安倍政権による教育勅語の復権を許すな
  狙いは「戦争する国」の人材育成

 6月1日より文科省内で、小学校道徳教科書の検定公開が行なわれている。展示では、教科書各社の編集委員(執筆者)名簿も明らかにされる。そこで驚くべき事実が判明した。育鵬社版教科書を作った日本教育再生機構の中心メンバーが、教育出版の編集委員として名を連ねていたのだ。
このことにも示されるように現在、安倍政権による「教育勅語」復活の策動が進められている。
 安倍政権は3月31日、「憲法や教育基本法等に反しないような形で『教育ニ関スル勅語』を教材として用いることまでは、否定されることではない」との答弁書を閣議決定した。さらに菅義偉官房長官も4月4日記者会見で、「親を大切にする、兄弟仲良くする、友達と信じ合うことまで否定すべきではない」とし、教材として否定しない考えを示した。
 教育勅語は、「ひとたび事(戦争)が起これば、天皇のために命を捧げ、皇室・国家を支えよ」と命じている。人民自らが進んで天皇制国家を支え、戦争に行くことを強制するために、天皇が「臣民」に与えたものである。一つ一つの徳目も、その精神で貫かれている。教育勅語は、天皇制国家の精神的・道徳的支柱として機能してきた。
 稲田朋美防衛相は、徳目の一部を取り上げて「道義国家を目指す教育勅語の精神は、取り戻すべき」と国会答弁した。しかしそれは、明らかに間違いであり、意図的な誤読であろう。
 森友学園問題の核心も、安倍首相らの疑獄事件であると共に、教育勅語を体現するモデル校づくりであった。
 
   「教育勅語」とは

 「教育ニ関スル勅語(教育勅語)」は、全文315文字からなる。第一段で、天皇の仁政とそれへの臣民の忠誠の「歴史」をふまえた日本独自の「国体」を説き、教育の淵源(根本)がここにあると宣言している。そして第二段で、天皇制国家を支える家族道徳や社会的国家的な諸道徳を掲げ、第三段で、その普遍的真理性を強調して国民的道徳としての確定を基す形で結ばれている。
 この教育勅語は1890年10月30日、明治天皇から文部大臣に下付(さげわたす)され、翌日官報に公示された。当時の内閣法制局長官・井上毅が草案を起草し、天皇側近の元田永孚(もとだながざね)が修正を加えて成文化している。政治上の詔勅と区別するため、国務大臣の副書(旧憲法で、天皇の署名にそえた国務大臣の署名)を付さず「社会上の君主の著作公告」の形式をとって公布された。
実際には、教育勅語の謄本が全国の学校に公布され、「ご真影」(天皇皇后の肖像写真・実際は肖像画に基づく写真)とともに防火構造の奉安殿に安置された。そして学校の儀式に際し厳粛な奉読や敬礼が法的に定められ、神聖化がはかられている。その後教育勅語は、学校のみならず、労働者民衆のものの考え方・行動様式を強く規制する働きをするようになり、軍国主義の人材育成の基盤となった。
 教育勅語は、「日本という国家は、天皇の祖先が創設し、歴代天皇が仁政をほどこしてきた。臣民は天皇への忠誠心で心を一つにして天皇制国家を立派にまとめあげてきた。これは、天皇を主権とする国家のありようの一番すぐれたものであり、教育の根源もここにある。なんじ臣民は、父母に孝行し、兄弟は親しみあい、夫婦は仲むつまじく、友人は信じあい、つつしみ深く高ぶらず、学問を修め技術を学び」、「ひとたび事(戦争)が起これば、天皇のために命をささげ、皇室国家を支えよ」(要約)と記している。
 明治維新後、急激な西欧化政策を進める新政府に対して、特に文部省に対して、保守派は根強く反発し、前代からの教育原理・儒教道徳の復興を求める動きが活発化した。そして1889年2月の帝国憲法制定を機に、教育勅語の公示に向かう。
 教育勅語は、会沢正志斎の『新論』(1825年)によって理論的に確立された後期水戸学の影響を受ける。
 会沢は、「日本は普遍的な『人倫の道(主に忠孝道徳の規範)』に基づいて建国された」と主張し、その「建国は天照大神の意志に基づいてなされ、血統で連続する歴代天皇が天皇主権の国家を体現し、臣民の忠孝道徳の実践によって天皇制国家とその有り様が維持されてきた」とする(評・辻本雅史)。従って、神格化され絶対化された天皇への絶えざる忠孝の道徳を、臣民に要求する。臣民は、天皇・国家に対する忠孝道徳の責任を無限に負っているのだ。天皇主権国家のありよう(国体論)は、儒学の日本的解釈の徹底によっている。
 教育勅語の「父母に孝行し、兄弟は親しみあい、夫婦仲むつまじく」等の徳目は、この脈絡の中に位置づいている。
 天皇を家長とし、国民を赤子(せきし)とする国家観のもとで、基本的単位家族も、天皇にあたる家長が絶対的権威をもって女性や子どもを支配する関係にある。「夫婦相和シ」は、無権利状態に置かれた「妻が夫に」従った上での仲むつまじくであり、「父母に孝行し」は、親の権威・支配のもとで親の言い付けを守り、親を大切にすることだ。また「学問を修め技術を学び」も、あくまで臣下としての務めを果たすための徳目にすぎない。互いの人権を尊重し認め合って生きる社会、主権在民の社会で共に生きるためのものではない。
菅・稲田発言は、人権思想などもともとない教育勅語を評価するもので、絶対に許されない。
 基本的人権・主権在民を否定し、臣民を戦争へと駆り立てる教育勅語は、1946年10月の文部事務官通牒で、教育の唯一の根本とする考え方が否定され、「奉読」の廃止、謄本の回収が行われた。そして教育基本法施行の翌年1948年6月、衆院で教育勅語の排除決議、参院で失効決議がなされている。

