【沖縄からの通信】

 辺野古代執行裁判3・4和解

 「和解」第9項は無力化できる
    「オール沖縄」方式を全国化し、安倍政権を打倒しよう!

 
3月4日、日本政府が沖縄県を訴えた辺野古代執行裁判で、「和解」が成立した。訴えを取り下げる、工事を中止する、振り出しに戻して国は「是正指示」から始める等というものである。
 これだけであれば、形としては何ら問題はない。だが、和解条項10項目の中に、末尾9項目、人目につきにくい形で、本来必要でないものがわざわざ忍び込まされている。これが物議をふりまいている。第9項とは、
「判決確定後は、直ちに、同判決に従い、同主文およびそれを導く理由の趣旨に沿った手続きを実施するとともに、その後も同趣旨に従って互いに協力して誠実に対応することを相互に確約する。」(赤字部分は、福岡高裁那覇支部の1・29和解勧告文には無いものである)。
確定判決に従うことは常識であり、そんなことは普通「和解」に入れる必要はない。不自然そのものである!
建設工事にとって、安倍政権にとって、何が一番必要で重要なことか、これは一般の人には考慮されない。それを考えない人には、この不自然に忍び込んだ第9項の意味は分からない。
その意味はこうだ。たとえ知事が原告の「是正指示取り消し訴訟」で敗訴しても、今後必ずのこととして起こってくる沖縄防衛局の設計変更申請に対し、知事権限を行使してこれを認めないということになる。日本政府は、この知事権限を無効化しなければ、工事を進めることができない。今後出てくるこの知事権限の行使、これに対抗しようというのが第9項である。
この第9項を忍び込ませたものが、「和解」なのだ。いったん「和解」が成立し、第9項が世に出ると、政治になる。防衛局は、第9項をたてに知事権限行使に言いがかりをつけ、工事を進めようとする。法律上は「和解」解釈の違いになり、場合によっては和解の意味がなくなる。第9項は、そういう性質の条項である。

  ひそかに「修正」

代執行裁判は、「和解」で終った。裁判所は、安倍首相や管官房長官らのような自由裁量は無い。おのずとしてある法体系から、はみ出さないように判断しなければならない。高裁の「和解勧告文」は、今後裁判所がムリなく判決が出せるよう、日本政府もよく考えて、「自然のやり方でやれ」、「最初からやり直せ」と助言しているのである。三つの手続を一週間以内にやれなど、国に大サービスしている。
高裁は自己矛盾におちいり、誤りを犯している。と言うのは、県に和解の原因はない。地方自治を踏みにじり、違法な工事を開始したのは国である。代執行を提訴したのも国である。なぜ、訴訟・和解の費用が各自負担なのか。和解の原因が国にあり、国が違法に強行した①ホーリング、②トン・ブロック投入、③血税の浪費をどうするのか、司法判断をサボっている。これからして、高裁には国敗訴の想定は始めから無かった。
高裁は一月二九日に和解案を出したが、その公開を禁じた。県内部で和解についてどのような議論がなされていくか、観察するためだったのか。やがて解禁された時、人々は裁判所を疑った。A案とB案が示されているが、互いに矛盾し合っている。裁判所の不誠実が明らか、和解案と呼べるものではない。この段階で、和解は成立しないと思い込ませている。事実、誰もがそう思った。
その時までは、B案の中には、正確な意味での「第9項」の文言は存在しない。それが加筆修正されて和解条項・第9項となった。和解の成立過程には、疑問が多すぎる。
沖縄県は、十分な時間と熟慮の機会を与えられず、「和解」の成立にもっていかれたのではないか。第9項の無いB案に、国が乗ってくることはありえない。国が乗ってくるときに、修正されて第9項になったと推定される。矛盾に満ちた和解勧告文を出したのも、その公表を禁じたのも、第9項を密かに埋め込んで、瞬時に事を運ぶためではなかったのか。

