東電5月刑事公判―圧力で公表されなかった大津波予測
  報道あれば、命救えた

 「公表延期、了承しなければ、たくさんの命救えた」
 島崎邦彦・東大名誉教授(地震学)の涙ながらの証言に、傍聴席は、すすり泣く声に包まれた。
 福島原発刑事訴訟5月公判は、島崎教授らの証言を求めて進められた。教授は、2011年3月10日、つまり震災前日の朝刊に、「推本」の第2版として改訂された地震予測長期評価の報道予定が合った事実、これを証言した。長期評価は、東北地方の奥地まで浸水する津波を予測していた。
 しかし、推本(文科省地震調査研究推進本部)メンバーの4月公表提案におされて了承、公表せずに3・11を迎えた。国と「原子力ムラ」からの圧力があったのだ。
 これまでの公判で、東京電力は、推本の長期評価に基づき対策を進めたが、それを途中でサボタージュして引き延ばしさえ実施し、結果、大事故を引き起こしたことが暴露された。5月公判は、長期評価の大津波予測は「十分注意すべき大きさの確立」であり、対策さえしていれば原発事故を防ぎ、多数の命を救えたことを明らかにした。また、東電の背後での国・「原子力ムラ」の暗躍さえ、露顕させる公判であった。
 この裁判(東京電力福島第一原発事故での業務上過失致死傷罪を問う。被告は強制起訴された東電旧経営陣3人)の5月公判は、8・9・29・30日(第10回~13回)の4回にわたって行なわれた。
 第10回公判は、気象庁火山部の前田憲二氏が証言。彼は、2002年から04年に文科省に出向し、推本公表の長期評価をまとめる事務方の責任者を務めている。
 第11・12回公判は、前述の島崎教授が証言。教授は、推本の地震調査委員会長期評価部会長として、取りまとめの中心的役割を担っている。
 そして第13回公判では、都司(つじ)嘉宣・元東大地震研究所准教授が出廷した。准教授は、明治以前の地震・津波にも精通し、推本の委員を務めていた。
 長期評価は、三陸沖北部から福島県沖を含む房総沖の海溝にいたるどこにおいても、マグニチュード8クラスの津波地震が、今後30年以内に発生する可能性は、20%と指摘している。5月公判は、この長期評価の信頼性をめぐって審理され、国・「原子力ムラ」の不正も次々に暴かれた。
 第10回公判は、長期評価の内容について、「はっきりした意見での異論はなく」「大きくもめたこともなかった」と前田氏が証言。丁寧・慎重にまとめ上げた経過が説明された。くい違いを丁寧に処理し、科学者としての見解をまとめ上げている。
 これに対し、中央防災会議事務局の内閣府担当者は、「データとして用いた過去の地震評価には限界がある」と信頼性を疑問視。「防災対策には多大なコストを強いることになる」との修正要求を行ない、前書き部分等を修正させた。
 これに関して第11回公判では、「長期評価は十分注意すべき大きさの確立」と島崎教授が発言。長期評価をふまえた対策をしていれば、「かなりの命が救われただけでなく、福島原発事故は起きなかった」と証言した。そして、内閣府の防災担当者から「公表すべきではない」と圧力を受け修正を求められた事実や、島崎教授の反対を無視して国の中央防災会議が、長期評価とは全く異なる内容の地震予測を強引に発表した事実を暴露した。
 続く第12回公判でも島崎教授が出廷し、「長期評価は科学的だ」と改めて強調。過去400年に3回、三陸沖から房総沖で津波を伴う大地震が起きた事実をふまえ、「(この地域の)どこでもM8級の津波地震が起こりうる」との予測の正しさを主張した。
 第13回公判では、都司准教授が証言。340年前に起きた地震で津波被害が出たことをふまえて、「福島でも13~15mの津波に備えるべきだった」と発言した。そして、長期評価について「異論はあったが、議論によって収束していった」と述べ、「房総の海岸でも13mの津波が来た。福島でも備えが必要だった」と見解を表明し、長期評価の妥当性を主張した。
 東電側弁護士は、有利に導くため誘導尋問を試みるが断念、公判は予定より早く終了した。
 以上4回の公判で、東電の犯罪性はますます鮮明になったと言える。

