原発再稼働問題を先鋭化した熊本地震
  とめろ川内やめろ伊方

 4月14日に発生した熊本地震は、熊本・大分地方に死者49名・関連死17名など甚大な被害を与え、今も広範囲に余震が続く中、約2万6千人が避難を強いられている(4月末現在)。熊本地震で被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
 さて、今回の地震の地学的な特徴は、九州を横断して活断層がつながっている一帯で、震源が多発し、広範囲に地震が続いていることと見られている。これにより、復旧の遅れ、避難者の増加を強いられている。
 16日の本震など、震度7を2回記録した震源の日奈久断層は、西日本を縦断する「中央構造線」の一部である。この中央構造線は九州から、伊方原発の近辺を通って四国北部を抜け、紀伊半島、愛知県、長野県へと続く。
 熊本地震は、この「中央構造線による巨大地震」の始まりではないか、という説もある。官民で南海プレート巨大地震の備えは言われているが、これまで中央構造線は注目されていなかった。中央構造線を成す各活断層での地震は、マグニチュードはさほどでなくても直下型で震度は大きい。5年前の東日本大震災以降、列島は活動期に入ったといわれる。「中央構造線が動き始めた」と言う指摘がある。
 熊本地震の政治的社会的な特徴の一つは、したがって原発問題の先鋭化である。今回の震源群の南端に立地する川内原発で、直ちに運転を止めろ!の声を大きくし、また中央構造線直下といってよい伊方原発で、今夏予定の再稼働をやめろ!の声を大きくしたことである。
 川内原発は、4月6日の福岡高裁宮崎支部による差し止め仮処分不当判決にも助けられて再稼動中であるが、熊本地震による立地点での揺れは小さいとして、平気で稼動を続けている。
しかし、川内原発が想定する最大の揺れ(基準地震動)は620ガル、熊本地震本震の益城町では1580ガル。この差は一体何なんだ。原発立地点近辺を震源とする地震はありえない、という独断なのか。しかし直下型は、いつどこでも起こりうる。高浜原発を止めた3月9日・大津地裁の仮処分判決が、新規制基準での基準地震動を批判しているのも当然である。
 伊方原発の立地県愛媛県の松山市では4月23日、伊方再稼動反対の全国集会が2800名の参加で行なわれた。主催は、伊方原発をとめる会。「伊方原発の5㌔沖に活断層」と指摘され、危機感をもって再稼働絶対阻止が訴えられた。
 熊本地震は、再稼働ストップに本気で取り組まなければ、大変なことになるということを我々に教えてくれた。(A)


