7月参院選後の憲法情勢―改憲発議の政治的条件は存在せず
  共同ひろげ憲法決戦に勝利しよう


 参院選後の7月26日、相模原市の知的障害者施設で、元職員の容疑者が障害者を大量殺害し、その犯行をナチス優生主義思想で正当化するという、おぞましい凶悪事件が発生し内外に衝撃を与えた。容疑者は、2月の衆院議長宛て手紙で、大島議長と安倍首相が相談して重度障害者「安楽死」法を作り、国家が障害者を抹殺することを求めている。
 この事件の発生は、差別・排外主義の公然化、侵略戦争とテロリズム、という内外情勢が土壌となっている。個人の尊厳を否定し、国家を至上価値とする安倍自民党の改憲草案、これに通じている。「アベ政治」が、人間と社会を破壊しつつある。
 その安倍首相は、憲法を語らず、7月参院選を戦った。そして改憲勢力「3分の2」確保の結果が出るやいなや翌11日、「いかに我が党の案をベースに3分の2を構築していくか、これがまさに政治の技術だ」などと言い放った。
 安倍はこの間4回の国政選挙で、経済政策をつねに前面に出し、それがすでに破綻しているにもかかわらず、いつまで経っても「道半ば」とごまかし続けている。その実、実際に成果を出したのは特定秘密保護法、「7・1集団的自衛権容認閣議決定」、安保法の強行という「戦争する国家づくり」であった。ファシストの謀略政治である。
 また最近の安倍は、憲法改正は「国民投票」で決まると強調している。これは、国政選挙で決まるのではないから、選挙で憲法を争点化しなくてもよい、メディアで大衆を操作して「国民投票」にもっていけばよいとするもの。まさに、「ナチスに学べ」(麻生財務相)の策謀にほかならない。
 参院選の結果、改憲勢力が衆参両院で「3分の2」を超えたというマスコミの喧伝も、一種の世論操作になっている。これは今後、何らかの憲法改正案が国会に提出され、その「3分の2」で発議されても自然なことである、という間違った印象を作りあげるものである。
 たしかに、現在は改憲国民投票法が施行されており、衆参憲法審査会がその過半数で改正案を決定し、それを国会に提出することが、制度的には可能となっている。しかし、改憲派「3分の2」となっても、それ以外の政治的条件がまったく整っていない。

  前提としての国政選挙

 第一に、現憲法のどの条項をどう変えるのか、あるいはどういう新条項なのか、具体案としては、国会と衆参憲法審査会でまったく討論されていない。具体案が出ても、その是非を数年は討論するのが常識的だ。具体案が出ていない現段階では、改憲派「3分の2」という括り方も、ある意味抽象的ですらある。(自民党は2012年に、具体的な日本国憲法改正草案を発表している。しかし、憲法審査会の規程では各条項ごとに提案することになっており、自民党の全体改正案は審議の対象にはならない)。
 第二に、改憲派の諸党が、条項改正の具体案を公約として掲げた国政選挙が、一度も実施されていない。改憲の具体案、それへの反対、この争点で政党や候補者を選ぶ機会が主権者国民に与えられないまま、いきなり国民投票なのか、それはないというのが常識である。
 第三に、与党・野党の第一党が、憲法次元(改正問題と立憲主義)で対立する状況が続いており、与野が合意する見通しが立っていない。政治の現実としては、改憲では与野の「大連立」的状況というのが、重要なのである。与野激突、国民の国会包囲の中、発議強行となれば、国民投票は政権危機の中のバクチとなってしまう。現在のところ、野党第一党の民進党は、「立憲主義に反する安倍政権の下では改憲に反対」としている。9条関係の内容であれば、憲法審査会で討論にのせることも難しい。
 これらの政治的問題を、安倍は「政治の技術」によって突破せんとしている。
第一については、今秋の臨時国会から憲法審査会を再稼働せんとしている。自民党が今回参院選の公約で入れた憲法関係の内容は、この「憲法審査会の議論の進行」と、「参院選挙制度は都道府県から少なくとも1人を選出を前提に、憲法改正を含めあり方を検討」という二点のみである。9条正面突破は無理であるので、その予行演習として、どのような具体案で策を打ってくるか要注意である。
緊急事態条項であれば9条改憲と同質であり、我々反改憲派は闘いやすい。しかし策略的な諸案ではどうか、我々は対抗策を一致させる必要がある。
与党公明党は、参院選公約でまったく改憲に触れなかった。それで改憲発議へ向け協調するというならば、有権者を愚弄するものである。改憲派の野党・おおさか維新は、9条改憲は沈黙したが、他の具体的な改憲内容(教育無償化、道州制、憲法裁判所設置)を公約で掲げた。自民は両院で過半数を得たので、公明とおおさか維新を計りに掛けることもできるようになった。
第二については、安倍は任期中の改憲成就を宿願としており、改憲案の是非を問う国政選挙を飛ばして、奇襲してくる危険がある。総裁任期は18年9月(自民党しだいで延ばせる)。次の国政選挙は、もっとも遅くて18年12月衆院選(改憲派が仮に順調に日程をこなせれば、この総選挙での改憲国民投票の同時実施がありうる)。また、内閣支持率が落ちないうちに、安倍が解散・総選挙に出ることも大いにありうる。
自公が今後、憲法審査会を拙速に進めようとするならば、解散・総選挙の要求で安倍政権を圧倒する必要が出てくる。

  決着つけるのは民衆の闘い

第三については、民進党の切り崩しである。安倍政権と自公は、改憲「大連立」のために、野党第一党への揺さぶりを強化する。これに民進党内で呼応しているのが、岡田、枝野ら執行部の「野党共闘」方針を万年野党方針だと非難し、「戦争法廃止」政策を非現実的だとする前原、長島らの一派である。参院選結果は「野党共闘」に分があったが、都知事選では失敗した。
以上、参院選後の憲法情勢を一瞥してみたが、要するに今後2年程度の内に、2015年安保闘争来の決戦の決着がつく。9条改憲予行演習的な何らかの改憲案が発議されるか、あるいはそれが阻止され、総選挙を含む闘いによって安倍政権・戦争法・明文改憲策動が粉砕されるか、このどちらかである。
いずれにせよ、状況を最終的に決めるのは、我々左翼をはじめとする全民衆による大衆闘争・大衆運動だ。
 「3分の2」は恐れるに足らない。元々民主党は改憲派で、十数年前から国会は「3分の2」であった。改憲手続きは整っていなかったが、自民・民主の改憲大連立状況があった。しかし07年の改憲国民投票法案との闘いによって、民主は反対に回らざるをえなくなった。08年「非正規切り」との闘いによって、格差拡大反対が時代の声となり、09年政権交代となった。改憲は一時遠のいたが、その後民主・野田政権による自公との野合、維新などエセ「三極」の台頭によって、再び「3分の2」状況となった。この時の96条改憲論は、「3・11」来の大衆的政治行動の前進によって打ち破られた。その闘いは15年安保闘争へ続き、反改憲派は、「護憲派」に代わる「立憲派」という、より広範な共同基盤を獲得した。闘いが、状況を切り拓いてきたのである。
 このかんの闘いに限界があることは、我々左翼として言うまでもない。しかし我々左翼は、このかんの共同の闘いの継続・発展を断固支持しつつ、それが中道路線の共同行動であらざるをえない以上、左翼革命勢力の独自の旗を高く掲げて闘うものである。
 共同をひろげ、憲法決戦に勝利しよう!