労働者共産党 第6期2中総決議 (2015・11) 

   「集団的自衛権法制化阻止・安倍たおせ!」
           闘いの総括 

                             

  <はじめに>

 今回の闘いの目標は、集団的自衛権の法制化を阻止し、安倍政権をたおすことであった。またそのことを通してわれわれは、労働者民衆の政治勢力(「第三極」)の形成を展望した。
 結果は、次のように言えるだろう。闘争は高揚したが、闘争目標を達成して「第三極」の形成へと向かうには限界があったと。課題の実現はこれからの闘いに持ち越された。
 戦争法案は成立してしまったが、労働者民衆の間に敗北感はない。むしろ2011年「3・11」後に反原発闘争の大爆発があり、そして今回の安保闘争の高揚ということで、民衆運動のうねりの始まった感があること。それにまた国家と資本主義の側に、かつてのような民衆を包摂する生命力がなくなっているということもある。
 そうした中でわれわれは、この間の闘いを以下のように総括し、次の闘いを展望する。 

  <闘いの経過>

闘いは次のような経過をたどった。
① 第一段階は、2014・7・1集団的自衛権行使容認の閣議決定から2015・5・14戦争法案の閣議決定までである。闘いの準備として特徴づけられる期間である。
 集団的自衛権行使容認の閣議決定は、内容的にはアメリカの覇権のためのアメリカの戦争に、米軍の指揮・統制下で自衛隊を参戦させることに道を開くもの(憲法9条の全面否定)であり、この改憲の発議を国会両院の三分の二の賛成によるのではなく、内閣が決定してしまう違憲行為(憲法96条の否定)でもあった。言い換えれば、最高法規を無視して侵略国家体制への転換をおし進めるクーデターが始まったのである。それは、今まで地ならししてきた教科書検定、総評・社会党ブロックの解体に続いて、特定秘密保護法の成立によるさらなる報道機関への言論統制、小選挙区制度を利用した自民党内の徹底した議員統制をもって突破しようとするものであった。
 この事態に直面して、2014・12「総がかり行動実行委員会」が結成される(2015・5・3集会に3万人超)。「9条改憲阻止の会」もこの方面の運動を再建し、その呼びかけで2015・1反戦実が結成された。
② 第二段階は、5・14法案閣議決定から7・15、16法案衆院強行採決までである。
 そもそもこの法案は違憲法案であるから、国会が審議・採決する対象ではなく、門前払いすべきものであった。しかし国会では、法案の部分的問題をめぐっての議論が続いた。6・4で潮目が変わる。 
 6月4日に行われた衆院・憲法審査会において、与党推薦を含むすべての憲法学者が、法案を違憲と指弾した。これを契機に各種世論調査において、法案を違憲とする人が過半を占め、政府の主張について理解できないとする人が7~8割に達するようになる。
 大衆運動上でも変化が現れてくる。最大の特徴は、それまでの中高年層中心の運動にくわえて、学生が大挙進出したことであった。運動は、「違憲」批判を基軸に、戦後体制・戦後生活の防衛という性格を一気に強めた。沖縄・辺野古新基地建設阻止の闘いとの連帯が強まっていく。運動は、明確に上げ潮となる。
③ 第三段階は、7・15、16法案衆院強行採決から9・19参院強行採決・戦争法成立までである。
 安倍政権は、7・15、16の強行採決前後、全ての世論調査で、支持・不支持が逆転、不支持が50%を超える調査も出る。「違憲法案廃案」だけでなく、「安倍たおせ!」が民衆多数の声となる。闘いの前線に高校生・子育て中の親など広い意味での当事者層が登場し始める。総がかり行動実行委員会と並ぶ仕方で、学生団体シールズが運動の前面に立つようになる。
 安倍政権は、警察力に頼って違憲法案の強行採決をめざす局面に入る。それと共に安倍政権は、中国・朝鮮に対する排外主義を煽ることで、政治的孤立からの脱出を試みる。また、沖縄との一カ月休戦、対米配慮優先の70年談話など、戦争法案採決優先での戦線建て直しを行った。
 そして「8・30国会10万人・全国100万人大行動」が、今回の闘いの最大の焦点となる。
  「学生ハンスト実」が8月27日から無期限ハンストに突入(9月2日まで148時間貫徹)。 8月30日、12万人が国会周辺と霞が関・日比谷公園一帯に集り、国会正門前において警察の規制を突破し車道を全面解放、一大集会を実現した。60年安保闘争、70年安保闘争以来の、日本において久しくなかった安保闘争の爆発であった。それは、沖縄との連帯、東アジア民衆との連帯を意識して展開された。
 この局面の一つの特徴は、最高裁の元長官さえもが、戦争法案を違憲と批判したことである。民衆的高まりに突き上げられて、議会4野党の共闘も強まり、さらに維新が分解して野党5党の共闘が形成された。
 そして9・14~19の参院採決をめぐる闘い。警察の警備が一段と強化され、闘いも自ずと激しくなる中の14日、人々は再び、より広い範囲で国会正門前の解放を実現する。ただこの闘いを境に、運動を国政選挙へと集約する流れが強まり、警備の側も車線を部分開放するなど、政治的収束を見定めた動きが表面化する。そのような中、16日には国会正門前で13人が逮捕される(25日までに全員釈放を勝ち取る)など、それに抗する流れへの弾圧も開始される。
 17日、参院特別委員会での強行採決。19日未明、参院本会議での強行採決。

