エネルギー基本計画を撤回せよ
    川内原発をはじめ全ての原発の再稼働阻止・廃炉へ!

 五月十五日、九州電力は、川内(せんだい)原子力発電所1、2号機について、原子力規制委員会が求める書類の追加提出が、五月末にずれ込む見通しを示した。
 これに基づきマスコミは、「今夏中の運転再開は困難」と報道した。原発再稼働には、「設計の基本方針などを規制委に提出、審査書案を作成し、意見募集を経て、地元自治体の同意取り付け」等の手順に時間を要することがその理由。
 しかし安倍政権は、早期に川内原発再稼働を強行、原発再稼働の突破口にせんと目論んでいる。すでに規制委は、11原発18基の審査を進めている。
こうした最中の五月二十一日、福井地裁で、大飯原発3、4号機の再稼動差し止めを命じる判決が勝ちとられた。これは、原子力発電の仕組みそのものへの批判(原子炉および使用済み核燃料棒を不断に冷却し続けなければ破局に至る等)を含む、画期的判決である。
 安倍政権による、川内原発を始めとする再稼働の策動は、四月の「エネルギー基本計画」(以下、エネ計画)に基づき強行されている。しかし、この福井地裁判決は、このエネ計画の再考・撤回が不可欠であることを意味する。エネ計画について再考してみよう。

  世論黙殺の閣議決定


 四月十一日、安倍政権は「エネ計画」を閣議決定し、原発再稼働・新増設、高速増殖原型炉「もんじゅ」延命・核燃サイクル推進、原発輸出に大きく踏み出した。
 それは、福島原発事故の原因究明がいまだになされず、収束の展望もなく、新たに放射能汚染水大量海洋流出問題が露呈する現状で、強行された暴挙である。しかも13万人(四月十日時点)もの人々が県内外で避難生活を余儀なくされ、震災関連死が1688人以上(三月二五日現在)にのぼる中で行われた、許すことのできない決定である。
 三月十五・十六日実施の朝日新聞調査では、再稼働反対59%、脱原発賛成77%、大事故が起きる不安を感じる86%との結果が公表された。(ちなみに、東京新聞が四月二五~二七日に実施したアンケート調査では、再稼働反対61%、賛成30%で、反対が賛成をダブルスコアの大差で上回った。また、国や電力会社の安全対策が信頼できないとの解答は、7割以上に上っている。)いまや再稼働反対・原発ゼロを求める声は、揺るぎないものになっている。それにもかかわらず安倍政権は、「原子力ムラ」の利益を最優先に暴走を続けている。
 政府は今回のエネ計画をめぐって、昨年十二月六日から今年一月六日まで、一ヵ月に渡ってパブリックコメント(意見公募)を実施し、およそ19000件の意見を回収している。それを分析さえせず、無視して密室の中でこの決定を強行した。

  口先の「深い反省」

 エネ計画は、エネルギー基本法で政府に策定が義務づけられたエネルギー政策の指針で、おおむね3年ごとに見直し、閣議決定される。エネ計画を政府の基本方針として閣議決定するのは、震災後では初めてのこととなる。
 安倍政権が閣議決定したエネ計画は、「『安全神話』に陥り、悲惨な事態を防げなかった反省を一時たりとも放念してはならない」などと上辺だけの反省をしてみせる。しかし、エネ計画は、民主党政権が曲がりなりにも掲げた原発ゼロ方針さえ否定する。そして原発は「重要なベースロード電源」、「原子力規制員会が規制基準に適合とすると認めた場合、その判断を尊重し、原発の再稼働をすすめる」などと平然と言ってのける。つまり安倍政権は、原発推進を宣言したのだ。
 そして、原発の必要性を訴える理由を細かに説明する。曰く「原発依存度は、安定供給・コスト低減など…」つまり、原発は発電コストが低廉で、昼夜を問わず安定供給が可能なこと。輸入に頼らず確保できる資源であること。天然ガス等燃料輸入の増加が貿易赤字や電気料金値上げ、地球温暖化をもたらす。だから「原発推進だ」とその正当性を主張する。
 原発を「重要な電源」として使い続けるには、原発の新増設も必要になる。エネ計画は、新増設をもねらっている。
 甘利経済再生相は、十一日の閣議後、エネ計画が原発の新増設に含みを残している点について、「エネルギ―ミックスの中で方針が出ていくことになる」と語っている。「エネルギーミックス」とは、原子力に加え、石油や石炭力など、電源構成の最適な組み合わせを指す。エネルギーミックスを決める議論で、新増設もありえることを発言は示している。
 エネ計画での、「電源構成は、原発の再稼働・再生エネルギーの導入…の状況を見極めて速やかに示す。」に基づく発言である。再稼働のみならず、新増設さえ目論んでいる。