東京第一検審が、官僚・東電5名に「不起訴相当」の不当議決
  保安院3名は津波対策サボの共犯

 4月28日、東京第一検察審査会は、福島原発事故で業務上過失致傷容疑で告訴・告発され東京地検が不起訴とした、事故当時の経済産業省官僚3名と東京電力津波対策担当2名について、5名全員を不起訴相当とする議決を公表した。
議決は4月14日付けであり、その日の熊本地震発生によって、世論の批判をおそれて公表を遅らせたものとも考えられる。
 官僚3名とは、森山義範・元経産省原子力災害対策監・保安院審議官、名倉繁樹・元保安院原発安全審査課審査官、野口哲男・原発安全審査課長であり、また東電の2名とは、酒井俊朗・元福島第一原発津波対策検討実施担当・土木学会委員、および同職の高尾誠・土木学会幹事である。
 議決は、旧保安院の3人について、「福島第一原発に高さ10mを超す津波が到達する可能性を予測できなかった」と判断。また東電の2人については、巨大津波を予測できたと指摘した上で、「津波対策には多額の費用がかかり、幹部が決定しない限り、従業員の2人には実行不可能だった」と決めつけた。
 しかし、この議決は、告訴・告発状に示された事実を無視し、誤った事実認識のもとに出された誤判であり、断じて容認できない。
 保安院の森山は2010年3月24日、名倉審査課長らにメールを送っている。そのメールには、「貞観の地震は敷地を大きく超える恐れがある」、「津波の問題に議論が発展すると…結果的に対策が必要になる」、「東電は、役員クラスも貞観地震による津波は認識している」、「というわけで、バックチェックの評価をやれと言われても何が起こるか分かりませんよ、という趣旨のことを伝えておきました。」と記されている。
 つまり森山は、巨大津波の可能性を認識している。その上で、東電が津波対策の追加工事をいやがっているのを知り、「保安院は東電の虜となり、共犯とも言うべき状況で…東電の赤字が膨らむのを防ぐために、バックチェックの先延ばしを進めた」(告訴・告発状)のである。
 また名倉は、8~9mの想定を遥に超える津波予測の報告を受けながら、対策をサボタージュした。そのうえ彼は、森山メールの宛先人であり、バックチェックの最大の焦点が津波対策であることを知りながら、貞観津波を考慮すべきとの声を無視し、「最終報告で扱うと虚偽を述べ、津波が公式の議題とならないように議事進行を図るなど、極めて悪質な対応を繰り返し」(第二次告訴・告発について=告訴団弁護団)ている。
 さらに野口は、プルサーマル早期推進のため、津波に関する議論に反対している。そして津波対策を求める主張に対し、「保安院と原子力安全委員会の上層部が手を握っているのだから、余計なことはするな」と脅かしている。
 つまり3人は、巨大津波の可能性を知っていたばかりか、東電と結託して、津波対策のサボタージュに手を貸した悪質な共犯者である。「不起訴相当」は不当な議決であり、その論拠自体が誤まっている。
 東電の2名はどうか。東電は2008年、高さ15mを超える津波があり得るとの試算を行なった。しかし、武藤栄・副社長と吉田冒郎・原子力設備管理部長は、対策見送りの決定を下した。
 この経過に、酒井と高尾は、深く関わっている。しかも、津波対策見送り案を立案した当事者なのである。受動的な一従業員とは言えない。
 議決は、幹部を差し置いて、社員としてやるべきことはないと言わんばかりの主張をしているが、これは「公益通報制度」の意義を否定する判断とも言える。そして、「不正」に積極的に関与した2名にも、不起訴相当の不当議決を行なった。
 しかし議決は、酒井および高尾らに、巨大津波の予見可能性を認めている。この点は、第五検察審査会による東電元会長ら3名の起訴決定と基本的に同一の結論であり、それを補強している。このことは、今後の刑事公判で、有効に働くにちがいない。

  東電元会長刑事公判を直ちに開始せよ!

 さて議決前の4月5日には、「福島原発告訴団」が、東京電力元会長ら3名の初公判早期開催と、官僚および東電津波対策責任者ら5名への『起訴相当』の議決、この二つを求めて、「検察審査会激励行動&東電抗議行動」を行なっている。東京地裁前には、約200名が結集。
 地裁前集会ではまず、武藤類子告訴団団長が、「午前中、東京地裁刑事4部に、東電元会長ら3名の初公判の早期開催を要求してきた」と報告。
そして、「多くの被災者が亡くなっている。それでも政府は被災者を切り捨てようとしている。線量の高い国道6号線を、聖火ランナーが走れるよう高校生に陳情させ、さも安全であるかのように見せかけている。事故の責任をとる人間をはっきりさせたい。公判前整理手続きに時間をかけるのはおかしい」と発言した。
富岡町、南相馬市などからの避難者も発言。「政府は、避難指示を解除しさえすれば、住民が帰還すると高をくくっている。東電は復興のお手伝いを、とすり寄っている。再稼働ねらいだ」、「南相馬小高区は、まもなく避難指示が解除される。市長は『今解除しなければ、帰らない人が増える』と言っているが、危険な中でどうして帰れるのか。何で自治体が屈するのか。事実に蓋をする現状は許せない」、「ごまかしの報道が続き、『解除に反対するから復興が遅れる』という雰囲気が作られている。事故から5年、現実は益々ひどくなっている」と怒りの発言が続いた。
海渡雄一弁護士が発言、「検察官役の指定弁護士は、『およそ4100点の証拠リストを
東電側弁護士に渡し、請求があれば全て開示するので、公判前手続きはいらない』と表明している。直ちに初公判を始めてほしい。争点は明確であり、証拠を出すか否かが、裁判には大切。証拠は提出される、4100点だ。裁判は必ず勝てる」と確信が示された。
福島原発事故の刑事責任の有無を争う、東電元会長らへの公判は必ず開始される。他方、4・14議決は、原発を国策として推進し、事故対策を指導してきた経産省官僚の責任を不問としてしまった。第一検察審の重大な判断ミスである。(東京O通信員)