東電刑事裁判で超反動の9・19無罪判決
  予見可能性すら否定

 9月19日、福島原発事故の責任を業務上過失致死傷罪として問う東京電力刑事裁判で、東京地裁・永渕健一裁判長は、旧経営陣3被告に無罪判決を言い渡した。
 永渕裁判長は、検察官役の指定弁護士が要請した実況検分を拒否し、安倍政権に忖度(そんたく)して、かねてから決めていたとみられる反動判決を下した。この無罪判決は、他の民事裁判にも大きく影響する。断じて許してはならない。
 判決は、事故の大きな要因を、主要施設の敷地の高さを上回る10m超の津波で原子炉建屋が浸水し、全電源を喪失したことだと認定した。
 それでも永渕裁判長は、海抜10mの原発敷地を超える津波の可能性について、3人が情報として接したのは、早くて2008年6月から09年2月にかけてだったと指摘し、指定弁護士が主張する、防潮堤設置や電源を高台に移設するなど対策をとっても、間に合ったかは立証されていないなどと結論づけた。
 さらに判決は、「事故を回避するには、事故直前の2011年3月までに原発の運転を止めるしかなかった」とし、その上で、生活・経済を支える電力供給の一部を担う福島原発の有用性を考えれば、原発停止には当時の安全基準に照らした慎重な判断が必要であり、また、止めろという意見が保安院や社内からもなかったとしている。
 そして、3人の結果回避義務について、「当時の社会通念の反映である法令上の規定は、絶対的安全性の確保まで求められていたわけではない」と主張。規制の枠組を超えて刑事責任を負わせることはできないと、無罪を言い渡した。
 さらに、2002年に公表された地震予測「長期評価」については、「信頼性や具体性があったと認めるには、合理的な疑いが残る」などとし、武藤、武黒両元副社長は長期評価の信頼性が低いと部下から報告を受け、勝俣元会長は大津波の認識が低かったとして、3人には「運転を止めなければならないほどの予見可能性は認められない」と言い切った。
 判決は、長期評価の信頼性を疑う理由として、専門家から疑問が示されていた、他の電力会社も全面的には採り入れていない、国もただちに安全対策や運転停止を求めなかったことなどを挙げている。
 この判決は、長期評価の信頼性について、これまでの東電民事訴訟の諸判決が、対策を講じるべきその信頼性を認定していることを全く無視している。長期評価の信頼性を認めたうえで、しかし刑事罰を課すには更にどのような要件が必要か、という論理で無罪判決を出しているのではなく、判決はハナから長期評価を否定しているのである。
 とくに東海第二原発が、長期評価を採り入れた対策を講じて、間一髪で大惨事を免れていることをどう考えているのか、全く無視している。判決は、津波対策をとっても間に合わなかった、事前に運転を止めるしかなかったと決め付けているが、東海第二は対策が間に合ったのである。
 また、手続きが遅れて原発停止が命じられるのを恐れ、津波予測を土木学会に丸投げにし、対策を放置したのは、東電ではなかったのか。判決は、人命の尊重と人々の生活をないがしろにした無責任・超反動判決である。

  怒りの地裁前
 19日、午前11時から東京地裁前では、「全世界が注目する判決の日です!」の声と共に数百人の集会が始まった。この数倍の人々が傍聴券を求めて並んだ。多数のマスコミも来て、しだいにごった返してくる。開廷1時15分、緊張が高まる。
 1時20分頃、マスコミ速報で「全員無罪」と流れると、「ふざけんな~」「ありえん!」などの叫びで騒然としてくる。そうするうち、傍聴していた支援団の人々が、「全員無罪=不当判決」のボードを持って、無念の表情で正門へ出てきた。大混雑の中、怒りの発言が続いた。
 誰も責任をとらない無責任ニッポン国、この凄まじい惨状が、さらけ出された日であった。

