加は、いまや自然破壊の主要な要因として知られている。気候変動や自然災害は、世界的規模で人類の生存条件を脅かし始めている。
 日本共産党は日本の対米従属からの独立、大企業・財界の横暴の抑制など資本主義の修正によって、当面の基本的な矛盾が解決されると主張し、綱領レベルの目標として定めている。日本資本主義だけが世界から切り離されて新自由主義でない資本主義国として存在しうる、と考えるのはユートピアでしかない。戦争、貧困、自然破壊という現代資本主義の持つ基本的な矛盾は、新自由主義の段階にまで発展した資本主義では解決しえない。
 日本社会の基本的な変革は、資本主義の下では実現されない。日米安保条約を廃棄し、米軍基地を日本から撤去すること、また「8時間働けば暮らせる社会の実現」は、資本主義の下では実現しない。現行の日本資本主義はまさにこれらの条件を前提にして成り立っているからである。これらは少なくとも日本社会に巨大な影響を及ぼしている大企業のすべてを社会的所有に移し、人民の管理、運営の下に置かなければ実現しえない課題である。原発を廃棄し、再生可能エネルギーを推進し、二酸化炭素の排出を抑え込む事業は大企業の今の生産様式を基本的に変更する以外にない。大企業を社会的所有に移し、人民が管理、運営する以外に解決することはできない。
 困難な課題であっても、問題を解決する目標を明確に提示し、綱領レベルの課題として、その実現のために運動を組み立てていくことが要請されている。

Ⅱ 議会制は中央集権国家の政治制度

 日本共産党は、「この(現行の――筆者注)憲法は、主権在民、戦争の放棄、国民の基本的人権、国権の最高機関としての国会の地位、地方自治など、民主政治の柱となる一連の民主的平和的な条項を定めた」、「日本の政治史上はじめて、国民の多数の意思にもとづき、国会を通じて社会の進歩と変革を進めるという道すじが、制度面で準備されることになった」と、国会を通じてて政治の変革ができる制度が確立された、と評価している。
 そして「日本共産党と統一戦線の勢力が国民の多数の支持を得て、国会で安定した過半数を占めるならば、統一戦線政府、民主連合政府をつくることが出来る」と展望している。民主連合政府に政策として、日米安保条約の廃棄、大企業に対する民主的規制、自然保護と環境保全のための規制措置などを実施する、としている。民主連合政府から「社会主義を目指す権力」を組織する過程も、「国会の安定した過半数を基礎として」国会を通じて運動を進めることを目指している。日本共産党は「国会の安定した過半数」の確保を社会変革の主軸に据えている。

 国会はしかし、中央集権国家の国家機関のひとつである。中央集権国家は、資本主義が要請する国家形態だ。資本主義は資本の自己増殖が社会の原動力になっている。資本の自己増殖は資本家が資金を投資して、土地や原材料を手に入れ、労働者の持つ労働力を買い入れて、商品を生産し、それを市場で販売することで投下した資金よりも大きな資金を手に入れ、次のより多くの資本投下を準備していくものである。その背景としては、商品が販売できる広い市場が不可欠である。商品を流通させるには共通の通貨が必要である。その仕組みが安定していて、安全で信用度の高いものでなければならない。それを保障するものが中央集権国家の存在である。中央集権国家は人口規模では数千万人から数億人の規模となる。
 中央集権国家は行政と軍隊があれば基本的要素は整うが、資本主義の下では見かけの上では「自由な」労働者人民をその支配下に組み込まなければならない。国会は労働者人民を含む国民の総意を反映するという偽装のもとに、労働者人民を納得させる手段として採用されたものだ。中央集権国家は、その時の支配階級の状態に合わせて様々な形態の議会制度をその政治制度として採用しできた。
 未来社会は人民の社会である。「儲けるためにものをつくる」社会ではなくて、「人民が本当に必要としているものを必要なだけつくる」社会である。社会にとって必要なものは何で、その量はどれほどのものか、わたしたちはそれを計算し、計画することが出来る。その主体となる組織は人民の自己統治組織である。
 自己統治組織は歴史的にはパリコミューン、ロシア革命などでその端緒を示してきたが、それらは三権分立の一機構としての議会制ではなくて、立法府であり、執行府でもある行動団体であった。レーニンが『国家と革命』で表現した「武装した大衆組織」を中核とした行動団体であった。現在の反戦、反貧困、自然保護のたたかいの中ではぐくまれている「大衆組織」が成長、転化したものである。未来社会を引き寄せる推進力は、資本主義社会の国家制度を破壊したうえでうちたてられる労働者人民の「武装した大衆組織」、人民の自己統治組織となるだろう。