  政府、高裁は「法匪」

日本政府は、あくまで用意周到であった。翁長知事が上京中に、和解OKを出した。政治的「拉致」ではないか。県にとってこの緊急事態のとき、知事不在で、安慶田副知事と弁護団が記者会見に出た。
おかしい、那覇で記者会見すべき翁長さんが、なぜ東京で安倍と握手しているのか。安倍は「和解」を、今後の「判決に従う」とセットにして、急転直下売り出し始めた。県は第9項について議論したのかどうか、報道の中からは分からない。「国がB案に乗ってくる」のも想定外だった。翁長知事も「寝耳に水」が事実だろう。
第9項については、シュワブゲート前に毎日つめている琉球新報の記者たちが、素早く反応している。「変更承認不許可や、埋め立て承認撤回なども含め、知事が取れる手段を取ること無く、協力するということか」、「手段を放棄するなら、あらゆる手段を駆使して止める、と言ってきたことと整合性がつかないではないか」と県に質問している。
これは3月4日の記者会見でのほんの一部であって、人目についていない。「和解」の意味、なぜ日本政府は「和解」を選んだのか、第9項とは何なのか、という重要事が真正面から問題にされることは、しばらくの間なかった。
「和解」について、真正面から警鐘を鳴らしてきたのは、県外からである。「沖縄の人々は、あまりにもお人好しではないのか」、「翁長さんは、安倍の軍門に下ったのか」、これら県外からの意見が県2紙に寄せられ、重大性が報じられるようになる。
3月21~22日にかけて、沖縄タイムスは「『和解』を考える」を連載した。21日・目取真俊、22日・仲宗根勇、23日・伊佐真一である。これらは核心点をみごとに論じている。一読あれ。
 代執行裁判の口頭弁論、反対尋問で、国側は十回以上、「判決に従うのか」と言っている。それからみて、かなり早くから第9項を謀ってきたのではないか。
 元最高裁判事の濱田邦夫は、戦争法案に関して、安倍や管を「法匪」と呼んだ。憲法を無きものにする連中ということだ。私たち辺野古NO!を闘っている沖縄人が相手にしているのは、この「法匪」である。この「法匪」を見切る、読み切ることなくして闘えない。
 3月4日の翁長知事は、「和解」以前の裁判所の中にいるような旧モードの中にあった。だから不用意にも、「行政として判決に従うのは当然」と言っている。これでは安倍を喜ばせる。「法匪」たちは、知事を政治的に拉致し、軍門に下ったように演出し、知事に恥をかかせ、彼の周りとの分断を謀って、知事の影響力を貶めようと策した。

  3・8翁長答弁

 しかし安倍らの策は、空を切った。3月8日、翁長知事は県議会で、辺野古関連訴訟和解成立に関する報告を行ない、県の考えを次のように明確に示した。
 「裁判所の判決には、行政として従うべきだという話をさせてもらった。今回の2件の訴訟の和解で。今後、設計変更などいろいろある。法令などに従い適正に判断することに変わりはない」と。和解の対象は、代執行訴訟と、国地方係争委員会不服訴訟の2件に限られる、今後の訴訟などは別、ということである。町田優知事公室長は、「あくまでその限りにおいて、判決に従うという趣旨だ」とも述べた。
 それで、「敗訴でも権限行使」(琉球新報)、「和解は2訴訟、別裁判で権限行使も」(沖縄タイムス)と報じられた。これで翁長知事の考えは明確となり、「法匪」らの企みを打ち砕いていくこととなる。

  安倍「急がば回れ」!

