許すな!「戦争する国」画策の安倍教育政策
    抜本転換としての「教育委員会制度」廃止攻撃
                             教育労働者 浦島 学

    激化する教育反動化攻撃

 「再び子どもたちを戦場に送るな」の声を嘲笑うかの如く、安倍政権は極右反動の「教育改革」を強引に推進している。まさに今年は、反動教育打破の正念場である。
 昨年12月6日、特定秘密保護法強行採決、今春、集団的自衛権行使容認で「戦争する国」を目指す安倍政権は、その影で戦争動員の「教育改革」を画策している。
 昨年12月11日、中央教育審議会(以下中教審)は、教育委員会制度にとどめをさし、政治家による学校教育介入を容認する答申をまとめ、下村文部科学大臣(以下文科相)に答申した。これを受け政府は、今通常国会に、地方教育行政法の「改正案」として提出する構えを見せている。
 また、12月26日には、道徳の教科格上げをねらって文部科学省(文科省)の有識者会議が、
① 数値評価以外の方法での評価を検討する。
② 将来的に検定教科書を導入する。
とする報告書を文科相に提出した。
今後、文科相が中教審に諮問、2014年度に先行実施のスケジュールが示されている。
 そればかりではない。文科省は11月15日、教科書検定基準改悪の「教科書改革実行プラン」を発表、14年度・中学校教科書検定から実施する旨明らかにした。それは、現行小中高校の社会科教科書検定基準を見直し、歴史や領土問題について、政府の統一見解を踏まえて記述することを求める等、反動的基準を盛り込んでいる。
このプランどおり文科省は1月17日、検定基準改定を強行した。
 そして、その他学力テストの学校別成績発表など、安倍政権の反動教育政策が矢継ぎ早に仕掛けられている。これらの教育政策は、軍国主義・排外主義教育・格差拡大の差別選別教育を教育労働者に強要、子どもたちの幸せとは無縁の教育以外の何物でもない。教育労働者には、保護者と手をつなぎ、地域の労働運動・市民運動と固く連携して、反動教育打破に立ち上がることが求められる。今年こそ正念場だ。

   国定教科書化ねらう教科書改革実行プラン

(1)反動教基法で編集から統制
 「教科書改革実行プラン」は、「バランス良く記述され、採択権者が責任を持って選んだ教科書で子どもたちが学ぶことができるよう、教科書の編集・検定・採択の各段階に…必要な措置を講」じ、「各手続を積極的に公表し…国民全体に理解を得られる…教科書作りを目指」す、とその目的を述べている。しかしそれは、編集・検定・採択で国の統制を一層強化する目論みで書かれている。
 現に実行プラン「編集」は、「編修趣意書等の検定申請時の提出書類を改善し…教育基本法の目標をどのように具現したかを明示してもらう」とし、「提出書類をホームページ(HP)で公開」と規定している。
 現行教育基本法(以下反動教基法)は、第2条教育の目標で、伝統と文化の尊重・愛国心等を強要している。実行プランは、それを原記述に書き込ませ、検定申請時の提出書類に書かせて、発行者に「証明」させんとする。つまり圧力を掛け従わせ、基準と異なる教科書は、即座にはねてしまおうと画策しているのだ。しかもHPで事前に公表させ、国会議員や反動右派勢力の教科書攻撃を可能にしようとねらっている。編集での統制は、教科書内容に大きな影響を及ぼすことになる。

