八重山教科書問題
  文科省は竹富町への是正要求を撤回せよ
  是正要求は「教科書法」制定の先取り

 十月十八日、下村博文文科相は、沖縄・竹富町で使用している中学公民教科書をめぐり、最も強い措置である「是正要求」を行なった。それは、地域の自主性が重んじられるはずの教科書採択に国家が介入し、教育の中央統制強化・教科書法制定をねらった策動である。
 竹富町教育委員会は、同一採択地区・八重山地区内の石垣市、与那国町教委が採択している反動的な育鵬社版公民教科書を採択せず、東京書籍の公民教科書を採用している。これに対して文科省は、教科書無償措置法に違反しているとし、地方自治法に基づく是正要求をするよう沖縄県教委に指示したのである。これは、育鵬社版公民教科書の採択を、竹富町教委に強要する攻撃以外の何物でもない。
 地方教育行政法(地教行法)は、教育委員会の職務権限に「教科書や教材の取り扱いに関すること」と規定し、市町村それぞれの判断で教科書の選定ができるとしている。そのため文科省は、地教行法によらず、教科書無償措置法に依拠してこの暴挙を行なっている。「教科書採択地区が二つ以上の市町村の場合、地区内の市町村教委は協議して、同一の教科書を採択しなければならない」との規定を利用し、是正要求を行なっているのである。さらに下村文科相は、「地教行法を改正することが国の責務」などと傲慢にも表明している。
 安倍政権の教育再生実行会議「教科書検定のあり方特別部会」は今年六月二五日、中間報告を発表、教科書の定義・検定・採択を包括する「教科書法」の制定の意図を明確にした。それは、検定審議会委員を国会同意人事とすることの他、学習指導要領と教科書検定基準を詳細化し、教科書に共通に記載すべき事柄を文科大臣が指定する等、国定教科書化をねらい、中央集権的教育体制をめざす反動立法としか言いようのないものである。今回の「是正要求」は、教科書採択に国家が強権的に介入し、教科書法制定の先取りをねらう以外の何物でもない。

 非民主的手段で採択の育鵬社版

 2011年、育鵬社版教科書を支持する八重山採択地区協議会会長・石垣市教育長は、ルールや採択協議会メンバーを変更し非民主的やり口で、育鵬社版公民教科書を投票によって選定・答申した。このとき育鵬社公民教科書は、調査員から推薦さえされていなかった。しかし石垣市と与那国町の教委は、育鵬社公民を採択した。それは、保守色の強い首長の就任が影響している。
 与那国町長は、自衛隊を島内に誘致し、石垣市長は、「尖閣」の「実効支配」強化を政府に要求したことで知られる超反動である。それに対して竹富町教委は、調査報告で一番評価が高く、推薦されている東京書籍を採用した。教科書採択は、従来から教員らの調査員が推薦した教科書の中から採択する仕組みになっている。推薦リストに一切なかった育鵬社公民の採択は、イデオロギーを優先して現場を無視し、子どもたちをないがしろにした所業であり、決して許されるものではない。
 11年の9月8日、文科省とも連絡協議した沖縄県教委の指導助言で、3市町全教育委員による会議が持たれた。それは、同一採択地区での採択が分かれ、再協議でも一本化できなかったことによっている。
 この全体会議では、石垣、与那国の教育長が「再協議するのは不服」だとして退席する等、民主主義を踏みにじる暴挙に出たが、それに屈せず多数決で東京書籍を採択した。
 ところが石垣市教育長は、協議は無効だとして文科省に直訴、文科省は採択地区協議会の結果に従うよう通知した。
 竹富町は、通知に従わず、東京書籍を採用した。これに対して文科省は、12年度から石垣、与那国には育鵬社版を無償供与したにもかかわらず、竹富町には、東京書籍公民の無償供与を停止している。このため竹富町では、保護者や教員有志から寄付金を募り、購入した教科書を町に寄付し、12・13年度で五十冊を中学3年生に配布している。
 是正要求は、これら竹富町の人々の努力を踏みにじるように発せられている。下村文科相は、違法確認訴訟も辞さない考えを示している。しかし、竹富町に理があることは一目瞭然である。

 是正要求撤回、竹富町に無償供与を

 下村文科相は、「是正要求に従わなければ、国が自治体を訴える」との姿勢を示して、沖縄県と竹富町に恫喝を加えている。小自治体にとっては、訴訟費用の負担が重いことを見越しての発言である。
 しかし、これまで文科省は、地教行法23条6を根拠に、小中学校教科書の採択権限は各教育委員会にあると主張してきた。そして、11年の野田政権時に中川正春文科相は、「地方公共団体が自ら教科書を導入し、生徒に無償供与することまで法令上禁止されていない」(十月二六日)と述べ、竹富町の行為に何ら違法性がないことを認めている。
 それにもかかわらず、「無償措置法に違反している」、「違法状態を放置できない」なる文科相の発言は、経過を無視して意図的になされている。それは、権力による教育への不当介入以外の何物でもない。教育は、地域住民・教育労働者等の教育意志を尊重したものでなければならない。そして何よりも大切なのは、子ども一人ひとりを大切にした教育である。従って教科書採択に国家が強権的に介入し、是正要求をするなど言語道断である。下村文科相は是正要求を直ちに撤回し、竹富町に無償供与を実行すべきである。そして沖縄県教委が、3市町一本化のための協議をすすめることが望まれている。
 教科書をめぐる攻撃は、安倍政権の成立によって一段と激化し、東京、神奈川、埼玉、大阪と立て続けに、実教出版教科書などの採択に干渉せんとする攻撃が仕掛けられている。
 都教委は、六月定例教育委員会で、実教出版の「高校日本史A」「高校日本史B」を名指しして、「都立高等学校において使用することは適切でない」との見解を議決、圧力をかけた。その結果、選定は一校もなくなっている。実教出版が「日の丸・君が代」について、「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」というまさに真実を著したことが、反動勢力の攻撃に会った理由である。こうした一連の教科書攻撃は、八重山への干渉と同じタイミングで浮上している。
 これら「日の丸・君が代」強制、教科書内容への攻撃、育鵬社・自由社教科書採択支援などの教科書攻撃は、日本会議地方議員連盟など反動右翼勢力が仕掛けている。この地方議連などは地方議会に圧力をかけ、あるいは牛耳って反動教科書を採択させ、一方では首長に就任して暗躍している。地方議連は12年1128名、13年1371名と増加し、各地方で攻撃を強めている。
 教育労働者は、地域の父母・労働者市民と連携し、市民住民運動・労働運動とも連帯して、これらの攻撃を撃破することが求められている。「教科書法」制定先取りの攻撃に反撃し、安倍政権を早急に打倒しよう。(O)