労働者共産党の「日中関係決議案」について
 中国大国化にどう向き合うか
                       山内 文夫

 大国中国にどう向き合うかというテーマは、日本の革命運動や平和運動においても、長期にわたって重要な問題である。これに、簡単に答えを出そうとしないほうが良いのかもしれない。しかし、この論議に叩き台を提示し、当面の基本線を出すべき時期に来ている。
 これは一党一派を超えた課題であり、昨年10月の労働者共産党・第6期2中総においても、「日中関係決議案」が中央常任委員会から提案され、継続審議となった。この短い決議案は、現在の安保法制反対闘争と関連させながら、このテーマに一定の範囲で指針を出そうとするものであった。この決議案を提案した側の立場から、若干の論点を提起し、また党内の意見・異論も紹介したい。

 テーゼ①②③は、このテーマの背景としての世界情勢認識を述べる。その重要な点は、現在の中国が、米欧日の帝国主義諸国と、新自由主義グローバル市場経済という共通の土俵に立ち、その土俵を共有して相互依存・競争を繰り広げていること、したがって、中国と日米との間など大国間の全面衝突の可能性は、極めて低いとする点である。ペンタゴンは米中戦争の構想を示しているが、それによって日本を集団的自衛権行使に駆り立てる意図はあっても、中国との戦争に本気とはいえない。
わが党の「アメリカ帝国主義を主柱とする国際反革命同盟体制」という認識は、帝国主義間の矛盾の存在を否定しないが、その矛盾の爆発を想定していない。しかし、中国の大国化などによって、超大国アメリカが主柱の地位から転落するような程度に、グローバルパワーバランスが変化しつつあると見れば、想定は異なってくるだろう。しかし⑪では、中国は大国となっても、超大国にはなりえないとする。
この背景の世界認識ははたして正しいのか、決議案の論点である。
⑤⑥は、72年日中共同声明などでの「反覇権条項」について、それを支持し、今日的に活用する可能性を指摘する。この条項は、ソ米覇権主義反対を掲げていた中国が提案したものであるが、決議案のポイントは、反覇権条項が今日的には、中国に対しても向けられているという認識にある。
⑧⑨は、2つの地域問題についての態度。「尖閣諸島」(釣魚諸島)問題は、日本の左翼にも半世紀近い論争史がある。しかし、「西沙・南沙」問題は、日本が領有権争いの当事者でないことも一因として、日本の左翼が検討を開始したのは近年のことである。したがって党内にも多様な見方がありうる。
 筆者の見方としては、カイロ宣言・ポツダム宣言・日華条約を法的根拠とする中国および台湾は、植民地支配国の協定などを法的根拠とせざるをえないベトナムやフィリピンなどよりも、法的立場は強いと考えられる(法的立場が強いから、正しいとは限らない)。しかし、中国・台湾が言う「九段線」には法的根拠が無い。これを対比的に記すことが必要だ。
 しかし、「分がある」という表現は、実質的に中国側の領有権を支持してしまう表現で不適当、という考慮すべき意見も出た。
 また、「九段線」に関しては、かっての華夷秩序をひきずる中国側の大国主義的意識の現われとする意見も提起された。
 ⑩⑪⑫は、中国の軍事政策の現況評価である。ここも論点になりそうだ。この決議案では、中国の軍拡は、日米軍事同盟への対抗力を著しく強化しているが、いぜん防衛的なものに留まっており、外征軍的なものではないとする。しかし中国の空母保有をどうみるか。空母は、台湾「防衛」に有効であるが、本来は遠洋での攻撃型兵器である。空母の運用が注目される。
注目すべきは、2015年の中国国防白書が、「海外利益の防衛」を掲げたことである。中国は最大の原油輸入国になっており、中東やアフリカなどで資源開発投資を拡大している。中国の海外武力行使は、日米とのミサイル戦争などとして現われるよりも、かっての第三世界における自衛権行使、非対称戦争として現われる危険性のほうがはるかに高い。

