廃案要求拡大・強化し、反動法を機能させない闘いへ
  秘密保護法の成立・運用を許すな
                                
      堀切 真佐樹


  稀代の悪法・秘密保護法案

 十一月二六日午前、自民・公明両党は、衆院特別委員会で「特定秘密保護法案」の質疑を打ち切る動議を提出、強行採決に踏み切った。
 法案は、与党とみんなの党の賛成多数で可決、夜、衆院本会議を通過した。安倍政権は、参院でも稀代の悪法を強行に成立させんと画策している。
 労働者市民は、特定秘密保護法案成立阻止の闘いを強化拡大し、廃案に追い込まねばならない。仮に成立することになっても、労働者民衆の闘いによって悪法の支配を許さず、押し返していくことが求められる。国家保安法下の韓国民衆の闘いに学び、運動を大胆に展開、法の実質的施行を許さないことが大切だ。
 特定秘密保護法案は、日米が海外で「集団的自衛権」を行使し、共同して戦闘行動をとるための軍事機密保全法である。そして「特定秘密」を指定できる領域が広範囲にかけられ、行政情報が隠蔽され、報道の自由・知る権利を破壊する悪法である。従って、この法案の成立は、憲法9条否定、主権在民、基本的人権の主要部分を破壊する、立法による実質的改憲となる。さらにこの法案は、警察による労働者民衆への監視体制を強化し、様々な反対運動を押さえ込み弾圧する稀代の悪法である。断じて、許してはならない。
 特定秘密保護法案は、世論調査で反対が過半数を占め、8割以上が慎重審議を求めている。また250人を越える憲法学者らも反対を表明、マスコミの中でもいくつかが社説で反対を表明している。
 それにもかかわらず安倍政権は、次第に反対が高まりつつある情勢で、みんなの党、日本維新の会を取り込み、早期に成立させようと画策した。そして十八日みんなの党と、二十日、日本維新の会と法案の一部修正で合意、強行採決に踏み切った。しかしながら、4党修正案は、修正とは名ばかりの改悪か、何の効果もない変更で、むしろアリバイ作りのための修正と考えるのが妥当だろう。
 例えば、「恣意的に秘密指定がなされる」危惧への修正では、第三者機関の設置を「検討」するとの条文が付則に盛り込まれたものの、検討であって約束された訳ではない。具体像も示されてはいない。
 さらに、「政府は毎年、特定秘密の指定と解除…を国会に報告し公表する」なる文言も、表現を強めただけで、安全保障を理由に政府が拒否できる仕組みは、手つかずのままになっている。つまり秘密の範囲が際限なく広がることは、修正されても何ら変わらない。首相が第三者的にチェックするという修正は、笑い話しである。
 また、秘密が指定され続ける恐れに対して「60年を超えることができない」と修正した。しかし、自衛隊の運用等7項目の例外の拡大解釈で、秘密が永久に指定される余地が残っている。4党修正案は、党利党略のためになされたものであって労働者民衆の利益とは無縁である。4党修正案によっても法案の本質・反動性はかわるものではない。

  秘密指定範囲が無限の悪法

 特定秘密保護法の問題は、まず秘密の範囲がきわめて曖昧で不明確であり、恣意的判断で際限なく広がっていくことにある。
 機密を漏らした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法は、27条の条文・付則・別表などで構成されている。そして別表に掲げられた防衛に関する事項、外交に関する事項、「特定有害活動」(スパイ活動など、と説明されているが曖昧)の防止に関する事項、テロリズムの防止に関する事項などの情報を「特定秘密」に指定できるとしている。さらに法は、「特定秘密」に該当するか否かを、各省庁大臣ら行政機関の長が決定するとしている。
 従って、行政機関の長が「特定秘密」と定めれば、防衛・外交・警察等に関する事項などは、すべて「特定秘密」にすることができる。
 その上、あいまいで漠然とした記述を用いれば、秘密の範囲は一層拡大することになる。
 例えば、「防衛」では、別表一のイに「自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究」、ロ「防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報」などと記述し、「運用」等の言葉を意図的に使用する。ここには自衛隊の活動を全面的に秘密にしようとする悪意が、透けて見える。
 また外交では、別表二のイに「外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち、国民の生命及び身体の保護、領域の保全、その他の安全保障に関する重要なもの」と記されている。これによるならば、日米安保条約関係の重要な情報は、すべて秘密とすることができる。「領域の保全」なる文言は曖昧である。TPP関係も当然、特定秘密に指定される。
 このように政府は「特定秘密の範囲は限定されている」と説明するが、実は政府の一存で指定され、意のままに広がっていく。
 そればかりではない。条文に散りばめられた「その他」の文字は、特定の範囲を無限に拡大することになる。
 例えば、外交のハ「その他の国際約束に基づき保護することが必要な情報」なる文言は、その前文が例示の意味しか持たなくなり、「必要な情報」の中身はいくらでも拡大解釈が可能になる。さらに、テロリズムに関する条文でも、前述の「防衛」のロ「その他の重要な情報」と同様に、曖昧な「重要な情報」と記し、特定秘密は際限なく拡大する。それらは、政府批判者への弾圧の手段ともなりうるにちがいない。特定秘密保護法は、秘密の指定を無限に拡大して処罰する悪法である。

