自民、維新の反動改憲勢力を打倒する強大な共同戦線を
 憲法9条・96条改悪阻止の大闘争へ

 安倍首相は、自民党の「日本国憲法改正草案」(2012年4月)にもとづき、憲法改悪への動きをしだいに強めつつある。野党の「日本維新の会」も三月三十日の党大会で、極右・石原の古色蒼然とした「占領憲法」反対論に迎合する綱領を決定し、参院3分の2以上確保のため、自民党などとの野合を方針化した。
 5・3憲法記念日を前に憲法闘争の高揚を実現し、これら自民・維新の改憲反動勢力の打倒へ前進していかなければならない。以下、労働者共産党の同志が、自民党の目論みを改憲草案に沿って批判し、当面の闘争方向を提起してみた。(編集部) 

はじめに

 三月十七日、自民党は党大会を開催し、運動方針で「国民、領土、主権を守る姿勢を明確にするためにも、自主憲法制定にむけて取り組みを加速させていく」と、その姿勢を明記した。昨年十二月総選挙で改憲勢力が衆院3分の2以上を占める情勢のもと、憲法改悪阻止の闘いは、正念場を迎えている。
 自民党は、今日まで「改憲」を目論み、様々な攻撃を仕掛けてきた。しかし何度かの「改憲」のチャンスも参院選で3分の2を占めることができず、「改憲」策動が挫折している。自民党は、七月参院選で、日本維新の会等を含め改憲勢力3分の2以上の議席を獲得し、憲法改悪に着手せんと奔走している。
 そのために安倍政権は、「アベノミクス」なる経済政策を掲げ、株高を演出して個人投資家等の人気を煽りつつ、これまでは慎重な政権運営を行ってきた。
 この景気期待感によって安倍内閣の支持率は、発足時より高まり、三月実施の読売新聞調査にいたっては72%にも達している。数字の信頼性には疑問もあるが、憲法改悪の危機は高まっている。
 憲法改悪の当面の焦点は、日本国憲法第96条の改定である。96条は、「憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会がこれを発議し…。特別の国民投票又は…選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする」と定められている。
しかし自民党は、2012年「日本国憲法改正草案」の第10章改正・第百条で、「両議院のそれぞれ議員の過半数の賛成で国会が議決し、…国民の投票において、有効投票の過半数の賛成を必要とする」とし、そのハードルを下げている。小選挙区制のもとでは、過半数の獲得はむずかしいことではない。その上、国民投票を有効投票の過半数とするならば、十二月総選挙のように投票率が6割を切れば、わずか3割に満たない賛成で決まってしまうことになる。憲法改悪が簡単にできるよう自民党は画策している。
 自民党の改憲戦略は、まず解釈改憲によって集団的自衛権の行使を可能にし、次いで第96条を改定、そして基本的人権を形骸化させるための改憲を繰り返し、第9条改悪へと攻め上る計画である。幾度も憲法を変え、国民を馴れさせ、その関心をそらして、最大のねらい9条改悪へと突き進むシナリオである。段取りは情勢の変化で、変更されることも充分ありうる。
 憲法改悪反対の労働者・市民の闘いを拡大し、当面民主的左翼的な「第三極」を形成して、改悪阻止とりわけ9条改悪阻止の闘いを広範に組織することが求められている。