習近平首席は、昨年9月の抗日戦争勝利70周年式典で、「中国は永遠に覇権を唱えず、拡張を図らず、自らが経験した悲惨な経験を他の国に押しつけることはしない」と述べた。しかし今日の世界は、かって列強が中国・アジアを勢力圏として切りとり、相互にぶつかり合った時代とは異なる。現在支配的な傾向は、人権の名においてグローバル市場経済を守る「対テロ戦争」であり、それは大国の指導者にとって覇権主義とは見なされない。
 ロシアや中国は、米欧と「対テロ戦」で立場は異なるが、共通利害も持っている。米国の対中国政策は、「対抗」と「包摂」といわれる。米ソ冷戦では、「対抗」と「封じ込め」であった。「包摂」に変わったのは、ソ連圏は閉鎖的ブロックであったが、現在の中国とは国際経済を共有しているからである。米中で「ルール作り」が争われるのも、土俵を共有しているからこそである。
 中国には、非戦の「9条」は無い。しかし、米ソの覇権主義に反対し第三世界の代表者として振舞ってきた現代史があり、「海外武力行使」は中国にとって微妙な問題である。
 ⑬が示すのは、中国の体制における政治の主導性である。日本では、経団連の支持無くしては政権はもたない。しかし中共指導部は、国有企業経営者たちの単なる利益代表部ではなく、はるかに優越した存在であるとみるべきだ。この経済的土台と政治的上部構造の関係も、論点である。
 関連して、決議案では「国家資本主義体制」とある。これは中国で国家資本主義ブルジョアジーが支配階級となっているという意味なのか、あるいは、社会主義をめざす国が長期政策として国家資本主義を行なっているという意味なのか、あるいは、官僚的に歪められた「労働者国家」の一形態なのか、この決議案では明示されない。
 ⑭の設定は、法的次元で⑧⑨が述べられるだけでなく、国家・国境を廃止する国際革命を述べる必要があるからである。しかし、世界革命の一構成部分として「東アジア共同体」を語る必然性はない、とする異論も出された。
 「海外武力行使反対」が、日中両国で問われている。そして、東アジアの軍拡競争反対が重要になっている。沖縄の位置が重要だ。沖縄海兵隊の全面撤退をテコに、東アジアを軍縮に転じさせることが必要だ。
決議案に対する同志・友人の意見、異論を求む。
 