  緊急抗議集会 
 3被告の無罪判決を受けて、当日の裁判報告集会は「9・19不当判決緊急抗議集会」に変更され、会場の弁護士会館には500名超の労働者市民が結集、怒りと抗議の声に包まれた。主催は、福島原発刑事訴訟支援団。
 抗議集会は、神田香織さんの主催者挨拶で始まり、「安倍政権に忖度して無罪判決を出した。呆れ果てても諦めない。明るくしつこく闘い続けて、必ず勝つ」と闘争宣言を発した。
 参加者アピールでは、組織罰を実現する会の藤崎光子さんが、「東京地裁は真実を見ずに、無罪判決を出した。安倍内閣の圧力に屈した判決だ。3人は知らぬ存ぜぬで責任をとらない。107名の死者を出した福知山線脱線事故と同じだ。強制起訴されたJR西日本歴代3社長も、地裁・高裁で無罪だ。必ず東電3被告に有罪判決を勝ちとる」と表明した。
 元国会事故調の崎山比早子さんは、「安倍政権になってどんどん酷い国になり、今がどん底だ。真実を言い続けることが、この現状を変える。判決は多くの原発事故関連の裁判に影響する。3被告の責任を追及していく」と発言。
 弁護団挨拶では、河合弘之弁護士が登壇、無罪判決の論拠を明らかにした。そして、「裁判官は傍聴人を敵視し、検察官役の指定弁護士が要求する資料も渋って出さない、という酷い対応だった。放射線防護のために秘密は出せない、とまで言い切った。原発の危険性についての意識は全くない。必ずや控訴する。無罪の論拠を一つひとつ叩き潰して、有罪判決を闘いとる」と控訴する姿勢を示した。
 浪江町から兵庫県に避難した菅野さんは、「原発事故がなかったら、福島で幸せに暮らせた。この苦しみ、悲しみがなぜ裁判官には通じないのか。裁判所の人事を内閣が握っている。この政府を変えて忖度判決を覆す」と表明した。
 刑事訴訟支援団は、検察官役の指定弁護士に控訴を求める署名活動を呼びかけた。
 9月30日、検察官役弁護士は断固、控訴した。東京高裁で、有罪判決を勝ちとるまで飽くことのない闘いを貫徹しよう。
 また、今後予定される抗議集会にも、大結集でこたえよう。
 この東電刑事裁判の勝利は、他の原発関連裁判はもちろん、脱原発闘争全体の勝利を導く。地域・職場から、控訴審勝利の闘いを全力で担おう。(O)


