育鵬社中学教科書2015年採択状況
  際立つ大阪維新の反動性
   
 2015年中学校教科書採択が、7~8月に全国各地で終わり秋には、育鵬社教科書の占有率が、歴史・公民とも6%前後にとどまったことが明らかになった。
育鵬社版教科書をつくり、採択をすすめる日本教育再生機構の八木秀次理事長は、「安倍内閣と進めてきた『教育再生』の成否は、この教科書採択の実績で決まる」と高言。「10%、12万冊以上取れるか否かにかかる」と主張してきた。しかし実際には、目標に届かなかった。冊数と採択地区数を増やしたものの、反動教科書に反対する各地の闘いで押しとどめられたと言うべきだろう。
 採択結果は、育鵬社教科書の歴史が推定73350冊・占有率6・5%(4年前の11年では47812冊3・7%)で、公民は推定67585冊・占有率5・8%(11年48569冊4・0%)であった。採択地区の占有率で見ると、全国582地区中21地区で3・6%(11年582地区中14地区2・4%)との結果がでている。
自由社版は、歴史推定430冊0・04%(11年830冊0・07%)、公民推定415冊0・04%(11年654冊0・05%)で、私立中学校のみの採択であった。
 また、2014年6月に、日本教育再生機構が育鵬社教科書採択を目指して発足させた教育再生首長会議に参加する首長の地区での採択は、81名中新規採択3地区を含めて9地区となっている。
 さらに部数拡大のため政令指定都市の獲得を画策するが、横浜市、大阪市の2都市で採択、名古屋など18市では採択されていない。
安倍政権と自民党は、日本会議、日本会議国会議員懇談会、日本会議地方議員連盟を動員、全面的に育鵬社・自由社版教科書の採択を画策した。そして「適正な教科書採択のため公正な教科書検定を求める意見書」等を地方議会に提出、圧力を掛けた。また、各自治体で作成することとなった教育大綱を利用し、「大綱に示された方針に従って採択しなければならなくなる」とのデマまで流した。

 前採択地区で阻止

 前回の11年に、育鵬社を採択した東京・大田区では、育鵬社推薦委員3名のうち、歴史に3名、公民に2名が東京書籍に変更、歴史・公民とも東京書籍が採択された。新教育長は、いずれも育鵬社採択に回るが阻止されている。
これは、大田区民や教育労働者らによる、育鵬社教科書不採択にむけた活動の成果である。不採択にむけた共闘を拡大し、教科書学習会、チラシ配布、教育委員会傍聴、区民意見提出、校長会会長訪問、要望書提出など創意工夫した運動を繰り広げて勝利した。
 愛媛県今治市、島根県益田地区、広島県尾道市なども育鵬社採択を阻止し、神奈川県平塚中学校も採択をやめる等、今回は採択を許さなかった。これは、全国で運動が展開され、地域で粘り強く取り組まれた闘いの成果である。

 大阪・横浜の大量採択

横浜・大阪2市の採択による冊数は多く、歴史総数の63%、公民の68%を占めている。
大阪府では5市が採択し、大阪府が全国で占める割合は、歴史およそ28%、公民で約39%にのぼっている。大阪市と四条畷市、泉佐野市が歴史・公民を採択、河内長野市で公民が採択された。そして東大阪市では、公民が11年に続いて採択されている。
 11年の大阪府知事・市長選の以降、大阪各地で維新や維新系の首長が誕生した。12年3月、維新の会は、大阪府議会で「教育行政基本条例」を可決させた。それは、首長による教育への介入を制度化し、上意下達の教育支配・学校支配を可能にした。首長が教育目標設定に絶大な権力を行使し、独裁的な教育の支配統制で、新自由主義教育・軍国主義教育推進を目指している。
 育鵬社採択は、これら条例に基づいた首長の介入が大きく影響した。東大阪市長や泉佐野市長(大阪維新)は、教育再生首長会議に参加し、四条畷市は、日本会議地方議員連盟の代表発起人を務めたと言われる維新系市長だ。そして橋下元大阪市長は、採択地区を統合する等、着々と育鵬社を採択させる体制をとってきた。
 育鵬社版の採択は、選定委員会(地域によって調査委員会・採択委員会等名称が異なるが、選定案を教育委員会に出す)の答申を無視、教委が強引に採択する手法で実行された。東大阪市では、反対運動で育鵬社は「3社推薦」から外されたにもかかわらず、強引に採択された。また、泉佐野市でも推薦順位5位の公民、6位の歴史が採択されている。
 二つめは、選定委員会による順位づけ、出版社絞り込みをさせず、教育委員会が独断で採択する手法だ。大阪市と四条畷市は、答申に全社の各教科書の特徴だけを記入させ、教育委員会が独断で採択している。不採択を勝ち取った地域でも、(文科省の通知で)絞り込みをやめる教委が増えている。
 育鵬社採択と制度改悪に対して、大阪市校長会は、「副教材が必要であるような現場で使用しにくい教科書の採択に疑問」、「今回の学校調査、専門調査は、各教科書の優先順位が付けられていない制度であり、学校現場での意見が十分反映されにくい。次回は改善をお願いしたい」と表明した。
 社会科は、社会科学であり、事実を記述しなければ価値がない。まして、授業がしにくくて副教材が求められなどは言語道断である。現場や市民の意見を尊重するのが当然であろう。
 11月22日、大阪府知事・大阪市長選が実施され大阪維新の候補が圧勝、今後も育鵬社版採択阻止には厳しさが予想される。しかし、粘り強い運動で教育委員を説得し、また反動首長を引きずり降ろす闘いが求められている。

 ピース大阪、展示改悪

 大阪府と大阪市の出資による財団法人大阪国際平和センター(ピース大阪)は、来場者の過半数が課外授業で訪れる小中学生で占められている。この展示に、大阪維新の議員らが、「旧日本軍を悪逆非道な存在と決めつけている」などと言いがかりをつけた。それを受けて橋下徹前知事は「府民の意見を反映すべき」と発言、15年から展示を変更させた。
 改装後は、軍隊「慰安婦」に関する展示を取りやめ、南京大虐殺など旧日本軍の侵略行為を示す写真や資料を撤去し、大阪空襲の被害に関する展示を中心に再構成した。平和学習のためのの展示を、侵略美化の宣伝に変えてしまった。
反動教科書と反動的課外授業のセットである。事実をねじまげ、子どもたちを戦場に送るための、大阪維新と安倍政権の暴挙を許してはならない。
教科書では、4年後に向けた取り組みが問われている。さらに道徳の教科化によって、17年には小学校道徳教科書、18年には中学校道徳教科書の採択が行なわれる。教育再生機構や育鵬社などが、道徳教科書を発行することが予想されている。これとの闘いが当面の焦点になる。(O)