  日中関係決議案(一部略)
       二中総(2015・11)継続審議

(前文略)
① 党はすでに、2011年第5回大会の情勢・任務決議において、「アメリカ帝国主義を筆頭とする帝国主義諸勢力と新興国諸勢力との間での協調と対立が、今日の世界の際立った特徴である」と概括し、その「争闘は、この20世紀工業文明と弱肉強食の現代資本主義制度を基礎とした舞台の上で展開されている」ものであり、全世界労働者人民の闘争方向は、「この舞台を支える経済的政治的枠組みを全面的に変革すること」にあると提起している。
② また党は、14年第6回大会の情勢・任務決議において、「新興国とりわけ中国の台頭は、超大国アメリカの衰退と相関関係にある」としつつ、中国の大国化は「アメリカの覇権との矛盾を拡大・激化させつつある」が、しかし、中国の産業の発展は「グローバルな資本主義的発展にリンクしてしか展望を持ちえない」のであり、その大国化は、「大枠ではアメリカの世界覇権とそれが保障するグローバル資本主義を受け入れざるをえない」とする認識を提起している。
③ これら第5回・第6回大会の党の認識は、体制間矛盾論(社会主義体制としての中国と世界資本主義体制との矛盾)を否定するとともに、帝国主義・覇権主義の間の矛盾の爆発、新たな世界戦争論を否定し、したがってまた、今日の革命運動に対し、「戦争を内乱へ」的な古典的・教条的な戦術ではなく、社会再建領域を含めた現代的な共産主義運動の必要を提起するものであり、きわめて重要な観点となっている。
④(略)
⑤ 党は、72年日中共同声明と78年日中平和友好条約を尊重し、それにもとづいて現在の日中関係が改善されるべきことを、日中両国政府に要求する。両合意に立ち返る意思のない安倍政権は、即刻打倒されなければならない。
⑥ 党はとくに、「両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権をもとめるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する。」とした78年日中条約第2条、および同趣旨の72年共同宣言第7項を支持する。党は、現代の情勢にこの反覇権条項を適応させ、その遵守を両国政府に求めるとともに、この条項を活用した反戦平和運動の可能性を認める。
⑦ (略)
⑧ 現在の日中関係の懸案の一つである「尖閣諸島」問題については、党は従来から、日本は侵略戦争である日清戦争の講和条約によって台湾を強奪したが、釣魚諸島はこれに一歩先んじて、こっそりと戦時中に奪ったものであり、その領有権を放棄すべきであるという態度を執っており、現在もこの政策を堅持する。釣魚諸島は台湾島の付属諸島であり、1951年サンフランシスコ講和条約の第2条bによって放棄されるべきものであった。また、領有権放棄に至らない現在においては、日中間で70年代に形成された「棚上げ合意」を、日本政府に再確認させることが必要である。また党は、東中国海は、適法的な領海等を除いて、関係諸国・地域の開かれた共有圏であり、どの国であれ特権的地位を得ようとすることに断固反対する。
⑨ 現在の東南アジアの多国間懸案の一つである「西沙・南沙諸島」問題については、党は、日本政府がこの懸案に、公正な仲介者として以外の一切の介入を行なわないことを要求する。安倍政権によるフィリッピンなどへの肩入れ、軍事介入に断固反対する。日本は、この地域を1938年に侵略支配し、サ講和条約の第2条fによって放棄したという歴史的責任を負っている。侵略を反省せず、再び不当介入することは、なおさら許されない。また、西沙・南沙諸島については、第二次大戦の戦後処理としては中国の領有権主張に分があると考えられるが、中国がいわゆる「九段線」を根拠として、南中国海のほとんどを領海等と見なすならば、これは不当である。党は、南中国海は、適法的な領海等を除いて、関係諸国・地域の開かれた共有圏であり、どの国であれ特権的地位を得ようとすべきではないと考える。
⑩ 中国の対外政策・軍事政策については、日米支配層が意図的に「脅威」を煽っているが、その実際について客観的・マルクス主義的に評価することが必要である。中華人民共和国成立以降の中国の軍事行動は、すべて自国領域の安全保障や国境紛争的なものに留まっており、今現在も基本的にはその枠内にある。(現在の中国が、清帝国・中華民国の領域を引き継いでいることに起因するチベット問題や東トルキスタン問題は、基本的に中国領域内の問題であり、この決議の対象ではない)。
⑪ 今後の中国が、「社会主義」を掲げた帝国主義、かってのソ連のような社会帝国主義になる可能性はあるのか。それは、ありえない。アメリカ帝国主義と、かってのソ連社会帝国主義は、他の諸主権国家の自国統制下への組み込み、自国軍事力の国際的配置、その経済的基盤としてのドル基軸・国際自由市場体制あるいは「社会主義」国際分業体制、これらの特徴をもつ「帝国」として君臨してきた。現在の中国には、それら「帝国」の実質はまったく無く、「帝国」を目指す意図もみられない。
⑫ 今後の中国が、資本主義的帝国主義あるいは覇権主義になる可能性はあるのか。その可能性は否定できない。現在の中国は、いぜん資本輸入大国であると同時に、米国債保有をはじめ間接投資においても、また国営企業による直接投資においても、資本輸出大国として急速に成長している。資本輸出による海外権益の拡大は、海外での武力行使すなわち覇権主義を台頭させる客観的基礎であり、現在の中国においても、覇権主義の経済的誘因は増大している。中国が、日米など大国間と武力衝突する危険性よりも、資源開発がらみなどで海外武力行使に走る危険性のほうが高いと考えられる。
⑬ 現在の中国の政治社会体制は、共産党組織が統治する国家資本主義体制という特質をもっている。したがって、今後の中国の対外政策が覇権主義を取るか取らないかは、経済的側面によって主要に決定されるのではなく、中国共産党の政治的意思決定によって左右されている。中国の「平和的発展」の道を堅持する中国人民・中国共産党内の人々との、国際的な連携・連帯が必要である。
⑭ 党は、世界共産主義革命をめざしつつ、その一構成部分としての労働者人民による東アジア共同体の実現をめざしている。この東アジア共同体は、当初はブルジョア的性質をもって始まったとしても、最終的には国家・国境を廃止し、資本主義制度を克服して、日本・琉球・朝鮮そして台湾を含む中国などの労働者人民が、東アジアの平等な主人公となって、自らを解放し連帯する共同体である。現在の中国などの国家資本主義体制が、こうした国際的な社会主義の道へ進むのか、それとも全面的な資本主義の道へ転落してしまうのかは、主要には中国プロレタリア階級の奮闘に懸かっている。そして、この中国の前途をふくめ、東アジア・全世界の前途は、東アジア・全世界のプロレタリア階級の奮闘に懸かっている。全世界の労働者団結せよ!(了)