平和主義を否定

 自民党「日本国憲法改正草案」(以下改憲草案)は、@平和主義の否定・「戦争のできる国家体制づくり」、A保守的・復古的改憲、B基本的人権の形骸化、C立憲主義の形骸化を主な内容にしている。
 その中でも、9条改悪がその中心になっていることは言うまでもない。
 日本国憲法第9条は第2項で、「陸海空軍その他の勢力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と述べている。しかし改憲草案は第2項を削除し、「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」と書きかえている。現在の政府解釈が集団自衛権を違憲とするのは、戦力の不保持と交戦権の否認を定めた9条第2項があるためである。2項の削除と書きかえは、集団的自衛権の行使を可能にするばかりでなく、自衛のための戦争を名目としてあらゆる戦争が可能になることを意味している。
さらに改憲草案は、9条の2項を新設して「国防軍」の設置や2項の5番目に軍事裁判所の設置を定めている。自衛隊が「国防軍」に変わることは、国家・国益を優先する軍隊として機能する危険性を有している。軍規違反の事件が通常裁判所の管轄に属するものであれば、「国防軍」が軍隊として機能することはむずかしい。軍事上の秘密を守り、軍として機能するための軍事裁判を実施することが求められる。大日本帝国憲法の下では、特別裁判所として軍法会議が設けられた。改憲草案はこれにならい、「国防軍に審判所を置く」と定めている。
 そのうえ改憲草案は第9条3項で、「主権と独立を守るため、国民と協力して領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない」と定め、領土保全に関する国民の責務を規定し、徴兵制をも想定している。
 そればかりではない、改憲草案は緊急事態条項を新たな章(9章)として設け、98・99条として規定している。それは、侵略。テロ・災害、内乱、政治スト等の際、国民の遵守義務を定め、基本的人権と民主主義の制限・剥奪をねらい、国家の指示のもとに国民を動員する内容になっている。「大規模な自然災害」を掲げ、東日本大震災に便乗して改悪するやり方は、きわめて悪辣である。

保守的復古的な改憲

 保守的復古的改憲については特徴的なものとして、改憲草案第1条天皇の「元首化」と第6条5項天皇の「公的行為」の明文化等があげられる。第6条5項は、国や地方自治体が「主催する式典への出席を行う」として「天皇外交」などを憲法上根拠付けている。つまり条文は、天皇の国事行為拡大をねらっている。これらは1950年代の復古主義改憲論と共通する内容であり、皇国史観を正当化しようとするものである。
 また第3条国旗・国歌や第4条元号の規定も、保守的復古的改憲にあたる。改憲草案第3条2項は、「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」と定め、国旗国歌法改定により、生徒・保護者さえも起立し斉唱することを義務付けられる。これらは、国民の精神的よりどころとして愛国心等を画一的に押しつけ、ナショナリズムを国家主義的に強化することをねらっている。

基本的人権を形骸化

 基本的人権の形骸化では、改憲草案21条2項結社の自由の制約、28条2項公務員の労働基本権の制限などが上げられる。そして第12条では、日本国憲法第12条を改定して、国民は憲法上の自由・権利を「濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」と変更する。日本国憲法の「公共の福祉」に代えての「公益」とは、国家や大企業の利益、社会全体の利益を意味し、「公の秩序」とは、国家の定める秩序に服従することを意味する。基本的人権の行使を徹底的に制限し形骸化させるものである。「Q&A」は、「公共の福祉」は「意味が曖昧で分かりにくい」ので「公益・公の秩序」に変えたと主張するが、欺くために意図的に変えたことは明白である。
 さらに日本国憲法第13条での「個人として尊重される」の条文を、改憲草案13条は「人として尊重される」として、個人を人に書きかえている。日本国憲法第13条に定められた「個人の尊重」規定は、身分制的社会秩序から解放された「人一般としての個人」、「自由な意志を有する自律的主体としての個人」が基本的人権の主体という考え方に基づいている。しかし改憲草案での「人の尊重」が意味するものは、「聖徳太子以来の我が国の徳性である和の精神」をもって、他人に迷惑をかけない「人の尊重」であり、ひたすら大勢に順応する人としての尊重なのである。改憲草案は、保守的復古的価値観を持ち出して、基本的人権を形骸化せんとする。