東電判決直前9・8大集会
  闘いは東京高裁へ

 東電刑事裁判の9・19判決を目前にした9月8日、東京・文京区民センターで、「真実は隠せない―有罪判決を求める東電刑事裁判・判決直前大集会」が開催され、300名超が結集した。
 東電刑事裁判は、37回にわたる公判をもって結審し、9月19日が判決。それを前に、1週間にわたる判決前キャラバンが行なわれ、その最終日に直前大集会がもたれた。主催は、福島原発刑事訴訟支援団。
 これまで裁判は、大津波の予見可能性、結果回避可能性をめぐって争われ、公判で出された新事実によって、事故の真相が解明された。
 東電は、想定される津波に対して福島第一原発が安全性を有していないことを認識し、対策を進めていた。しかし、中越地震による柏崎刈羽原発停止により収支が悪化し、その上に多額の工事費が掛かるのを避けるために津波対策を先送りし、放置した。これが事故原因であり、過失責任は免れない。
 裁判の最終段階で示された山下和彦氏(当時東電原子力設備管理部)の供述調書が、それを裏付けている。
 さて集会は、佐藤和良支援団団長の挨拶で始まり、「9月1日から1週間、判決前キャラバンを郡山市から首都圏へと実施した。茨城県東海駅前をはじめ各地で街頭活動をし、20ヵ所500人が参加。闘いの輪が広がった。何としても有罪判決を!」と決意表明した。
 短編映画『東電刑事裁判 動かぬ証拠と原発事故』が上映された。
 弁護団からの発言に入り、最初に海渡雄一弁護士、「裁判をやれた、これは奇跡なんだ。様々な証拠が出てきたことも成果だ。今明確になっている事実も、裁判に打って出るまで分からなかった。裁判闘争で、検察の持つ証拠も見るべきとなって有罪の決め手、山下調書が出てきた。それ以降、隠された諸事実が出てきた」と裁判の成果を語った。
 甫守一樹、大川陽子両弁護士は、「東電社員で津波対策を担った高尾誠氏は、試算とは絶対言わなかった。かれらは15・7mの津波が来ると確信して対策を進めていた。『試算』は言い逃れのロジック」、「3被告は、最高経営責任者としての役割を果たさなかった」と各々主張した。
 河合弘之弁護士は、「こちらが勝てば、相手が必ず控訴する。どちらが勝っても最高歳までいく。最高裁で勝利を勝ち取るまで闘い抜く。目標は、全原発の廃炉。この闘いはその一部だ。気を長く持ってがんばる」と決意表明した。
 続いて、「福島からの想い・リレースピーチ」。
 いわき放射能市民測定室たらちねの、木村亜衣さんは語った。「これだけの事故を起こして、なぜその罪を認めないのか。私の娘たち、多くの人々の将来を変えているのに」。
 多くの入院患者が避難によって亡くなった双葉病院入院患者の遺族、菅野正克さんは、「津波の前の地震動によって、すでに原発は重大な危機に陥っていた。そこに津波が追い討ちをかけた。想定外との主張は、きわめて疑わしい」、「3被告の犠牲者、被害者を無視した態度には、怒りを禁じえない。東電には原発を動かす資格がない」と心底からの怒りの発言。
 集会は最後に、長谷川光志さんのギター伴奏で、『真実は隠せない』を合唱して終了した。(東京O通信員)


9・16さようなら原発全国集会8千人
  やめろ!避難住宅追い出し

 9月16日、東京・代々木公園で、「9・16さようなら原発全国集会」が開催され、主催者発表で8000人の労働組合員や市民が参加した。主催は、さようなら原発一千万署名市民の会。
 午後1時半からの本集会では、一千万署名呼びかけ人の一人・落合恵子さんの挨拶の後、フクシマの人たちからアピール。
 福島原発刑事訴訟支援団の池脇美和さんは、19日の判決を前に「東電武藤副社長が、土木学会に回して放置したことは明らか。無責任を許さず、忖度のない判決を!」と訴えた。
 避難の協同センターの熊本美彌子さんは、避難区域外避難者(自主避難者)で東京都内の国家公務員住宅に避難する人々が、今年3月までで退去を求められ、退去できない63世帯に4月以降、家賃2倍の「損害金」が請求されている問題を明らかにし、退去強要と損害金請求をただちに撤回するよう国と福島県に求めた。
 飯館村焼却場被曝労働裁判の原告・ともさんは、放射能ゴミ焼却施設の仕事を請負う日揮を派遣先として、1年4ヵ月働いて被曝させられた派遣労働者。ともさんは、「機械操作なので被曝しないと言われて就労したが、機械の修理などで汚染ゴミの灰に触れざるをえない仕事だった。頭から灰をかぶることも。」と語った。
 続いて、福島刑事訴訟支援団によるアピールのほか、東海第二原発再稼働反対で常総生協の木本さん、たな晒しが続いている原発ゼロ基本法案について山崎誠衆院議員(立民)、辺野古埋立て反対国会包囲実の木村さん、等々の発言が続いた。
 最後に、総がかり行動実の福山真劫さん、呼びかけ人の鎌田慧さんが発言した後、2コースでデモ行進した。
 厳正判決を!東電刑事判決への注目と、被災者追い出しをはじめ、東京五輪でフクシマは幕引きという策動は許さない! この二つが突き出された集会であった。(東京W通信員)