任命拒否撤回!不退転の闘いを

 臨時国会が10月26日ようやく開会され、新・自公政権の菅義偉首相が、初めて所信表明演説を行なった。しかし、ここ一カ月の間、菅新政権の基本姿勢を問う問題として大きな関心事となっている「学術会議会員任命拒否」問題について、一言も語らず、したがって6名の任命を拒否した理由も説明しなかった。
 この問題で、任命拒否撤回を求める学者側が屈服したり、いい加減な決着が付けられるならば大変である。菅政権は、まもなく総選挙という時期に、一般国民は学者連中に同情はしないとタカをくくり、あえてこの攻撃を仕掛けてきた。懸っているのは、学者集団の利害ではなく、日本の民主主義である。官僚統制に続く学者統制、この先には戦争がある。
 他方、菅は「携帯値下げ」を大げさに掲げて、一般国民と若者の歓心をうかがい、国会野党が一致しつつある「消費税減額」に対抗せんとしている。国民多数派の形成と、それを可視化する大衆行動、任命拒否問題でもそれが問われている。(編集部)


学術会議任命拒否問題は
2015年安保闘争に始まる


  戦争のための学者統制

 臨時国会では菅首相の所信表明演説に対して、10月28日から各党代表質問が始まった。
 立憲民主党の泉健太政調会長は、「6名除外の撤回」と「理由の説明」を求めた。しかし菅は、これまでの「総合的・俯瞰的に判断」との抽象的文言に続き、「多様性念頭に」と事実に基づかない逃げ口上に終始した。
 また、同党の枝野幸男代表が、日本学術会議法は「学術会議の推薦に基づいて、首相が任命する」と規定する、この形式的任命権を否定するなら、憲法6条が「天皇は、国会の指名に基づいて、首相を任命する」と規定する天皇の形式的任命権も怪しくなる、と追及した。これに菅は、「文言のみで比較することは妥当ではない」と逃げた。(憲法6条については、かって井上清教授が、情勢によっては天皇の任命権が実質化される危険があると指摘したことがある)
 1983年参院文教委の政府答弁では、学術会議会員について「政府が行なうのは形式的な任命で、推薦された者は拒否しない」とある。最近、04年の推薦制度の改定時に「会員候補の任命を首相が拒否することは想定されない」とする政府文書も確認された。
 これらが安倍~菅政権になって変えられた。第二次安倍政権の内閣法制局が、「推薦された人を、すべて任命する義務はない」と確認し、14年頃から介入が始まり、警察庁出身の杉田和博官房副長官が人選をチェツクするようになった。(官房副長官が内閣人事局長を兼務する)。その杉田が、菅政権で再任された。
 菅は、「説明できることとできないことがある」と、26日のNHKテレビで吐露した。「説明できない」のは、政府に反対する者は排除し、学者すべてに忖度を強いるという目的が明白であるからだ。
 任命拒否された6名の内、行政法学の岡田正則・早稲田大教授は、16年の翁長沖縄県知事による辺野古埋立て承認「取消」に対して、安倍政権が行政不服審査法を濫用したことに反対する声明の呼びかけ人であった。(なお18年「撤回」に対しても、政府はこの濫用を重ねた)。
 憲法学の小沢隆一・慈恵会医科大教授は、15年安保法制国会の衆院特別委公聴会で安保法制案を批判した。
 刑事法学の松宮孝明・立命館大教授は、参院法務委で共謀罪新設を批判した。政治思想史の宇野重規・東大教授は、秘密保護法に反対表明し、また「安保関連法に反対する学者の会」の呼びかけ人であった。宗教学の芦名定道・京大教授も「学者の会」。日本近代史の加藤陽子・東大教授は、「立憲デモクラシーの会」の呼びかけ人である。
 任命拒否にいたるまでの、安倍政権と学者集団の対立の経過が重要である。日本学術会議は1949年に戦争協力の反省から創設され、当初は50年・67年の「軍事目的の研究拒否」声明など、政府や国民に影響力を持っていた。しかし、多くの学界が発達し、政府省庁の各審議会での学者調達も発達する中、学術会議は形式化し影響力を失っていく。
 しかし、2017年3月になって突然、学術会議は「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表する。これは、防衛省が15年に始めた安全保障技術研究推進制度に対し、「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と批判する声明であった。この軍学癒着に反対する声明が出てきた背景は、2015年安保法制闘争の一定の高揚が少なからぬ学者・研究者を巻きこんだことにあったと考えられる。
 こうして、15年安保を転機に、選挙で票にもならない学者統制に安倍政権が真剣になり、現在の任命拒否に至ったとみるべきである。
 しかし菅政権はこの反動的意図を隠し、任命拒否とは別問題の、学術会議の組織の在り方に論点をそらそうとしている。当初は、学術会議は国家組織の一つであり、国家公務員の任免権は政府が持っているのだと高飛車であった。批判がひろがると今は、ムダ金をなくす行政改革の問題であるとし、会員学者と国民とを分断しようと狙っている。
 たしかに、日本の科学アカデミーとされる日本学術会議が、内閣府管轄の行政組織であり、会員が特別国家公務員(自衛官と同じ)とされるのは奇異である。公務員給与が出ているのは専従職員であり、会員学者ではないが、「政府からの独立」「学問の自由」を掲げるのなら根本的な改革の必要がある。
 しかし、この課題は後でよい。今の課題は、菅政権が学者を公務員並みに、その指揮命令権下に置こうとしている攻撃を撃退することである。
 任命拒否問題は、国会では委員会審議で追及が続く。負ければ重大な禍根を残し、勝てば菅政権の早期打倒に直結する闘いである。(A)