 <闘いの総括>

 ①今回の安保闘争は、60年安保闘争、70年安保闘争と並ぶ大きな闘いとなった。その最大の根拠はまずもって、安倍政権の「暴走」にあったと言ってよいだろう。
 そこでは、安倍の戦前回帰的な思想・政治傾向による要素もはたらいていたが、それは暴走促進的な副次的要素であったろう。安倍政権の暴走のもっとも深い根拠は、資本主義終焉の時代に入って資本(国際投機マネー・多国籍企業)が、自己利益の追求と社会の存立とを両立しえなくなっていること、その中で安倍政権が、資本の自己利益追求を推進し社会を壊していく側に自己のスタンスを定めたことにある。その集中的現れが、集団的自衛権の法制化であり、憲法さえも無視してそれを強行するという態度に他ならなかった。すなわち、グローバルな市場経済において、アメリカとの軍事一体化を図りつつ、日本の多国籍企業の権益を守り、さらに防衛装備(武器)の輸出、原発の輸出をすすめようとするものである。
 アメリカの圧力に応えるためならば、資本の利益のためならば、社会は壊れてもよいという安倍政権の態度に、民衆は反撃したのである。
 ②安倍政権による違憲立法・侵略国家づくりのクーデター行為は、民衆の広範な決起を呼びおこした。それは戦争立法を阻止できはしなかったが、安倍政権を追い詰め、民衆が自己の闘いによって政治の在り方を規定する時代を開いた。「8・30」(および「9・14」)は、民衆の時代への力強い踏み出しだった。
 今回の闘いの政治性格は、安倍クーデターの阻止、「立憲主義」「平和主義」「民主主義」の防衛・回復であった。若い世代に培われてきた「主権者」意識は、ソーシャルネットによる人々の交通という社会の構造変化にも支えられて、運動全体の牽引力となった。
 当初は、労働組合による動員や中高年層が運動の基礎的勢力であった。市民運動が、全国的に地域に根を広げる仕方で、特に女性が主力を担った。宗教者の決起は、この闘いでも大きな位置を占めた。青年学生、高校生、子育て中の親世代、元自衛官などが起ちあがった。学者・弁護士・元最高裁判事が声をあげた。芸能界にも輪が広がった。労働組合の動員を越えた参加も拡大した。このような広範な運動が、野党内の集団的自衛権賛成論者の言動を止め、野党共闘の拡大につながった。
 ③しかし議会野党とその支持勢力は、最初から最後まで徹底審議路線、それを応援する院外カンパニアという戦術であり、違憲立法を審議中止に追い込むという戦術ではなかった。求められていたのは、国会闘争の大爆発によって審議を中止させ、(安倍が退陣すれば、選挙管理内閣によって)国会を解散させることであったが、こうした戦術的観点はごく少数派にとどまった。
 ④運動の政治性格と社会構成の中に、運動の限界も孕まれていた。本来、運動の先頭に立つべき労働組合であるが、その多くは、資本の利益を考慮して足がすくみ、職場からの運動の組織化が不十分であり、運動を統一して指導するセンター的役割を果たす機関も形成されなかった。そして、新自由主義の労働攻勢の中で一番の被害者である非正規下層の層的登場の欠如であり、社会崩壊のただ中で新しい社会の創造を模索する人々の政治的未進出であり、社会革命を目指す潮流の微弱さである。そうしたことの結果労働者民衆の闘いは、支配階級の反安倍的部分や議会内の野党を後押しするところに一旦収束していくことになった。
 とはいえこの現実を自覚し変革しようとする勢力が少数であろうと存在し、闘いの爆発に貢献したことの意義は、これからを考えるとき決して小さくないだろう。
 ⑤今回の闘いにおいて、8・30の警察の鉄柵規制の突破、国会正門前の車道全面解放・大集会の実現が、今後の民衆運動にとっても、国際連帯という側面から見ても、大きな意義をもった。そこでは、警察の強圧的規制を突破する戦術というよりは、警察のソフト規制に対する人々の自己規制・自縛的態度の転換に道を開く戦術が問われた。8・30での成功の地平は、9・14では全体のものとなった。
 ⑥侵略戦争に道を開く安保法制がともあれ成立した事実は、決して軽くない。それが、侵略戦争と利益でつながる勢力を内外に形成し、大国主義を蔓延させ、民衆に対する監視・分断・弾圧の体制を飛躍的に強めていく足掛かりになるからである。
 しかし同時にそれは、支配秩序を揺るがす以下のような事態を招来せずにはおかない。
 第一は、日本の国家が、アメリカの指揮統制下で、アメリカの世界覇権の衰退を補完しつつ主体的に侵略国家へ転換していくことで、世界の民衆の敵意に包囲されていくことである(この矛盾を集中的に背負わされる沖縄の闘いとの連帯が一段と重要になる。自衛官の反抗の現れとの連帯もしかりである)。第二は、政府が、最高法規たる憲法をないがしろにしたことで、法の権威が崩れ、法治が機能しなくなっていくことである(立憲主義回復への闘いや違憲訴訟が持続的に闘われることになる)。第三は、ブルジョア階級が、自己の統合システムたる代議制民主主義をないがしろにしたことで、民衆の直接民主主義的決起を呼び起こし、支配階級内部の亀裂を深刻なものにしていくことである。