 辺野古の工事を阻止する核心点は、二つ。一つは、ゲート前と海上の阻止行動。もう一つは、設計変更などに対する知事権限の行使である。
阻止の現場では、シュワブゲート前テント村村長の山城博治さん(沖縄平和センター議長)が、全県・全国からの尊敬、親しみ、愛を受け、ガンを吹き飛ばして、連日動き回っている。
 ゲート阻止は、100m先に、さらに200m先に、将来はどんどんその先にと進みつつあった。阻止ラインを先に増やすごとに、機動隊を倍数的に増やさなければならない。第一ラインでは200対50だが、ずっと先では1対2、あるいは1対3に近づくというように。
 もう一つ、山城のやり方は、集中日を増やしていく方法である。以前は毎水曜であった。今では水・木になっている。いずれは水・木・金をねらう。「それが完成すれば、工事は止まる」と山城は言う。昨年来、東京から警視庁機動隊が投入されたが、それでも水・木は、搬入阻止が30%程度はできるようになっていた。
 2月には、米太平洋軍司令官ハリスらが、「反対運動によって、工事が2年は遅れる」と米議会に報告せざるを得なくなっていた。安倍の違法な工事強行は壁に当っていた。そこでアメリカの事前承認の下に、「和解」策が出てきた。安倍は4月1日ワシントンで、オバマ大統領に「『急がば回れ』で和解を決断」と説明し、策略的意図をさらけ出した。
安倍政権の「和解」の企みは、知事権限への対抗が主眼だが、島尻安伊子を自公の候補とする参院選や、6月県議選への対応でもある。作家の室井佑月さんは、「夏の参院選で野党がまとまりつつある。安倍政権は、その妨害をしたいのだと思う」と言った。重要な観点ではないか。
 戦争法廃止、安倍政治を許さない日本の市民が安倍を倒すために、辺野古NO!のオール沖縄のやり方を参考にしようとしたら(沖縄のうぬぼれと言われるかもだが)、安倍にとって恐るべき傾向となるかもしれない。情勢はそう動きつつあるようだ。
 「オール沖縄」は、国政選挙での候補者一本化(2004年糸数慶子参院選)に始まり、一昨年の翁長知事選挙で、沖縄の日本共産党が「県外移設」スローガンをなし崩し的に受け入れたこと、これによって成立した。
 さて「和解」成立後、安倍政権は「円満解決に向け協議」を無視して、すぐに「是正指示」を出してきたが、県の抗議によって3月16日に是正指示をやり直した。県は18日、是正指示に不服を申し立て、国地方係争委員会は6月に判断を出す。県の不服が認められない場合、県が原告の新しい裁判となる。
この裁判は1年内外の後、判決が出る。その間、辺野古工事は完全に止まっていなければならない。判決が県敗訴の場合、その瞬間から「法匪」たちと、日本のメディアは千回も万回も「判決に従え」と叫び続けるだろう。
私たちオール沖縄は、翁長知事を守り、支援し、団結を固めるのはもちろんである。その上に、戦争法廃止・安倍打倒で一つの大きなウネリとなりつつある日本の人々と共に、安倍の策謀を打ち砕くだけでなく、安倍政権そのものを打倒することに立ち上がるべきである!(4月1日、T)


辺野古代執行訴訟『和解』に際し、
 新基地建設問題の真の解決に向けた声明


 3月4日、安倍政権が沖縄県知事を訴えていた辺野古代執行訴訟で「和解」が成立した。その内容は、①政府と県は、埋め立て承認取り消しを巡ってそれぞれが起こた訴訟を取り下げる ②政府は承認取り消しに対する審査請求・執行停止を取り下げ、工事を直ちに中止する ③政府は承認取り消しについて、地方自治法に基づく是正を指示し、県は不服があれば指示取り消し訴訟を起こす。双方、判決には従う ④判決確定まで普天間飛行場返還と埋め立てについて円満解決に向け協議する―というものであった。
 政府が突然「和解」を受け入れた真意を測りかねながらも、この間、辺野古の海上、陸上における海上保安庁や警察機動隊の暴力にさらされ、厳しい闘いを強いられてきた私達は、一時であれ現場の作業が止まり、一息つけることを歓迎した。
 しかしながら安倍首相は、「和解」受け入れの発表と同時に「辺野古が唯一の解決策」との姿勢を改めて強調。わずか3日後の7日、国土交通大臣は是正措置(知事の承認取り消し処分を取り消すこと)を指示した。協議も始まらないうちの強権発動は、政府の言う「和解」が、県民の声に真摯に耳を傾けることではなく、代執行訴訟における政府の敗訴を避け、今後の訴訟を有利に運んで新基地建設を促進させるための方便であることを明らかにした。
 「和解」後1週間、辺野古の現場では、知事の承認取り消しの効力が復活して作業は止まっているものの、海上の作業船や海を仕切るフロートやオイルフェンスは置かれたままであり、警視庁機動隊もなお配置についており、私達は警戒を緩めることはできない。
 政府と県が「円満解決に向け協議する」ためには、最低でも次のことが前提になると私達は考える。
① 東京警視庁機動隊、海上保安庁、海・陸における民間警備会社の撤退
② キャンプ・シュワブ作業ゲート前の警備車両及び波型鉄板の撤去
③ 辺野古・大浦湾の臨時制限区域の撤廃
④ フロート、オイルフェンス及びトンブロックの撤去と作業台船の撤退
⑤ 陸上におけるすべての新基地建設関連工事の中止
政府が以上を真摯に実行することを私達は要求する。それなくして「和解」も「円満解決」もありえない事を安倍政権は認識すべきである。
沖縄の過去の歴史を踏まえ、未来を展望するとき、さらには日本の未来にかかわる「唯一の解決策」は、「辺野古新基地建設断念」しかないことを、私達は改めて確認し、翁長知事・稲嶺名護市長とともに真の解決まで闘うことを表明する。

2016年3月13日
ヘリ基地反対協議会(共同代表 安次富浩)