川内原発
 県・立地自治体の再稼働「同意」-闘いは続く
  周辺自治体無視の暴挙

 年明けにも、全国の原発再稼働の突破口として、九州電力・川内原発の再稼動強行が目論まれている。県と立地自治体の首長・議会の同意さえあれば、周辺自治体の同意はいらない、県民・住民の多数意見は無視してよいとする今回の「川内モデル」が通用するならば、日本に民主主義は無く、また福島第一原発事故の教訓(原発災害に立地自治体も周辺自治体も無い)は完全に無視されたこととなる。
当面、十二月総選挙で自民党を敗北させ、この再稼動を止めねばならない。そして何よりも、立地点と鹿児島・九州・全国を結んだ大衆闘争をさらに継続・発展させる必要がある。以下、9月28日の川内再稼動阻止全国集会(鹿児島市・7500人)以降の動きをまとめてみる。
 9月30日、川内原発の30キロ圏内に全域が入るいちき串木野市と、市域の北半分が入る日置市の両市議会は、再稼働の条件となる「地元同意」に加えることを要求する県知事宛の意見書案を本議会で可決。国の原子力災害対策指針によると30㌔圏内の自治体には重大事故の対策の責任を負わされており、当然の要求と言える。
既に7月11日に「再稼働に反対し、廃炉を求める」意見書を可決した姶良市議会の議長は、両市議会について、「市議会の反旗という点では姶良市と同じである。被害を受ける地域は全て地元と捉えるのが当然だ。市や町の議会は住民に最も近い存在。そこからの異議が続けば国も県も方針を変えざるを得ないし、変えなければならない。何より福島の事故が収束していないのに再稼働して良いのか。意見書の可決に対する市民の反応は『よくやった』と肯定的だ」とコメントした。30㌔圏内では「地元同意」の範囲拡大の住民の陳情が相次ぎ、鹿児島市、出水市、阿久根市、さつま町、長島町の議会では継続審査となっている。
10月1日、規制委の田中委員長は、御嶽山の噴火が川内原発の再稼働審査に与える影響について、審査基準の見直しの必要はないと強弁。
10月6日、住民説明会が9日から開催されるため、原子力市民委員会は伊藤祐一郎鹿児島県知事宛に、「声明:規制委が審査書を決定しても原発の安全性は保証されない」を提出した。
10月9日、会場入口で50名近い市民グループらが再稼働反対を訴えるなか、薩摩川内市で県と市が主催する住民説明会が開催された。30㌔圏内の5市町で各1回、合計5回夜間に開催されるものであるが、そこには経済産業省や九電、規制委の姿はなく、原子力規制庁の役人によって、規制委が新基準に適合したと認めた理由が説明されるだけであった。規制庁は冒頭、「避難計画は規制委の課題でない。説明や質疑は規制委の審査内容に限定する」と予防線を張り、住民の関心が高い避難計画については全く触れず、質問者から批判の声が相次いだ。外的要因に対する原発事故の対策への質問に対しても、「絶対の安全はない。リスクは残るがそれを抑えていく」としか答えられず、市内の自治会長が「福島第1原発の事故が片付かないなか、そういった説明に説得力があると思うか」と質問すると、会場から拍手が湧き上がった。規制庁は「厳しいご意見をいただきました」と応じるだけで、多くの質問者を残して質疑を1時間で打ち切ってしまった。結局、住民の最大の不安に答える者は誰もいなかったのである。
翌日は2回目の説明会が日置市で開催されたが、住民の不安に答えようとしない規制庁の答弁に住民の怒りの声が飛び交った。
そもそも避難計画は、規制委が策定した「原子力災害対策指針」に基づくことになっており、規制委が説明するのは当然の義務である。一方、住民説明会の主催者である県知事は、参加者のアンケート結果を再稼働に同意するか否かの判断材料にすると公言しながらも、育児を抱える女性から希望が多かった昼間含めての2回開催や託児所の設置、市民団体が要望していたインターネット中継を拒否。原発に否定的な、育児を抱える女性の参加を困難なものにする一方、説明会の内容はとうてい納得できるものでないことがインターネット中継によって全国に知れ渡ることを避けるという姑息な対応に終始した。
10月15日、鹿児島県議会の池畑議長は経済産業省に赴き、小渕大臣に「再稼働の必要性を現地で直接説明するよう」要請した。再稼働反対の声が拡がるなか、国が再稼働を認めるのに地元同意を口実に使うのは明白なのに、つまりは県議会が同意しなければ早期の再稼働は保留できる可能性は充分にあるのに、その努力を怠り国に助けを求める態度は地方自治体の議会としての責任を放棄し、地方自治を自ら破壊する行為である。
10月17日、国土交通省はリニア新幹線の着工認可書をJR東海の社長に手渡した。JR東海が8月26日に品川~名古屋までの工事実施計画の認可を申請していたものであるが、総工費5兆5235億円という膨大な費用であり、南アルプスを貫くなど86%はトンネルとなるもので、工事に伴う自然環境破壊や地下水脈への影響など問題が多いのに、僅か2か月未満で着工認可。リニア新幹線が大量の電力を必要とすることは自明のことであり、原発再稼働への世論誘導のために国土交通省が助け舟を出したものである。太田国土交通大臣は公明党であり、ここでも原発推進の自民党に追従する公明党の姿を露骨に現したのである。
これに勇気を得てか、伊藤知事は住民説明会について、「極めて丁寧な説明で規制委があらゆるテーマを真剣に検討したことが伝わった」とうそぶき、「最終判断は県と薩摩川内市で良い」と同意範囲を拡大しない従来の方針をあらためて強調した。「九電や規制委や国が大丈夫と言っている」としか説明できないような首長や議員は自ら、住民の代表である責務を放棄したに等しく、辞職に値するものである。