(2)検定基準改悪で愛国心強要
「教科書検定基準の改正」では、第一に「バランス良く教えられる教科書となるよう、検定基準を見直す」として、①「通説的な見解がない場合や、特定の事柄や見解を特別に強調している場合などに、よりバランスの取れた記述にするための事項を新設・改正」、②「政府の統一的な見解や確定した判例がある場合の対応に関する条項の新設」を掲げている。
 ①の「よりバランスの取れた記述」とは、南京大虐殺事件を念頭に置き、犠牲者数で少数者説を書くばかりでなく、虐殺は無かったなど諸説あることの記述を求めている。また、侵略の事実や加害者責任に言及したり、被害者側の見解を載せたりすることは、「特定の事柄や見解を特別に強調している場合などに、よりバランスの取れた記述にする」なる規定によりできなくなる。さらに、問題を戦争加害の事実から、犠牲者数の多い少ないにそらせることは、教育の矮小化である。
 さらに②では、領土問題について「固有の領土論」や「尖閣諸島は領土問題ではない」などの誤まった政府見解を書かせることをねらっている。また、日本軍「慰安婦」問題について、「慰安婦の強制連行はなかった」なる第一次安倍政権の閣議決定を記載させ、さらに、「1965年日韓基本条約で解決済み」との政府見解を記述させようと画策している。
 そしてまた、②によって歴史・社会科だけでなく、原発やジェンダー平等教育、家庭科・国語教材等で政府見解と異なる事柄が、排除されることになる。正に反動以外の何物でもない。
 そして第二に、検定基準は、「教育基本法の目標に照らして重大な欠陥がある場合を、検定不合格要件として明記」と記述する。
 これについて下村文科相は、「目標に照らして重大な欠陥があれば個々の記述の適否を吟味するまでもなく不合格」と、傲慢にも説明する。「目標」とは前述の反動教基法第2条の内容を指す。従って、基本的人権の大切さを強調しても、国家・公共への奉仕を尊重しなければ、「重大な欠陥がある」として不合格になる。また、戦争の事実や惨禍、アジア諸国への加害の事実を明記し、過去の歴史、支配者の責任と反省を促す記述があれば、「重大な欠陥がある」として不合格になることがありえるのだ。
 これまでのことから、検定基準を改悪することで、安倍政権が、実質的に「近隣諸国条項」を骨抜きにし、侵略戦争美化、アジア労働者民衆蔑視、差別拡大教育をねらっていることは明らかである。近隣諸国条項は、日本と近隣諸国、とりわけ韓国・中国との関係について、国際理解と国際協調の立場で教科書作成にあたることを求めている。しかし、侵略の事実を覆いかくし、加害者責任等を記載させない実行プランは、それを否定するものであり、決して許されるものではない。さらに「自虐史観・偏向」だと攻撃し、侵略や加害の責任をかくして子どもたちに愛国心を押しつけ、戦争に駆り立てるなど言語道断である。検定基準改悪は反動以外の何物でもなく、直ちに撤回させることが求められる。

(3)現場意見排除の採択制度
 実行プランは「教科書採択の改善」と称して、「共同採択について構成市町村による協議ルールの明確化」や、「採択結果、理由など教科書採択に関する情報の公開を求める」等々を掲げている。これについて下村文科相は、八重山教科書問題では竹富町教育委員会に理があり、政府こそが違法であることを棚に上げて、「沖縄県八重山採択地区のように、採択地区内で教科書が一本化できない事態の発生を防止するため、構成市町村による協議ルールを法律上明確化する」など、ぬけぬけと発言した。そして通常国会に、教科書無償措置法改正案を提出するとした。
 また「公表」について、「採択権者に責任をもって教科書採択を行なってもらうため」と発言、反動勢力による教科書攻撃をも想定した発言を行なっている。
 つまり実行プランは、採択に教育現場の要求を排除し、政府の意のままに教科書の内容を決めようとしているのだ。
 これまで各地の議会で、安倍首相とつながる反動右派勢力・日本会議地方議員連盟らが、教科書攻撃を仕掛け、中学校で育鵬社版反動教科書採択が拡大している。また12年度以降、「高校教科書の採択権は教育委員会にある」と主張し、東京・横浜・神奈川などで実教出版高校日本史の採択への妨害・排除が行なわれている。これは、時の政府の思想と異にする教科書を採択段階で排除しようとたくらんだものである。これらは、教育行政に首長の権限を強化する地方教育行政法の改悪が今国会でなされれば、一層強化されることになる。
 そしてさらに、「検定制度改革」によって、検定段階ですでに、政権の思想と異にする教科書を排除することが可能になる。つまり教科書を政府の「広報誌」に変えることが可能になっているのだ。「特定の見解を教科書に書かせて、子どもたちに押しつけるのは、もはや教育ではない」、それは「『教化』であり、子どもたちをマインドコントロールするものである」。実行プランは、「事実上の国定教科書づくりである」。(市民団体「教科書ネット21」のチラシより)
そして検定基準改悪の先には、教科書法(教科書国家統制法)制定が目論まれている。今や教科書検定制度は、重大な局面に置かれている。