   <「第三極」政治勢力の形成へ>
 
 今回の闘いは、支配階級内部の「第一極」と「第二極」の葛藤を深刻化させ、「第二極」勢力の密集を促した。当面、議会政治では、日共と社民を巻き込んだ「第二極」が安倍政権と対峙し、戦争法廃止・立憲主義回復のための「政権交代」が問われる情勢となっている。われわれは、この政権交代を支持するが、それはゴールではなく、新たなブルジョア政権との闘いの始まりであるにすぎない。当面の国政選挙においてわれわれは、戦争法廃止を軸にした最大限の選挙協力を求める。日共による暫定的国民連合政権提案は、選挙協力の実質としては消極的な提案であるにすぎない。
 われわれにとって「第二極」の密集は、二つの側面を持つ。
 一つはそれが、安倍クーデター政権を打倒し、戦争法廃止・立憲主義回復を達成する上で、前進的な側面を持っていることである。われわれは、この側面については歓迎し、促進的でなければならない。
 もう一つはそれが、労働者民衆の闘いを抑制し、労働者民衆自身の政治勢力・「第三極」の形成を妨げる側面を持っていることである。われわれは、この側面については歓迎できない。そもそも労働者民衆の闘いが弱い場合には、「第一極」に対する「第二極」の密集は崩れる。
 したがってわれわれは、まずもって労働者民衆の大衆闘争の発展へ、この間の安保闘争の限界を超える意識性をもって、主要な力を注いでいかねばならない。
これから安倍政権は、政治的・法制的な安定性を欠いたまま、アメリカの指揮・統制下での侵略戦争にのめり込んでいく。当面は「経済成長」策を前面に押し出して、民衆の懐柔・包摂に力を注ごうとしているが、アベノミクスの幻想は剥がれ、投機マネーバブルは崩壊の瀬戸際に来ている。
 このように安倍政権の民衆統合力は弱体であるが、政権を延命させる一大要素となっているのが、現代日本の反動的ナショナリズムである。このナショナリズムは、中国などへの敵がい心を煽りながら、日本の経済大国としての地位の挽回・強化を求め、さらには軍事大国化・9条改憲を容認する大国ナショナリズムであり、ある程度「第二極」勢力にも通底している傾向である。われわれは、改良的には中国などとの外交関係改善によって、また根本的には労働者民衆の国際連帯の強化によって、大国ナショナリズムとの長期の闘争に勝利しなければならない。
われわれは、非正規下層の闘いが勢いを増し、社会再建の活動が飛躍的に広がり、労働者階級人民が高揚の中で「第三極」の形成に向かう情勢を前にしている。われわれはその道を、運動的に切り拓くと共に、左翼の結集をもって政治的にも推進していかねばならない。共産主義者の団結・統合が一層鋭く求められてきているのである。
 2015年安保闘争は革命的左翼の立ち遅れ、その再建・新生の課題を改めて痛感させた。われわれは、この課題意識を共有するすべての組織・個人と共に、新たな挑戦を開始しなければならない。(了)