  薩摩川内市

10月20日、薩摩川内市の市議会の原発対策調査特別委員会(10人)が開催された。委員会では住民説明会出席者のアンケート結果が報告され、「良くなかった」「あまり良くなかった」が48%であり、「良かった」「まあまあ良かった」の31%を大きく上回っていたが、それを無視して、川内原発の早期再稼働を求める陳情1件を採択し(賛成6、反対2、棄権1)、再稼働に反対する陳情10件を不採択とした。再稼働に反対する実行委など市民70人は全員の傍聴を要求したが、傍聴席が30しかないことを理由に傍聴を制限することに抗議すると共に、傍聴できなかった市民30人は委員会室前の通路に座り込んで民意無視の再稼働同意に抗議した。
10月24日、九電は再稼働の前提となる審査に必要とされる工事計画の書類を修正し、規制委に提出。工事計画の書類は、原子炉本体や冷却装置、火災防護設備など計14施設の耐震設計が記されているとされるが、書類審査が終われば、機器の作動状況を確認する使用前検査が最後のチェックになるとされており、そこには民意を無視して再稼働を急ぐ九電の姿勢しかない。一方、県議会の池畑議長(自民党)は自民党原子力政策・需給問題等調査会に出席し、「鹿児島は原発反対派一色だ」と嘆き、党を挙げての支援を要請。経済産業省も訪れ、臨時議会前の宮沢洋一経済産業相の鹿児島訪問を要望。
ついに10月28日、薩摩川内市の臨時市議会(26人)は、早期再稼働を求める陳情を賛成多数で採決(賛成19、反対4、棄権1、退席1)。実行委など再稼働反対の市民は2時間以上前から市役所前に結集し、抗議活動を開始。抗議する市民は90人に増え議場に結集したが、議会は傍聴席が40しかないことを理由に制限したため、議場の内外で抗議の声が上がり、抗議した市民を傍聴席から排除するなど、議会は住民無視の姿勢に終始した。
同日、岩切市長は再稼働に同意する旨を表明。同意理由として①23日に宮沢経済産業相と会談し、原発の再稼働を進める国の方針に変更がないことを確認した、②九電の瓜生社長と面会し、安全運転に万全を期すとの約束を得た、③議会が陳情の採択で同意の意志を示したことを挙げた。そして「法的には地元市長の手続きが必要とされていないので、同意という言葉は一切使わない」とし、「再稼働を進める政府の方針を立地自治体として理解する」と表明した。しかしこれは、同意しないと明言すれば済むことを放棄した言い訳に過ぎず、そこには住民の意志を代表する自治体の首長の姿勢は微塵もなかった。
一方、鹿児島県議会も11月の5~7日に臨時議会を開催し、再稼働同意に向けて急ぐなど、そこにも民意を代表する姿勢は全くないのであった。県議会は定数51(欠員2)で自民党県議団は35人。川内原発30㌔圏や都市部を選挙区とする県議らは、「国の弾除けにされてはかなわん」、「国は再稼働への住民理解の作業を地方に丸投げするつもりではないか」、「党に従って再稼働に賛成したら県議選で戦えない」、「再稼働にもろ手を挙げて賛成の議員は一人もいない。国策だからやむを得ず受け入れる。有権者を納得させる手形が欲しい」などと、自らの議員としての責任を放棄している。
これら鹿児島県の無責任に対して、避難計画で30㌔圏にある出水市から6600人の避難者を受け入れる熊本県水俣市の西田市長は28日、「避難計画がはっきり見えない中での再稼働は疑問。非常に拙速というか、ばたばたと動き始めた感じだ」、「今の段階で再稼働に進んでいくのは非常に不安だ」と答えた。
10月29日、九電は来年10月に運転開始から40年を迎える玄海原発1号機の再稼働をあきらめ、廃炉にする予定であることがマスコミで報じられた。原発の法定運転期間は40年とされ、最大20年の延長運転が法的には可能となっているが、追加の安全対策工事に多額な費用がかかるのが断念の理由となっている。しかし、そもそも当初から再稼働は困難というのは明白であったのに、これを敢えてこの時点で九電がマスコミに流すのは、いかにも「九電は何でも再稼働ありきではない」という見せかけのポーズでしかないのである。
10月29日、日置市で補足説明会があり、九電の担当者が地震や津波などに対する安全対策を、資源エネルギー庁が原発を重要なベースロード電源とした国のエネルギー基本計画を、内閣府と鹿児島県が国の原子力防災会議で了承されたとする広域避難計画の概要を述べたが、452人の参加者は「ウソをつくな」「ウソはもういい」と次々と抗議の声が挙げ、避難計画の不備や核廃棄物処分が未確定なことなどを追及した。「30㌔圏の住民に補償はないのか」との質問に対し、九電の副社長は「補償は考えていない。安価で電気を供給するのが大事」と応えため、ステージに詰め寄って抗議するなど予定時間が1時間を超え、会場は再稼働反対一色になった。
10月30日、九電の瓜生社長は、薩摩川内市を除く8市町の首長に県幹部の同席のもと面会することとし、この日は姶良市の笹山市長、出水市の渋谷市長に面会。九電は30㌔圏の自治体と原子力安全協定を結んでいるが、協定にはランク付けがあり、原子炉施設変更については県と薩摩川内市が「事前了解」の対象だが、他の8市町は「事前説明」か「事前連絡」で済むことになっている。しかし、7月に姶良市議会が再稼働反対と廃炉を求める意見書を採択し、9月にはいちき串木野市議会と日置市議会が同意対象にすることを求める意見書を可決。同じ趣旨の陳情が他の議会でも審議中とあっって、30㌔圏での県や九電に対する反抗の拡大を封じるために、県知事がこのトップ会談を九電と画策したものである。姶良市長と出水市長は再稼働に理解を示したといわれるが、九電社長は30㌔圏自治体との協定の見直しの可能性をほのめかすだけで、具体的には明言しなかった。そのため、姶良市議会は「議会の意志が無視された」と憤っている。

