〔綱領論争!新しい左派共同政治勢力へ〕 

  中国の「社会主義初級段階」論について
                               山崎  哲


 新型コロナウィルスが猛威を振るっている。新型と言われるウィルスも長年自然界には存在していた。人類と遭遇したのが最近というにすぎない。
 資本主義の下で人類が自然界に深く侵入し、いままで遭遇してこなかったところにまで入り込んだために人類に感染したものだ。これが世界的規模での物流、人の動きによって、急速に拡大された。資本主義がもたらした自然災害だ。
 資本主義が続く限り、今後も同様の自然災害は避けられない。資本主義社会に替わる未来社会をいかに展望するか、ますます問われている。
 隣国、中国で「社会主義社会」に向けての「努力」がすすめられている。その評価から始めたい。


一、中国の「社会主義初級段階」論

 中国共産党は、1987年開催した第13回大会の政治報告で「中国の特色ある社会主義の道に沿って前進しよう」を採択した。この大会で総書記に選出された趙紫陽は、中国の現状を「社会主義初級段階」と規定した。
 13回大会政治報告は、中国の「社会主義初級段階」の内容について次のように説明している。「わが国の社会主義初級段階は、しだいに貧しさや遅れを克服していく段階である。農業人口が多数を占める手労働を基礎とする農業国から、しだいに非農業人口が多数を占める現代化された工業国に変わっていく段階である。」「自然経済、半自然経済が大きな比重を占めるものから、商品経済が高度に発達したものへと変わる段階である。」「改革と探索を経て、活力に満ちた社会主義経済、政治、文化体制を打ちたて発展させる段階である。」(13回大会政治報告)と。
 13回大会政治報告では、「社会主義初級段階」は約100年続くとされた。中国が生産手段所有制の社会主義的改造が基本的に完成したとされる1956年から数えれば、2050年代中頃まで「社会主義初級段階」が続くとされている。
 「社会主義初級段階」の特徴は、①生産力が発達せず、機械化された道具を主とする生産の実行、②生産手段の公有化は不十分で、多様な公有制を主とする所有制の実行、③計画経済が不完全で、計画的商品経済を実行、④労働に応じた分配は不十分で、多様な労働に応じた分配形式を主とする多元的な分配制度の実行、⑤民主制度があまり健全でなく、労働者階級が指導し、労農同盟を基礎とする人民民主主義独裁はまだ発展過程にある状況とされた。
 中国共産党は2017年開催された第19回大会でも、習近平政治報告で「21世紀中葉に、中国を富み栄えた民主的文明的で調和した美しい社会主義現代化強国に築き上げる」と宣言しており、「社会主義初級段階」は21世紀中葉まで続くとされている。中国はいまも、生産力の発展を第一の課題としており、生産手段の公有化、計画経済の実行、労働に応じた分配の実施、民主主義の確立などは「不十分」な現実に置かれている。
 中国では、1992年共産党第14回大会で「社会主義市場経済」が、1997年第15回大会では国有企業の株式会社化や小国有企業の民営化が採択された。生産力の発展を第一の課題とすることによって、生産手段の公有化や計画経済の進展が停滞させられてきた。「民主化」の進展も抑えられている。しかし、結果として、高い経済成長をもたらし、中国のGDPは2010年に日本を追い越し、世界第2位となるまで成長した。
 中国の経済成長は、不足している資金、技術、人材を外国の既成のものを大規模に取り入れ、それを約2億人といわれる農民の出稼ぎ労働、いわゆる「農民工」と結びつけて、資本主義のグローバル化の中で、低賃金労働を提供しつつ、実現してきた。社会に商品経済、競争原理を導入し、人びとの間に巨大な格差、差別をもたらした。そこから発生する人びとの不満や要求を政治力や軍事力を使って抑え込みながら展開してきた。党、政府関係者の不正、汚職などの腐敗。それらを告発する人びとの発言を封じ込めるのが、現在の中国社会の特徴となっている。
 中国共産党は「改革、開放」をスローガンとするなかで、社会建設において依拠する社会層を、労働者・農民から企業経営者に軸足を移してきた。農業国が工業国に発展する過程で、生産力を発展させ、豊富な生産物を得ることが人民の主要な要求になっている発展段階の社会で、社会の富を少数の拠点に集中し、周辺の労働や資源を搾取、収奪する資本主義のやり方が道理にかなっている、といわなければならない。発展途上国の開発問題では「開発独裁」として多くの資本主義国でも同様の発展過程を遂げてきた。
 中国共産党はこれを「社会主義初級段階」として理論づけた。企業経営者に軸足を移した経済政策は企業経営者の利害を保障しなければならず、巨大市場と中央集権国家を運営しなければならない。共産党による国家権力の掌握と生産手段の公有化、計画経済の遂行が、この体制を支えた。しかし、そのもとで経済の発展を成し遂げたとしても、社会主義に到達しない。
 中国共産党はもうひとつの要素を「民主制度」の進展として位置付けているが、この体制のもとでは「民主制度」は進展しない。ここから社会主義に至るには、「民主制度」の質的発展が必要である。政治体制の変革が不可欠である。中国共産党は現代社会を「社会主義」と規定することによって、社会主義の政治制度から遠く離れてしまっている。