  新「安全神話」

 経済産業省は、ベースロード電源を「発電コストが低廉で、昼夜問わず安定的に稼働できる電源」と規定している。それが原発だと。
 しかし原発は、決して低廉なコストの電源ではない。原発が安いというストーリーはもとより、示された数字は、電力会社自身が公表したもので、計算の根拠となるデーターは、詳細にわたってきちんと発表されてはいない。
 原発の発電コストには、毎年政府から支出されている補助金、大事故が起きた場合の補償費用引当金などは計算されていない。さらに使用済み核燃料の処分費用や使い終わった原発を廃炉にする費用、揚水ダム建設費用なども、まともに計算されていない。まして一度重大事故が発生すれば、収束・事故処理費用、汚染水対策を始め、費用は莫大な額に達する。除染・賠償、福島復興費用等、どれ程費用がかかるのかを政府は答えてもいない。原発は「究極の高コスト電源」であり、安定電源とも言えない代物である。一度事故が起これば、一気に大電力がなくなる「不安定電源」である。
 福島第一事故以前から原発は、度重なる事故でたびたび停止し、1975年以降の設備利用率は、平均で7割程度と言われている。そして事故を契機に、すべての原発が稼働できなくなっている。それでも電気は足りているのだ。
 ベースロード電源の規定は、原発が絶対安全だという「安全神話」がなければなりたたない。しかし「安全神話」は、福島原発事故で粉々に砕かれてしまった。
 安倍政権は、「世界で最も厳しい水準の規制基準に適合」した原発の再稼働を進めようとしている。それは「新たな安全神話」ともいうべきものである。
 四月二五日、政府は、原子力規制委員会の新規制基準を「世界で最も厳しい」と説明する根拠について、「国際原子力機関(IAEA)や諸外国の規制基準を参考に、日本の自然災害の厳しさを勘案した」とする答弁書を決定した。
 原子力規制委の審査をクリアした原発について、「安倍首相が再稼働の是非を改めて政治判断することはない」との四月十一日菅義偉官房長官の発言は、「安全性」が認められれば再稼働を容認するとの安全神話に沿って発言されている。
 しかし、田中俊一原子力規制委員会委員長は、四月二六日の会見で、「絶対安全かと言われるなら否定している」と明言。単に新基準を満たしていることを認定するに過ぎないと発言している。つまり「規制基準への適合審査」であって「安全審査」では決してないと表明している。
 原子力規制委員会の定めた「規制基準」は、各原発の地震・津波想定への厳密な数値の定めがなく、活断層があっても地表に「ずれ」が見えていなければ真上に原発建設を認めかねないずさんな基準としてある。それにもかかわらず、「世界で最も厳しい安全基準」に擦り替えて再稼働を進めようとしている。
 安倍政権は「新たな安全神話」を演出して原発推進を強行し、永久化を目論んでいる。

  もんじゅ延命で核武装

 エネ計画は、原発再稼動・新増設を正当化しただけでなく、核燃サイクル政策とその要の「もんじゅ」をも、「廃棄物の減容・有害度の低減などのための国際的な研究拠点」として温存している。
 原発の使用済み燃料は、放射能が充分減るのに10万年単位の時間がかかる。これを別の物質に変えて量を減らすのが、放射性廃棄物の減量化技術。そして、「もんじゅ」のような原子炉で生ずる高速の中性子は、物質を変換しやすい特徴をもち、有害度の高い物質を燃料に混ぜて繰り返し燃やし、有害度を低減化するという。エネ計画は「もんじゅ」を、この研究の拠点と位置づけ直して延命させようとしている。
 しかし、この低減化は技術的に未確立で、その上「もんじゅ」はトラブル続き。この二十年で安定運転の実績はほとんどない。しかも維持費は、年間200億円もかかると言う。できもしない取って付けたような理由で、「もんじゅ」の延命を策している。
 高速増殖原型炉「もんじゅ」は、プルトニウムの量を増やした炉の中にウラン238を入れ、高純度のプルトニウム239を大量に生産する装置として建設された。ねらいはここにある。安倍政権はプルトニウム239を手に、核兵器の保持を可能にしようと目論んでいる。そして六ヶ所再処理工場も同じ目的で建設されたと言う。
 しかし、プルトニウムは、ごくわずかが一ヶ所に集まるだけで臨界反応を起こし、原爆に変わる。また冷却材にナトリウムを使用するため、ナトリウムが漏れて火災を起こしたり、水と接触して大事故を引き起こしたりする。再処理工場は、周辺住民が被曝する可能性が高い。またガラス固化する際、高熱で蒸発した「死の灰」が煙突から排出される危険性も指摘されている。
 安倍政権は、たくさんの労働者市民を犠牲にしてその野望を実現せんとしている。核燃サイクル維持・「もんじゅ」延命を決して許してはならない。

