「イスラム国」人質事件
 安倍首相、日米同盟のために健二さん見殺し!
 戦争法案は有害無益

 通常国会が一月二六日から始まった。今国会では、軍拡・社会保障切り捨ての15年度予算案はもちろんとして、安保法制をはじめ、埋め立て着手を強行せんとする辺野古新基地建設問題、八時間労働制破壊の労働基準法改定案、三度目の労働者派遣法改定案などをめぐって、第三次安倍自民・公明連立政権との闘いが山場を迎える。
 最大課題は、四月統一地方選挙の後に提出とされている、昨年の「7・1閣議決定」を実効化する安保法制一括法案(自衛隊法改定など集団的自衛権行使一括法案)の阻止である。この国会提出自体を許さず、提出を強行すれば、それが安倍政権の命取りとなるような政治情勢を、大衆運動・大衆闘争を主力として勝ちとること、これが当面の焦点である。
 一月二十日に公然化し、二月一日の後藤健二さん殺害によって最悪の結末となった「イスラム国」人質事件は、この集団的自衛権行使法案の行方と密接にかかわる。
 この事件を利用し、安倍首相は一月二九日の国会で、「領域国の受け入れ同意がある場合、自衛隊の持てる能力を生かし、救出に対応できるようにするのは国の責任だ」と答弁し、海外で日本が武力行使できるための法制化の意欲を露骨にした。我々はこうした方向を許さず、「イスラム国」人質事件から教訓を引き出し、当面の集団的自衛権行使法案反対闘争に資することが必要だ。
 
  有志連合から撤退せよ

 その教訓の第一は、日本政府が2003年のアメリカ有志連合によるイラク侵略戦争開始に参加し、自衛隊イラク派兵を強行した以来の中東政策を清算し、再転換する必要があるということだ。
 それ以前の中東政策でも、イスラエルの不法な占領を事実上容認したり、反動的なアラブ諸政権をカネで買収したりで、その問題は大きかった。しかしイラク戦争への支持・参加が、日本は明確にアメリカ側に立ったということを、中東の諸政府・人民に示した転換点になっている。
 イスラム原理主義勢力・イスラム国の源流は、アメリカのイラク侵略に武力抵抗を続けたスンニ派である。その後、米軍のイラク撤退、シーア派主導政権の弱体、シリア内戦によって、シリア東部からイラク北西部にまたがるスンニ派地域に権力の空白が生じ、イスラム国が「成立」した。イスラム国の生みの親は、米欧の中東侵略である。
 今回の人質事件でのイスラム国による最初の声明と、最後の後藤さん殺害声明には、日本がアメリカが主導する対「イスラム国」有志連合に参加したことへの抗議、憎悪が示されている。
 日本は、対「イスラム国」有志連合から撤退をただちに表明し、米欧の中東政策と明確に一線を画すようにすべきである。
これは「テロに屈する、屈しない」の問題ではなく、米欧帝国主義とイスラム圏の軋轢という歴史的局面において、日本が取るべき外交戦略の問題である。この歴史的局面において本来、日本帝国主義は漁夫の利を得る立ち位置にいるのであるが、愚かな安倍政権にはそのような知恵もなく、ただ米帝国主義に加担することしか知らない。そうであるならば、日本の人民が国際的民衆運動として、イスラム圏との平和的共存外交を進めていくしかないだろう。
第二の教訓は、中東地域に限らず諸地域の内戦に対して、内戦への軍事的介入を拒否する、内戦当事者間に公平な態度をとり、平和的仲介者として以外の不当な介入を行なわない、という日本外交を確立する必要である。
米ソ冷戦時代の内戦は、買弁的独裁政権に対する左翼ゲリラの武力闘争、という分かりやすい内戦が多かった。しかし現在は、米帝の歴史的後退、ソ連・東欧ブロックの崩壊などによって、各地域の固有の矛盾が表出し、分かりにくい内戦が増えている。イスラム国というのも、シリアおよびイラクの内戦の一当事者である。今後、イスラム国という帽子が崩れても、この地域のスンニ派住民という本体は残るし、シーア派やクルド系などとの地域紛争も継続するだろう。
今回の人質事件では、被害者の湯川春菜さんに、軍事ビジネスと称して、シリア内戦の一当事者に合流するという誤りがあった。だからと言って捕虜的な存在を殺害することは断じて許されないが、平和憲法下の国民として道を誤まることの危険性、それを明らかにもしている。後藤さんにも、軽率なところがあった。内戦当事者の支配地域に、受入先がないまま入ったとしたら、敵側の侵入とみなされてしまう。普通は拘束・尋問して、敵性でなければ強制退去であろう。しかし利用価値があると見なされれば、話は別だ。
 
  内戦に介入するな

 ここで、人質事件での安倍政権の対応を検証する必要がある。日本政府は十一月段階で、日本人2名がイスラム国に拘束されたことを知っていたにもかかわらず、中東歴訪中の安倍首相は一月十七日カイロで、「イスラム国の脅威をくい止めるため」と明言して、イラクとシリア、関連難民支援に2億ドル無償供与を表明した。十八日にはヨルダンで、「イスラム国との戦いに敬意を表する」と言って1億ドル。有志連合への参加表明である。これが、イスラム国に格好の人質利用価値を与えた。
中東援助として新たに25億ドル、その内計3億ドルがイスラム国対策である。十九日のイスラエルでは、ネタニヤフ首相と「テロとの戦いで連帯」とぶちあげた。この一連の安倍の言動は、イスラム国のみならず、アラブ人民・パレスチナ人民全体への挑発にほかならない。
事件が公然化してからも、安倍政権が後藤さんらを本気で救出しようとしたのか疑わしい。後藤さんのお母さんの一連の声明は、平和憲法下の国民として極めて立派なものであったが、政府は一回目の記者会見を阻止しようとした。その後も安倍は、お母さんの面会要請を拒否した。イスラム国と接点のある人たちを使おうともせず、イスラム国に何のメッセージも出さなかった。普通の強盗人質事件でも、警察は犯人に説得を行なうのだが。そして仕舞いには、ヨルダン政府に交渉を丸投げしてしまった。民間人・非戦闘員である後藤さん殺害は、イスラム国の犯罪であるが、政治的には安倍が見殺しにしたのである。
 安倍の責任を徹底追及し、こうした事件を利用した「戦争する国」への転換を断じて許してはならない。(了)