  鹿児島県

そして11月5日、鹿児島臨時県議会が始まった。その前の3日には、宮沢経産相、細田自民党幹事長代行が来県し、伊藤知事や自民党県議団と最終調整を行なっている。
11月6日、県議会の原子力安全特別委員会。すでに県庁前にテントを設営していた県民側は、早朝から全力の闘いとなった。この日、特別委員会(議長のぞく14人中反対派は3)は、川内再稼動に反対・慎重の陳情およそ30本を不採択とし、賛成の1本のみの採択を強行した。
いよいよ11月7日、本会議。県庁前には、九州・全国から約400人が同意やめろ!と集まっていた。午前、本会議は「再稼動賛成陳情」の採択を強行した。議長のぞく48人中、10人(民主・社民など県民連合7、日共1、無所属2)が反対した。
その日の午後、伊藤知事が記者会見、①事故時に国が責任を持つことを約束した、②規制委の審査で安全性が確認された、③立地自治体の薩摩川内市と市議会、そして県議会の同意が得られたとして、再稼動同意を表明した。国と当局を盾に知事の責任を放棄し、かつ周辺自治体を切り捨てる同意理由である。また知事は、七月の姶良市議会による再稼動反対・廃炉要求の意見書に対して、「圏内に十一人しかいない市が可決したからていって、廃炉にするのかね」と揶揄し、姶良市民とその市議を侮辱した。
闘いは続いている。臨時議会で行動拠点となった県庁前テントはその後、薩摩川内市現地に移転した。9月26日に、再稼動阻止全国ネットワークが現地・久見崎海岸に設置していた「脱原発・川内テント」に続いて、二つ目のテントが現地に建てられた。
 11月11日、川内原発再稼動の差し止めを求める訴訟(原告2479名)の第7回口頭弁論が、鹿児島地裁で行なわれた。住民側弁護団は、火山噴火予知の不可能性、病院・福祉施設の避難計画が策定されていない等を訴えた。
このかんの鹿児島で再確認されたことは、原発事故による被害が広範囲に及ぶことは福島原発事故で明白であり、地元の首長と議会が同意したからといって再稼働の理由にはならないということである。総選挙で安倍政権にNO!を突きつけ、全国で再稼働反対の運動をさらに大きくしていかねばならない。(九州M通信員)