  半永久的秘匿の特定秘密

 特定秘密法が稀代の悪法と呼ばれるゆえんは、隠された秘密が半永久的に秘匿されうるということにもよっている。そしてそれは、4党修正案によっても何ら変わらない。
 秘密保護法は、秘密指定の有効期間を原則5年と定めている。しかし、第四条2には「五年を超えない範囲内においてその有効期間を延長するものとする」と記述、次いで4では「内閣の承認を得た場合は、行政機関の長は当該指定の有効期間を、通じて30年を超えて延長することができる」と規定している。つまり承認を得れば三十年を超えても秘密指定を延長できることになる。
そして問題は「内閣の承認」である。閣議に一覧表が提出されても延長が必要か否かは判断できない。一つひとつ示されても膨大な内容を閣僚が精査できるかは、はなはだ疑わしい。実際は内閣官房の官僚が判断し、内閣自体のチェックはできない。従って、官僚にとって、責任を逃れるには半永久的に秘匿することがベストになる。また、できたとしても閣僚の恣意的判断が常にともなうことになる。
日本維新の会と与党の間での修正合意、「特定秘密の指定期間は原則60年以内、延長する例外明示」は、さらなる改悪であり、半永久的秘匿を可能にする余地を残している。
 そればかりではない。政府は「特定秘密指定解除後は廃棄や移管について公文書管理法の対象にする」としているが、そのこと自体大きな問題がある。公文書管理法では、保存期間満了後、情報は廃棄か公文書館に移管される。そして廃棄する場合は首相の同意を得なければならない。しかし実際には、わずか四十人余りの官僚が、年間百数十万点もの文書を処理している。文書公開の判断を誤れば、情報漏えいで罰せられる。となれば「捨てる」ことが最良の選択ということになる。現に、公文書管理法対象外の防衛秘密は防衛省内で判断され、防衛大臣の同意すら必要もなく、闇から闇へと処理されてきた。「特定秘密」は、現行法での防衛秘密と同様、公文書管理法の縛りを受けない。
 つまり、防衛省方式が全省に拡大、秘密は半永久的に開示されないと考えるのが妥当だ。

  厳罰で、知る権利・報道の自由奪う

 特定秘密保護法は、最高懲役10年の重罰で、公務員などに「秘密保護義務」を課している。
 二十三条1は「特定秘密の取り扱いの業務に従事する者が…漏らしたときは十年以下の懲役」と規定。そして2では「提供された特定秘密について…漏らしたときは五年以下の懲役」とし、「取り扱い業務に従事する者」、それ以外の「提供された秘密を漏らした者」に重罰主義で対応せんとしている。これには国会議員も含まれている。
そればかりではない。秘密保護法第二十四条1では、「特定秘密を保有する者の管理を害する行為により特定秘密を取得した者は十年以下の懲役」と定め、マスコミ関係者や労働者民衆にも対象を拡大している。しかも二十四条によって、既遂や未遂はもちろん、共謀・教唆・煽動も罰せられることになる。これは秘密に接近しようとする行為への事前処罰である。刑法の共謀は、犯罪の実行行為を必要とする。しかしこの法は前段の話し合いを共謀、呼び掛けを煽動とみなして弾圧し、実行行為がなくても罪に問われることになる。
刑法は強い拘束力を持つため、罪になる行為を明示せねばならない。けれど秘密保護法は、処罰範囲がどこまで拡大するか不明のため、刑法の原則を逸脱することになる。しかも「管理を害する行為」による取材は、取り締まりの対象と定め、管理を害する行為か否かの判断をも捜査当局が恣意的に行なえる。「害する行為」「著しく不当な方法」なる訳のわからない言葉で、労働者民衆が次々に陥れられるのだ。
 つまりこの法律は「特定秘密」を漏らした者だけでなく、ジャーナリストの取材活動や市民の情報公開要求など、「特定秘密」にアクセスする行為まで処罰の対象とする危険な代物である。
 処罰の対象は、市民のあらゆる行為にもおよび、家族・友人にも拡大しうる。ある日突然、身におぼえのない罪で逮捕されることも充分あり得る。何が秘密かさえ不明なのだ。知る権利・報道の自由を徹底して奪う悪法を許してはならない。