Ⅲ 未来社会は生産手段の公有化だけでは不可能

 日本共産党は未来社会(社会主義社会)への変革について、「社会主義的変革の中心は、主要な生産手段の所有・管理・運営を社会の手に移す生産手段の社会化である」、「生産手段の社会化は、人間による人間の搾取を廃止し、すべての人間の生活を向上させ、社会の貧困をなくすとともに、労働時間の根本的な短縮を可能にし、社会のすべての構成員の人間的発達を保障する土台を作り出す」、「生産手段の社会化は生産と経済の推進力を資本の利潤追求から社会および社会の構成員の物質的な生活の発展に移し、経済の計画的な運営によって、くりかえしの不況を取り除き、環境破壊や社会的格差の拡大などへの有効な規制を可能にする」と、生産手段の社会化を社会主義社会への変革のほとんど唯一の方策のように主張している。
 政治制度としては、「国会の安定した過半数を基礎として、社会主義を目指す権力がつくられる」と国会を軸にして、国会によって選出された政府によって社会主義的変革は推進されると述べている。

 マルクスとエンゲルスはパリコミューンの経験を経て、人民革命はできあいの国家機構を破壊し、新しい自分自身の政治制度を打ち立てなければならない、という教訓を学びとった。なぜなら、既存の国家機構は、時の支配階級が階級支配を維持するための政治制度であり、人民の新しい社会はそれを破壊して、自分たちの社会にあった、階級社会を産まない政治制度を打ち立てる必要があるからだ。
 武家社会の時代は、武士階級が自分たちの階級支配を維持するために幕府と藩を組織した。藩は日常的な統治機構で、人民を武力で統治するために武力の及ぶ範囲で組織した。藩は人口規模では20万から30万人で組織された。資本主義社会では商品を基礎にした市場経済が展開され、中央集権国家と三権分立に基づいた議会制度が採用された。中央集権国家と議会制度は、資本家階級が自らの階級支配を維持するために必要な政治制度であった。
 未来社会は人民の社会である。人民が必要なもの、必要な量を決定していく社会である。レーニンは『国家と革命』で、社会主義社会では「社会の各成員は社会的に必要な労働の一定部分を遂行して、これこれの量の労働を供給したという証明書を社会から受け取る。この証明書で彼は消費手段の公共の倉庫から、それに相当する量の生活物資を受け取る」と述べている。しかし、「社会に必要な労働の一定の部分」とか「公共の倉庫から…生活物資を受け取る」といっても、それらはどこで、誰が決めるのか、管理、運営するのはどこの誰なのか、具体的には述べていない。レーニンは時代的制約によって明確にすることはしなかった。その後の歴史の中では、この部分が決定的な問題となった。しかし、いままでのすべての「労働者国家」は、アメリカをはじめとする帝国主義諸国の反革命の圧力に対抗し、また、自国の生産力が低く、生産力を急速に引き上げることが、社会を維持するために必要であったことから、生産手段の社会的所有を基本的に実現しながらも、国内に存在する諸階級層の利害を調整する必要があった。このもとで、資本主義の手法を採用してきた。歴史上の「労働者国家」は国家資本主義の枠内を抜き出ることはできなかった。生産手段の社会化を果たしても、政治制度の変革が実現しない限り、旧社会の支配様式が残存し、新たな階級支配が復活することを肝に銘じなければならない。
 資本主義から未来社会への発展の過程には、過渡期として、中央集権的な「労働者国家」が不可欠である。この時期は国家資本主義の政策が実施される。この時期はしかし、社会変革をさらに推し進めるか、旧支配階級の残滓が復活し、階級社会が再生するのか、せめぎあいの時期となる。社会主義の政治制度が明確に意識され、政治制度を社会主義に向けて強力に整えていくことが必要になる。
 未来社会は人民の社会であり、人民の自己統治社会である。未来社会は、人類がこれまで発展させてきた第一次産業、第二次産業、第三次産業の産業発展の基礎の上に、自力更生を基本として運営する一定の地域的広がりを持った社会である。人口の大きさでいえば、2000万人ほどの規模の社会が想定される。各々の自己統治社会は対等な連合として、地域的、世界的な相互支援の体制が構築される。その時、「武装した大衆組織」が社会の推進力となるだろう。(了)