  「教科の道徳化」とは

 道徳が教科化され、来年4月から初めて小学道徳検定教科書が使用される。「道徳の教科化」は「教科の道徳化」である。
1880年、学校に道徳教育を担当とする科目として置かれた修身が、諸教科の筆頭となった。そして教育勅語制定後は、勅語に盛られた徳目を敷衍(ふえん)する(詳しくする)教材が、諸教科の中心になっていった。
 安倍政権もこの歴史にならって道徳を教科化し、全ての教科で道徳教育を推進しようと画策する。かっての修身と教育勅語の内容を全ての教科に織り込みやり方と同様、教科の道徳化である。
 文科省は、新学習指導要領を3月31日、官報に告示した。新指導要領は、育成すべき資質・能力として①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③学びに向かう力・人間性、この三つを挙げている。①②はこれまでと同じだが、③に「人間性」なる徳育的要素を資質・能力にこっそり紛れこませている。布石が打たれているのだ。
3月24日、文部科学省は、小学校道徳教科書の2016年度検定結果を公開した。今回の検定は、小学校道徳の初の教科書検定になる。各申請本に見られる特徴は、「国が考える『善悪』『正邪』が明示され、児童への全人格的・統制的支配を一層強めることになる」(日弁連)との懸念が現実的になったことを示した。つまり国定教科書化が顕著になっている。
文科省は、国定教科書化をねらって検定基準の改悪を進めてきた。「教育基本法の目標に照らして重大な欠陥がある場合を検定の不合格要件として明記」し、「編集趣意書等の申請時の提出書類を改善し…教基法の目標をどのように具体化したかを明示してもらい」、「提出書類をホームページで公開」と規定した。改悪教基法にのっとることを強要し、ホームページに公開させて、別動隊の右派勢力が突き上げる構図だ。実教出版の『高校日本史A』などは、右派勢力や校長会等が圧力を掛け、不採択に追い込まれている。また、教科書採択に教育現場の要求を排除、政府の意のままに教科書内容を決めようとした。
 これら政府と文科省の策動によって各申請者は検定不合格を恐れ、文科省の副教材『わたしたちの道徳』『道徳読み物教材』に掲載された作品を、参加した全8社が採用している。この副教材は、反動教科書育鵬社版『はじめての道徳教科書』『13歳からの道徳教科書』を参考にしている。検定基準が「小・中学校学習指導要領に示す題材のすべてを教材として取り上げること」としている。そのため、全社が「伝統と文化、先人の伝記」等々示された題材を掲載。非科学的と批判される内容もあった。
 各社の自粛と委縮によって、検定意見は異例の少なさとなり、全24点66冊合計244件の検定意見となった。1点当たり平均およそ10件の少なさだ。しかも文科省は、教科書の価格をかなり低く設定し、申請者を意図的に減らそうと画策、8社のみの参入となった。統制しやすくすることがねらいだ。
 3月告示の新学習指導要領では、中学校保健体育で必修の武道の選択肢として、「銃剣道」が導入された。銃剣は、旧日本軍が使用し、接近戦で相手を突き刺して倒す武器だ。小銃の先に短剣を装着して使用する。銃剣道は現在、主に自衛隊の訓練に取り入れられている。自民党・元自衛隊員の佐藤正久参院議員が、パブコメで右翼自民党員らと共謀して導入させた。
 銃剣道は、戦前の軍事訓練の流れを汲むもので、正規の授業として取り上げるなど論外だ。安倍政権と文科省は、戦争する国を目指して人を殺傷する軍事訓練を授業に導入した。正規の授業として位置づければ、自衛隊員らが学園に出入りする。教育勅語復活と共に戦争する国の人材育成が進められている。
 戦争教育が学園で進められて良いのか。教育労働者は、職場闘争を組織し、地域の労働運動・市民運動と連携して安倍政権の暴走を止めよう。安倍打倒の幅広い統一戦線を進めつつ、革命的左翼は今こそ大団結して闘おう。(浦島 学)


6・19総がかり「19の日」行動、国会前3500人
  共謀罪・戦争法の廃止へ

 共謀罪強行成立後の6月19日、一昨年の戦争法強行成立後の毎月「19の日」行動として、「共謀罪廃止・安倍政権退陣6・19集会」が国会正門前で行なわれ、約3500名が参加した。主催は、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委。
 集会では、「戦争法と一体の共謀罪廃止!」「森友・加計疑惑徹底糾明!」「改憲暴走を許すな!」が強調された。
 主催者挨拶では福山真劫さん(戦争をさせない千人委員会)が、共謀罪強行や「加計」隠しによって安倍政権支持率が急落し、政治の潮目が変わった、今こそ安倍政権打倒へ!と訴えた。
 発言では、海渡雄一さん(共謀罪NO!実行委)が、共謀罪法案で委員会採決を飛ばしたやり方は、「中間報告」を規定する国会法56条3の要件を満たしていないと批判した。また共謀罪施行(7月11日)を監視し、廃止をめざしていく上では、共謀罪の捜査で通信傍受を使わせない活動が重要だと指摘した。
 国会野党からは、民進・大串博志政調会長、共産・小池晃書記局長、社民・福島みずほ副党首が発言した。
 「19の日」行動は、戦争法廃止とともに共謀罪廃止が目標となった。また、安倍による「自衛隊」加憲の「9条改憲」策動との闘いにおいても、月々で重要な行動となるだろう。安倍改憲粉砕の序盤戦として、当面の「19の日」行動を位置づけ直し、再強化することが必要だろう。(東京A通信員)