二、人民の自己統治社会(コミューン)と社会主義


 資本主義から社会主義への発展の過程では、過渡期として中央集権的な国家資本主義の時期を経なければならない。政治制度としてはプロレタリアートの独裁期である。社会主義の政治、経済、文化を準備する時期だ。
 プロレタリアートの独裁は共産党独裁ではない。資本主義を打倒し、労働者国家を組織する過程で、共産党が運動、組織を主導的、献身的に担うのは充分ありうることだし、そうあらなければならない。しかし、社会主義への発展の段階では、運動・組織主体は労働者人民の自己統治組織に立脚しなければならない。
 中国においては、その過程で共産党が労働者人民の闘争組織をほとんど直接指導し、活動の軸を担った。その結果、共産党の決定が党外組織の主導権を掌握し、共産党を中心に「伝動ベルト」のような指導体制が生まれ、共産党独裁の政治がすすめられた。
 社会の生産力が低く、労働者人民の生活が貧しい社会の発展段階で、人民の要求が物の豊かさの増大に向けられているとき、資本主義のやり方が道理にかなった方法として導入された。共産党独裁は、この時代背景から定着した。
 現代はこの資本主義の手法が、全世界で大きな矛盾に突き当たっている。貧富の差の拡大が、「1%の富者と99%の民衆」といわれるように耐えがたいものにまで広がっている。資本主義がもっとも先行しているアメリカで、その格差が顕著になっている。資本主義のやり方は、人類に生存条件を壊し始めている。
 資本主義的生産はその当然の帰結として、企業の巨大化をもたらし、企業活動の進展が地球環境に大きな変化を及ぼし、温暖化をはじめ、自然災害の多発、大規模化など、この面でも人類の生存条件を脅かしはじめている。中国経済もその領域に入ってきている。
 こうしたなかで、人びとの欲求は物質的豊かさを第一の欲求から後退させ、資本主義によってもたらされる負の帰結、戦争、貧困、自然破壊に反対し、人と人、人と自然の共存、助け合いの価値を求める方向に大きく変化している。いま、資本主義の擁護者は、戦争、貧困、自然破壊という人類の生存条件を脅かしている事柄に対して解決する手段を持っていない。資本家政府に要求しても解決することはできない。
 反戦、反貧困、自然保護のたたかいは、草の根の運動として世界中で広がっている。これらのたたかいのなかで、多くの人びとは、自分たちの要求が資本主義の枠内では解決されないことを学び始めている。反戦、反貧困、自然保護のたたかいは、未来社会の展望と結びつけてたたかわなければ解決の道は開かれない。
 未来社会は、人民の自己統治社会(コミューン)である。人民の自己統治社会は、人民が自分たちにとって必要なものは何か、その量はどれほどか、自ら計算し、計画し、実行することが基本となる。
 中央集権の巨大市場は資本主義の遺物である。人民が自己統治する社会では、巨大市場は必要としない。未来社会は第一次産業、第二次産業、第三次産業の発達した産業のもとで、需要と供給のバランスの取れた一定の広さを持ったひろがりをもって組織される。資本主義が世界市場を条件にして作り上げた巨大企業は不必要だが、一定の規模を持った企業は人民の生活を豊かにするために必要である。何が必要で、どれほどの量を生産する必要があるのかを計算し、計画するためには比較的狭いひろがりが良いが、全産業を総合して自律的に経済運営をするためには一定の大きなひろがりが必要だ。
 人民の自己統治社会は、自律的経済を運営する広さを持ったひろがりのもとに組織される。全国的、世界的には自己統治社会(コミューン)の対等な連合が必要になる。人びとは、自己統治社会を運営する力量、能力を育成しなければならない。
 民主主義の成熟がその条件になる。例えば、会議で、その成員が自分の意思を相手にわかりやすく表明すること。会議の決定が成員の多数の意思を表しており、決定の実行に責任を持つことなど、成員が民主主義を実現する訓練を受けており、実現する必要な能力を発揮するのでなければならない。この能力は現在の反戦、反貧困、自然保護のたたかいのなかで獲得され得るもので、人民の自己統治社会の源泉は現在のたたかいのなかにある。
 資本主義の下では労働者人民は生きるために多くの時間を取られているが、過渡期の社会では労働時間は短縮され、民主主義を獲得するために多くの時間を得ることができる。人民が民主主義を獲得する訓練は飛躍的に前進する。
 反戦、反貧困、自然保護のたたかいは、資本主義の枠内では根本的な解決はない。これらのたたかいは未来社会の展望と結び付けられてこそ、解決の糸口が開かれてくる。未来社会の展望とそれを意識化した、実力を持った革命政党の建設が不可欠である。(了)