  明文改憲先取りの攻撃

 以上のように、特定秘密保護法は、取材の自由を奪い、報道の自由を徹底して奪う悪法である。
 そればかりではない。第五章適正評価第十二条は「行政機関の長は…その者が特定秘密の取り扱いの業務を行なった場合…漏らすおそれがないことについての評価を実施する」として、公務員や契約業者へのプライバシーの全面的審査を決めている。「適正評価」と称して、犯罪及び懲戒歴、情報の取り扱い非違の経歴、薬物濫用、精神疾患、飲酒の節度、信用状態などが掲げられ、本人のみならず家族さえも審査し、徹底的に調査しようとしている。
 これは、明らかにプライバシー侵害である。このように特定秘密保護法は、基本的人権をないがしろにする法律であり、絶対に許してはならない。
 また、この法律は、憲法の柱である主権在民にも違反する。特定秘密保護法は、情報を秘匿し、知ろうとする努力さえ厳罰に処そうとしている。それは、知る権利を奪うものであり、主権在民の原理にも反している。情報は、労働者民衆のものであり、それらをもとに、主権者として振る舞うことが可能になる。権力者が独占するものでは断じてない。
 さらに特定秘密保護法は、「特定秘密」に対して国会の調査権をも制限する。4党修正案は、このことをあいまいに記述しているが、特別委員会の質疑からも明白である。国会に「特定秘密」を提供する際には、非公開を要求、情報提供の範囲を限定、扱い方にも制限を加えている。そして、国会議員や職員らが秘密を漏らせば、処分の対象になる。特定秘密保護法はこのようにして外交・防衛等重要問題で、国会が政府を監視し、チェックする国政調査権を奪っている。また情報を持ち帰って党内で協議することも許されない。まさに主権在民をないがしろにする悪法である。
 さらに、特定秘密保護法は、国家安全保障会議(日本版NSC)設置法と一体のものとして提案され、集団的自衛権行使容認の前段として提案されている。つまり9条の否定である。秘密保護法は、基本的人権・主権在民・平和主義の憲法の柱を否定、明文改憲を先取りするものとして仕掛けられている。悪辣な攻撃である。

  大弾圧で戦争する国家を目指す

 特定秘密保護法は、地球の裏側でも戦争を可能にするために、軍事外交その他の情報を秘匿・監視し、反対運動を抑え込むための法である。つまり、集団的自衛権行使容認や国防軍派遣のための「法改正」には、反対運動を抑え込むことが求められる。秘密法、盗聴法、共通背番号法制の三法を活用し、反対する勢力、メンバーを尾行、会話を盗聴しての弾圧が可能になる。そのうえ特定秘密保護法は、前述のように共謀・教唆・煽動を罰し、未遂でも罪に陥れることができる。これを活用、市民運動やジャーナリスト等の大弾圧を目論んでいる。
そればかりではない。特定秘密保護法は、公安警察による監視体制の強化拡大、権限の拡大を可能にする。法律の別表4では「テロリズムによる被害の発生若しくは、拡大の防止のための措置・・・」を特定秘密と定めている。従ってテロ防止を名目に、警察による市民の監視が思う存分実施される。警察の日常的情報活動は、特定秘密に指定できる。つまり活動家ばかりでなく、労働者、民衆は常に監視され、ある日突然、警察の都合で罪に問われることが現実となる。

そればかりではない。ジャーナリストの青木氏は、「言葉遊びでなく、新たな『治安維持法』にもなりかねない」との懸念を表明している。
 特定秘密保護法廃案の闘いを一層拡大し、その闘いを続け、反動法を実質的に機能させないことが求められている。自公や、保身のために民主主義を売り渡し悪法の成立に加担するみんなの党などを追及し、闘争を強めよう。労働者民衆こそが、安倍政権を追いつめる主力である。(了)