   原発新設のエネ計画案

 経済産業省は5月10日、2030年に向けた中長期的なエネルギー政策の方向を示す「第5次エネルギー基本計画」の素案を公表し、同16日に計画案として確認した。今後、一ヵ月の意見公募を経た上で、安倍政権は前回計画(14年)の新版として、今夏に閣議決定しようとしている。
 計画案は、原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、原子力政策の再構築を掲げて、再稼動・核燃サイクル・原発輸出などの推進を明示している。電源構成に占める原発の割合も、現在の2%弱から30年度には20~22%を賄うとする目標を維持した。この数値は、15年に政府が決定した「2030年のエネルギーミックス」を踏襲するもの。この目標実現のためには、30基程度の再稼動が求められる。
 しかし、1991年以降新設の原発は18基。運転40年の法定寿命が順守されれば、2030年には18基のみになる。運転60年までの延命と新増設なしに、目標は達成されない。「原発ゼロ」を目指すべき、これが今や国民多数派であるが、政府の計画案では、およそ12基も新たに原発を造るということになる。
 政府は一昨年末に、どうしようもなくなった「もんじゅ」の廃炉を決定したが、フランスの高速炉開発への協力と「常陽」再利用などを内容として、核燃料サイクル計画をいぜん推進すると決定した。しかし、今回のエネ計画案の公表後、フランスが高速炉計画を大幅に縮小することを日本政府に通知してきた。仏高速炉計画への便乗を名分として、核燃サイクルに固執するエネ計画案は動揺せざるをえない。

   倒産回避のために再稼動

 安倍政権と財界が、このように原発推進・核燃サイクル維持に固執する背景には、核武装能力の維持という政治要因とともに、電力会社の経営危機の回避とがある。
 原発をすべて止めていると、それだけで1兆円近くの維持コストがかかる。全原発を廃炉にすれば、原発施設と核燃料の原価償却未達成および廃炉費用等で多額の損失が計上され、14年度で4・4兆円と言われている。原発は、止めていても廃炉にしても膨大なコストがかかる。さらに、稼動原発を減らせば、1基当たりの原発事故処理・賠償費用が高額になり、発電コスト上昇で競争力が低下する。稼動させなければ電力会社が経営危機に陥り、多額の資金を融資した銀行も大きな損失を被ることになる。原発の再稼動強行は、資本にとっては至上命令であり、政府のエネ計画案は、それを表現したものだ。
 また、20年4月には、発送電分離が実施される。東電は、これに先手を打ち、16年4月、持ち株会社「東京電力ホールディングス株式会社」の下、火力発電部門を「東京電力フュエル&パワー株式会社」に、送配電部門を「東京電力パワーグリッド株式会社」に、小売部門を「東京電力エナジーパートナー株式会社」に分社化した。
 発送電分離は、発電会社と送電会社とを、完全に別会社とする所有権分離をイメージする。しかし東電は、持ち株会社の下に発電会社と送配電会社を置き、同じグループ会社とした。法的分離方式を採用した理由は、地域独占を維持し、発電会社独立による倒産の危機を回避するためであった。送配電等の経費負担削減と再生エネルギーとの競争を抑制するねらいがある。他大手電力資本も同様だろう。
 政府と電力会社は、マクロの国民生活で原発の是非を考えず、倒産回避という個別資本の都合で、再稼動を進めている。
 さて、東電刑事訴訟には、まだまだ困難が予想される。東電や国の意向を忖度して、裁判が動く可能性は充分ありえる。この裁判闘争への結集と関心をより大きくし、首都圏での東海第二原発再稼動阻止・廃炉実現をはじめとする脱原発運動と結びつけながら、刑事訴訟勝利を勝ちとる必要がある。
   
