日本政府は、対「イスラム国」有志連合から直ち
に撤退し、アメリカ追随の中東政策を転換せよ!

 「イスラム国」人質事件が日本の世論に与えた影響を考えると、日本もついに殺し殺される戦争当事国になったのか、という危機意識であると言えるだろう。
その結果、事件直後の世論調査では、安倍内閣支持率が一時的に上昇した。この事件は、安倍首相の中東での「イスラム国と戦う周辺国に2億ドル」などの言動が呼び水となり、米国との同盟関係を最優先にすることによって、人質の後藤健二さんらを見捨てたに等しい事件であった。にもかかわらず支持率が若干上がったのおかしな事態であるが、これは、非常時には民心が、勇ましいことを言う政権寄りになることの事例とみることもできる。
 日本がイラク戦争で自衛隊を現地に派兵していた時期に、イラクの抵抗勢力が自衛隊の撤退を求めて、日本人人質事件を3回起こした。内2件は、日本国民が自衛隊撤退を求めている情報が抵抗勢力に伝えられるなどして無事解放されたが、1件では1名(香田さん)が殺害された。このイラク戦争の時期のほうが、日本は露骨に戦争当事国となっていたのであるが、何ゆえか危機意識は一般的にはならなかった。
イラク戦争は、中東の人々に、原爆を落とされた日本がアメリカ側に立ってしまった、と印象づける転換点となっている。しかしサマワ駐留の陸上自衛隊に対し、抵抗勢力は米英軍と同様には対処しなかった。まだ平和憲法を持つ日本は特別扱いされていたとも言えるだろう。それで駐留が長引くとともに、危機意識は後退していった。
今回の場合は、イスラム聖戦主義勢力が日本も敵だと初めて宣言したこと、またインターネットで劇的に事件が進行という今日の情報環境、これらの違いもあるだろう。
 さて安倍首相は、後藤さんらの拘束を知りながら、わざわざ中東で相手を挑発するなどの、このかんの政府対応を反省するどころか、この事件を9条改憲に利用せんとしている。
後藤さん殺害の衝撃から翌々日の二月三日、安倍は参院で、「自民党はすでに9条の改正案を示している。なぜ改正するかと言えば、国民の生命と財産を守る任務を全うするためだ」と述べた。後藤さんらを救えなかったのは9条のせいだ、と言っているに等しい。
 むろん事実は正反対だ。9条に反する安倍の政治が、事件を呼び、後藤さんらを死に追いやったのである。
 安倍の事件対応や、この事件を9条改憲や集団的自衛権行使法案に利用しようとする動きに対しては、諸野党やメディアも少なからず批判している。小池晃参院議員(日共)や辻元清美衆院議員(民主)などが国会で、カイロ演説で危険が及ぶ認識がなかったのかなど政府対応を質している。しかし安倍は、「テロリストの意思をいちいち忖度しない」(参院二月二日)、「テロを恐れるあまり脅かしに屈するような態度をとれば新たなリスクが発生する」、「テロリストに過度な気配りをする必要は全くない」(参院二月三日)などと居直り、他方では「演説の言葉は慎重に選択した」(衆院二月四日)などとごまかした。三日には「小池氏の質問はテロに屈服」などと言って、議場が紛糾した。国民の人命よりも、国家の面子が大事という安倍の本質が暴露されたのである。
安倍政権は二月十日、今回の危機対応検証委員会を設置した。事件対応の是非では結論ありきの体裁であるが、検証対象には秘密保護法が適用されるとしており、安倍政権の今回の不手際を、かえって戦争体制づくり・緊急事態条項の改憲へ持っていこうとしている。
 より重要であるのは、対応検証よりも政治路線である。問題は、対「イスラム国」有志連合からの撤退を安倍政権に明確に要求する野党が、国会に存在しないということである。小池議員は良い質問をしたが、日本共産党も対政府要求として有志連合からの撤退を掲げていない。
 二月五日の衆院では、「シリアにおける邦人テロ非難決議」が全会派一致で採択された(参院では六日)。
 その決議には、「国連安保理決議に基づいて、テロの脅威に直面する国際社会との連携を強め、これに対する取り組みを一層強化するよう、政府に要請する」とある。具体的に明示はされていないが、ここで言う「国際社会との連携」とは、対「イスラム国」有志連合を指すことは明白である。この有志連合の一員としての日本の取り組みを強化せよ、と民主党のみならず、共産党、社民党も求めていることになる。

 共産党、社民党も撤退要求をせよ!

 この日本の議会野党の対応は、同様にアメリカ主導の有志連合で強行されたイラク戦争の時とは、大違いである。対「イスラム国」の戦争なら、挙国一致でよいのか。
 「イスラム国」を非難する安保理の報道声明は何回も行なわれているが、「イスラム国」に対する安保理の軍事的制裁決議は行なわれていない。非軍事面で、昨年八月と九月にテロ目的渡航や資金移動の制限を各国に促がす決議が行なわれたのみである。従って対「イスラム国」有志連合には、常任理事国では中国、ロシアが、当事者国ではシリアが参加していない。
イラク戦争も、安保理の軍事制裁決議が無いまま強行された。イラクに核査察を求める安保理決議は幾つもあったが、中国、ロシア、フランスは、それらの決議は対イラク開戦の根拠にはならないと主張した。しかし当時の小泉政権は、これらの決議を根拠にイラク特別措置法を作り、自衛隊派兵を強行したのである。
現在の対「イスラム国」有志連合は、アメリカ帝国主義が主導し、新たにフランスが参加した、イラク戦争有志連合の再版に他ならない。
イラク戦争への日本の参加の是非に、当時のフセイン政権が良いのか悪いのか、悪いとすればどの程度悪いのかという問題は関係なかった。問題は、日本外交の基本的選択の問題であり、憲法9条をもつ日本が海外での戦争に加担してよいのかという問題であった。同様に、「イスラム国」が良いのか悪いのか、悪いとすればどの程度悪いのかという問題は、現在の有志連合参加の是非には関係ない。
日本は、現在の有志連合に参加しなくても、「イスラム国」関連を含むシリア・イラク内戦関連の避難民などへの人道支援は、おおいに行なうことができる。現地の赤新月社などと連携した民間人被害者の救援、欧米がテロ組織だと決め付けがちな中東各国の責任あるイスラム系諸勢力との関係作りなど、独自の平和的取り組みを強化すべきである。それこそが、「積極的平和主義」ではないのか。
 にもかかわらず、2名の同胞が殺され、テロ糾弾一色となると、わが国のいわゆる公党は「有志連合から撤退せよ」と声を出せなくなっている。かって日本軍国主義の大陸膨張の過程でも、多くの民間日本人が今日で言うテロで殺されている。こうした事件は帝国主義的な必然と言えるものであるが、その度に侵略拡大の正当化に使われてきた。同じ誤りを繰り返すのか。
 平和憲法の破壊が安倍政権の日程に上げられている今日、以上のように共産党や社民党などの憲法擁護勢力が、対「イスラム国」有志連合であいまいな姿勢を続けていることは極めて問題だ。
 日本政府は、対「イスラム国」有志連合から直ちに撤退し、アメリカ追随の中東政策を転換せよ。(W)