立憲主義の否定

 さらに改憲草案は、憲法が諸個人の基本的人権を守るため、国家権力を規制するという近代立憲主義の立場と、真っ向から対立している。日本国憲法は、基本的人権を守るために改正が困難な「硬性憲法」として作られ、前述の96条には、改憲にとって高いハードルが設けられている。しかも近年、グローバルなレベルで「立憲主義の復権・興隆」を観察することができ、改憲草案は、国際的な憲法動向にも逆行するものとして提示されている。
 日本国憲法第99条は、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と定めている。これは、立憲主義に基づく憲法を設けることで国家権力を抑制し、国民の自由を確保しようとしたものであり、国民は憲法を「尊重」する「義務」を負わず、公務員等に対して尊重し擁護することを要求する条文として掲げられている。
 従って改憲草案102条「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」とする条文は、明らかに立憲主義を否定し形骸化するものであって、前近代的憲法ということになる。
 しかも102条2項では、「国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う」と定め、天皇と摂政を憲法擁護対象から外している。天皇等は、憲法に縛られることなく、憲法のその上に立つということになる。
 我々は、改正手続第96条の改悪について、9条改悪の外堀を埋めるものとして反対するだけではなく、立憲主義に反するものとして、それ自身に反対する必要がある。

改憲攻撃は全面的

 憲法9条を始めとする「改憲」にむけての攻撃は、日本資本主義の新自由主義路線とグローバリーゼーションへの本格的な参入、という情勢のもとで仕掛けられている。
つまり、日本資本主義の本格的多国籍企業としての活動を政治的・軍事的に保障するために、9条改悪が主張されている。さらに新自由主義政策を担い発展させていくためには、日本人の精神的支えとして「日本人のアイデンティティー」が求められている。これを国家が決定し、労働者大衆に画一的に押しつけようと、憲法改悪が画策されている。また市場原理主義を徹底させるために、基本的人権の制限や国家が求める「公的秩序」の押しつけを行おうとしている。そのために支配層は、「日本近代の栄光」や天皇制国家の歴史などに支えられたナショナリズムで、自信喪失を回復させるなど、反動的な取り組みも様々に画策している。
そして、新自由主義の「構造改革」は、既存の社会秩序を崩壊させ、階級矛盾の激化と社会の不安定化をもたらす。そのため従来と異なる社会統合の方策が求められるが、その基本骨格を憲法に定めようとする指向である。新たな社会統合策は、一部の特権層を体制内に取り込み、他方圧倒的多数に対しては、治安対策強化で対処する傾向である。
 憲法改悪は9条改悪が主眼であるが、新自由主義の進展を背景に、「全面改悪」の攻撃となることを見ておく必要がある。

国民的大闘争へ

 改憲草案は、日本国憲法第9条第2項を削除・書きかえ、自衛隊を「国防軍」として憲法に明記して「戦争のできる国家」を完成させ、アメリカ帝国主義の世界支配に協調し、日本帝国主義の権益を維持拡大しようとの目論みで起草されている。それは、天皇元首の明記で天皇制を強化し、国家主義的「公共」観によって民主的権利を抑圧する等、反動的な代物である。自民党等改憲勢力は、9条改悪を主眼として結集し、当面96条改悪をねらって奔走している。
 労働者市民は、9条改悪阻止を中心に一致できるすべての諸政党・諸勢力と団結し、改憲阻止の地域闘争を拡大することが求められている。そして当面の焦点が96条改悪にあることをふまえ、参院選やそれ以降に渡っても、運動を拡大し、全国的な改憲阻止の統一戦線を形成し、国会前を労働者市民で埋め尽くす大衆運動の高揚をつくり出すことが求められる。
 我が党は、戦力不保持・交戦権否認を特長とする日本国憲法の平和主義を、社会主義的に継承・発展するという政策を掲げている(03年・憲法決議)。
党は日本革命の勝利によって、「軍隊なき社会主義国家」の樹立をめざし、常備軍廃止、自衛隊解体、全人民武装を伴う労働者大衆の自治を目標に活動する。
 また、憲法改悪阻止の闘いは、現行憲法が規定する民主主義的諸権利の完全な実現を求めるなど、民主主義闘争としての意義をもっている。
 従って我が党は、労働者市民と共に、9条改悪阻止の闘いを中心とした改悪阻止の闘争を全力で闘い抜く、そして「第三極」の政治勢力を労働者市民と共に実現し、勝利する。共に闘わん!(O)