   愛国心押しつけの道徳教科化

 安倍政権は、実行プランによって愛国心を強要するばかりではない。道徳の教科化によっても愛国心を押しつけ、子どもたちを戦争へと駆り立てようとしている。攻撃は多面的に仕掛けられている。
 道徳の教科化は、いじめ問題の「第一次提言」で提案、これを受けて下村文科相が、私的諮問機関として「道徳教育充実に関する懇談会(有識者会議)」を設置した。これが道徳教科化のきっかけとなっている。
 そして、昨年十一月の有識者会議による道徳教育についての報告案では、前述十二月報告書の内容の他に、◎専門の教員免許は作らず、学級担任が授業を担当する。◎検定教科書ができるまでは、14年度に全面改訂する『心のノート』を活用するとされている。
 安倍政権は、いじめ問題をテコにして、道徳の教科化を画策した。しかし、上から価値観を押しつけても、いじめがなくならないのは自明のことである。それは、教育現場に立った経験があれば即座に分かることなのだ。
 かれらのねらいは、「愛国心」「公共の精神」「道徳心」の強要である。これは、戦前・戦中の修身復活につながる可能性を有している。
 現に、第一次安倍政権によって2006年制定された反動教基法は、「愛国心・公共の精神・道徳心」など20もの徳目を定めている。そして、08年、修身と同様に道徳を教科教育の上に置き、全ての教科で道徳教育を行なうとする指導要領の改訂が行われている。これによって教科の道徳化が進行、道徳が正規の教科に格上げされることにつながろうとしている。
 下村文科相は前回の失敗を教訓に、先に有識者会議で教科化の方向を打ち出し、中教審でひっくり返されないよう準備を進めている。
 道徳の教科化、そして検定教科書の作成は、これまで以上に愛国心の強要を結果する。14年度指導要領改訂に反対し、道徳の教科化を許さない闘いが求められている。
 また、『心のノート』はマインドコントロールによって、愛国心の涵養に導かれるよう作成されていることも忘れてはならない。

   首長権限拡大は戦争への道

 戦後教育の柱となった制度・施策の見直しが、安倍反動政権のもとで急速に進められている。それは、狭い観点から性急になされた危険な「改革」である。
 昨年12月13日、地方教育行政の最終的権限を、自治体の首長に移す「教育委員会制度改革案」が、中教審から下村文科相に答申された。それは「戦後教育体制を根底から変える法案」である。
答申は、首長が自治体の教育理念や目標を定め「大綱的な方針」を策定。教育委員会は、その方針を事前に審議・勧告する補完的役割のみ担うとされている。そして首長が直接、教育長を任命・罷免できるとする。これは、現在の教育長が、教育委員会の任命によって決められていることの変更となる。これによって首長は、教育を掌握、つくる会系教科書採用はもとより、軍国主義教育を強力に推進することができる。
反動右派勢力、安倍首相につながる日本会議地方議員連盟等は、首長に反動政治家を擁立、育鵬社版教科書採択をごり押ししてきた。今後は、反動政治家等を首長に就任させ、教育を牛耳って軍国主義教育を実行せんとするだろう。
答申は、首長が教育長に指示できるのは、教育長の事務執行が著しく適正を欠く場合や、いじめ・自殺など緊急対応を要する場合に限定し、一定の歯止めを掛けている。しかし、「特別な場合」は、どのようにでも解釈できる。まして任免権が握られている以上、教育長が拒否しても、それは空しいことである。安倍反動政権は、集団的自衛権行使容認と相まって、戦争する国を目指して、教育に政治を不当介入させている。これは反動教基法にも反する。

   保護者や地域運動と合流しよう

 1948年、戦前戦中の教育行政を反省、教育への権力統制を禁止する公選制教育委員会法が公布された。それは、①地域住民の教育意志を教育行政に直接反映させるため、公選制を採用。民衆による統制をはかり、②教委の教育財政権を保障、首長に対する独立性を担保。③文部省の指揮監督を原則として受けない自治組織としていた。この法律はその後任命制に改悪されたが、住民自治拡大のテコとなり評価できるものであった。安倍政権の性急な教育委員会制度廃止は決して許されるものではない。
 安倍政権は、教育の本質さえ理解できず、安易に教育改悪を進めている。しかしそれは、子どもの人権を踏みにじり、命さえ奪い、子どもを不幸にする。
 今地域では、労働者・市民が、脱原発、改憲阻止の闘いを繰り広げている。教育労働者には、地域に出てこれに合流、教育改悪を許さず、安倍政権の戦争策動を打ち砕き、反動政権打倒の闘いを担うことが求められている。(了)