   東海第二を廃炉へ

 茨城県東海村の日本原子力発電・東海第二原発は、今年11月27日までに、その再稼動のためのすべての審査を終了させなければ、廃炉となる可能性が高い。東海第二原発は、一連の原発再稼動の動きの中で、もっとも弱い環と言われる。
 東海第二原発は、11月28日で運転開始40年となる老朽原発である。原子力規制委員会は、東海第二の40年越え延長申請を受理しているが、東電による日本原電への資金援助問題など、安全対策費にもこと欠く日本原電に運転能力があるのかどうか疑問符を付けている。
 東海第二は、30㌔圏内には96万人が暮らし、また首都圏にもっとも近い原発である(横須賀の米原子力空母の原子炉を別として)。東海第二の再稼動阻止・廃炉決定を実現することによって、原発再稼動のこのかんの傾向を大きく反転させる転換点にしなければならない。
 このために5月21日、参院議員会館の集会で、「止めよう!東海第2原発・首都圏連絡会」が結成された。周辺自治体に、延長反対・再稼動反対の声は高まっている。今夏・今秋の日本原電や規制委員会に対する行動が、非常に重要になっている。(O)


安倍内閣は総辞職せよ!5月「19の日」行動
 6・10は国会前と新潟で勝利を

 5月19日土曜日の午後、戦争法強行成立(2015年9・19)の以降33回目の「19の日」行動である、「安倍9条改憲NO・森友加計徹底追及・安倍内閣は総辞職を!国会議員会館前行動」が行なわれ、約2500人が参加した。主催は、戦争させない9条壊すな総がかり行動実行委と、安倍9条改憲NO!市民アクション。
 この5月「19の日」行動は、終盤国会対応のスタート集会となった。安倍9条改憲案の今通常国会での発議はすでに不可能となっているが、安倍政権は公文書改ざん等の責任をとることなく、さらにデタラメなデータを基に「働き方改革」法案を強行せんとしている。会期末6月20日の内に、安倍政権を退陣へ追いこまねばならない。
 集会では、長尾ゆりこさん(憲法共同センター)が主催者挨拶を行ない、「安倍政権の次々のウソに続いて、財務省事務次官のセクハラ問題については昨日、麻生財務相の『セクハラ罪という犯罪はない』とする文言を容認した答弁書を閣議決定した。閣議決定を撤回し、総辞職せよ!」と訴えた。
 国会議員からは社民党の福島瑞穂参院議員、立憲民主党の高木錬太郎衆院議員(北関東比例、元枝野秘書)、日本共産党の山添拓参院議員が発言。福島さんは、「6月10日投票の新潟県知事選挙で、全野党・市民が共同で推す池田ちかこ予定候補を勝利させ、一日も早い安倍退陣を!」と訴えた。高木さんは、前日のTPP11批准案の委員会強行採決を糾弾し、その関連法案、またカジノ法案への反対を訴えた。
 連帯挨拶を、「安全保障関連法に反対する学者の会」の横湯園子さん、安保法制違憲訴訟の会、「止めよう!辺野古埋立て」国会包囲実行委の野平晋作さん、日本労働弁護団の棗一郎さんが行なった。
 野平さんは、「政府は設計変更申請をしないまま辺野古の工事を強行し、土砂投入であきらめを誘い、今秋知事選を有利にしようとしている。しかし、朝鮮戦争終結の動きが始まった。これを引き出したのは、キャンドルを掲げた市民の力。辺野古埋め立ても、市民の力で止められる。5・26国会包囲へ!」と訴えた。
 棗さんは、「働き方改革」法案について、「来週23日に厚生労働委員会で強行採決の動きとなっているが、絶対に許さない。いわゆる『高プロ』、ホワイトカラー・エグゼンプション(適用除外)は、2006年に反対運動でいったんは阻止した。これが、翌年の第一次安倍政権の倒壊につながった。今回も法案を阻止して、安倍退陣を!」と訴えた。
 最後に高田健さんが行動提起。5・26辺野古国会包囲、6・5オスプレイ反対の日比谷野音集会への参加、とくに、会期末に安倍退陣を求める6・10国会正門前大行動(午後2時)への結集を訴えた。
 以上の総がかり集会の終了後は、労働弁護団呼びかけによる「働き方改革」法案阻止の緊急国会前集会が続けられた。「働き方改革」法案はその後、与党自公に維新などが加担する形で、5月25日厚労委で強行採決。改ざん・ウソつき政権の暴挙上塗りである。しかし安倍を追いつめれば、参院で廃案は可能だ。(東京A通信員)