再生可能エネより原発

 エネ計画は、「原発依存度は、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入などで可能な限り低減」と述べる。しかし、いつまでにどの程度減らすか、その数値と道筋を示してはいない。そして再生可能エネルギーは「これまでの基本計画を踏まえて出した水準(2013年に13・5%、30年に約2割)をさらに上回る導入を目指す」と、努力目標にとどめた。
 経産省は、公明党と自民党の一部が求める「2013年に総発電量の30%を再生エネにする」ことに強く抵抗、「上回る導入」とあいまいな表現にとどめた。再生可能エネルギーの分野では、太陽光を中心に新規参入が相次ぐ。しかしエネ計画は、今後3年で「導入を最大限加速」と述べながら、太陽光や風力ごとの目標値を盛り込んではいない。再生可能エネルギー導入の「最大限加速」は、絵空事の世界だ。
 つまりエネ計画は、冒頭から原発推進を強調、再生可能エネルギーの導入よりも原発推進。これが本音だ。
 原子炉のウラン核分裂で発生する熱の7割が、もっぱら海水の温度を上げ、地球温暖化に貢献している。しかし、安倍政権と「原子力ムラ」は心を痛めることさえない。
 さらにエネ計画は、「原子力などのインフラの国際展開を推進」と記載。事故原因さえ明確でない危険きわまりない原発を、世界に売り込もうとしている。
 安倍政権は、成長戦略に原発輸出を掲げ、「原子力ムラ」の利益と軍事利用のみを追求し、労働者市民の命と人権をないがしろにしている。
 避難計画にも、そのことがはっきりと示されている。安倍政権は、避難計画を自治体の責任に転嫁しているが、大事故の際は、まともな避難など成り立たないと多くの自治体が指摘している。

  エネ計画の実行阻止

 安倍政権は、エネ計画を発表し、原発再稼働・新増設に突き進んでいる。福島原発事故をふまえた「世界一安全な規制基準」と言ってはばからない首相にとって、労働者市民の安全、命と人権を守る気などみじんもない。
 しかし、その事故原因すら未解明である。津波到達以前に、地震によって配管・配線等が破損したことによって、福島第一原発の事故が起こっている。津波到達以前の、1号機での漏水という証言がある。仮に電源が保たれても、配管がダメになれば冷却はできない。この説を安倍政権はまったく無視している。
また電源喪失の原因については、元国会事故調の協力調査員・伊藤良徳弁護士が、今年発行の月刊「科学」3月号で、「1号機の非常用電源のうち、1つの喪失原因は津波ではない」と発言している。
 津波到達時刻は、沖合の波高計データや一連の津波写真から、15時38分以降になる。それは、「15時39分、1号機前にある石油タンクが流された」との東電関係者の目撃証言とも一致する。しかし東電は、1号機全電源喪失時刻を「15時36分」と発表している。これは、津波以前に事故が起こっていることの証しである。
従って、どの原発も、一度大地震が起これば、再び大惨事を招く可能性が高い。安倍政権の暴走を直ちに阻止することが求められている。
 国会前行動など脱原発闘争は、大きく盛り上がり、粘り強く展開されている。経産省前テントの拠点としての役割は大きい。拠点を守り抜き、裁判闘争の勝利は欠かせない。今後、川内原発、伊方原発などの現地を拠点に、労働運動・市民運動との連携を強め、闘いを拡大して、国会前行動等中央の闘争とも結合。闘いの輪を拡大することが求められている。
 脱原発闘争は、特定秘密保護法反対闘争の高揚にも大きく貢献した。脱原発の闘いを一層拡大し、大衆運動のすそ野をひろげ、連携を強めて集団的自衛権行使容認阻止・憲法改悪阻止の闘争をより高揚させ、安倍政権を打倒しなければならない。
 これらの闘いを通じて、民主的左翼的「第三極」は勝ち取られる。それは、労働者民衆の闘争拡大にとって一層有利に働くだろう。そして未来を切り開く強力なテコにもなるにちがいない。
 安倍政権の新エネ計画実行を許さず、原発再稼働阻止・全原発の廃炉へ断固とした闘いを!
                                              (遠山 健次郎)